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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
5/52

005

 

 私はあれから三日間、寝床を変えながら自分の身体能力や魔法の性能を確認していた。

 

 お父さんの記憶から、自分が亜人と呼ばれる種族、その中でも恐らく犬の獣人だろうと考えている。

 犬の獣人は、特に疾さ、嗅覚に特化していて、単純な筋力や聴覚も人間より少し上だ。私に至っては元々の身体能力に加え、お父さん達の力も上乗せしているので、相手が魔人でもない限りは遅れを取らないだろうと思う。

 

 ちなみに種族による性能の違いとして、人間は特化したものは無く全ての値が平均的なのだが、他三種族より伸び代がとても大きく、当人の努力で何かに特化することが出来る。獣人は高い身体能力に加え五感のどこかが特化されているが、魔法がほぼ使えない。森人はそんな獣人とは真逆で魔法に特化しているものの、身体能力が底く体力も少ない。最後の魔人は、五感の特化は無いものの、魔法や身体能力のどちらも高水準で備えている化物種族だ。

 

 その中で私は獣人の長所である身体能力を、身体強化を使えば引き伸ばせることを確認出来ていた。流す魔力量によって調整可能なその力は、元々の身体能力を何倍にも強化が出来る。

 

 今までは殺されたり犯されたりされない様、隠れて生活をしていた私だったが、獣人の性能や魔法を理解した上に、他人の血肉から得た性能も加わった事により、ここでの生活に怯える必要はなくなっていた。

 

 そして現在、私は壁から出る計画を進める為、人集めに奔走していた。

 身体強化の魔法を扱うのに慣れる為、一割程度の魔力を流しながらの疾走だ。路地などは建物が邪魔で走りにくかったので、すぐに屋根伝いに走ることを選んだ。

 使っている内にわかった事だが、この魔法は大変燃費が良い。放出していないからか、少しずつ身体に溶けて消えていく感覚がする。私の魔力量で見れば二、三時間は使っていても枯渇する事はなさそうだろう。

 

 身体の感覚を確かめるように疾走してると、やっと探していた、人の気配を感じた。

 足音から数は三人。恐らく匂いからして人間だろう。まぁ人間以外の匂いはまだ知らないのだけど……

 

 気配を捉えた私は、建物に着地すると身を翻して進む方向を変え、その気配の元へと疾走する。徐々に近づく気配を感じていると、やがて感じた通り三人の男が徘徊しているのが見えた。

 屋根から見下ろしながら男達を観察する。一人の男を先頭に、二人の男が左右と後方を警戒している様だった。

 

 このまま目の前に出て行った場合、恐らく三人がかりで私を捕まえようとするだろう。仲間の所へ案内して欲しいといっても、話し合いにならない可能性が高い。

 ――となると、三人も要らないわね。

 

 考えが纏まった私は、足場にしていた屋根から静かに飛び降り、後方を警戒している男の目の前に降り立った。男も突然目の前に人が降って来るとは思わなかったのだろう。驚いた表情で固まった男の胸目掛け、無言で拳を突き出す。

 

「……は?」

 

 突き出した腕は、簡単に男の胸を貫いてしまった。

 私は男の間の抜けた声を聞きながら、素早く腕を引き戻す。それと同時に強化した脚力で、もう一人の男の側面へ移動し、少し力を弱めて頭目掛けて横薙ぎに払う。

 

「ぶふぁっ!?」

 

 私の裏拳が男の頭を捉えると、ボールのように頭が身体から千切れて離れた。二人を一瞬で始末した私は、先頭を歩いていた男が振り返るのが見えたので、高く飛び上がり、二階建ての建物の屋根へと避難して見下ろす。

 

「ん? お前らどうかし――はぁぁああ!?」

 

 残った男は仲間達の声に気づいて振り返ると、あまりの光景に声を上げて驚いていた。

 それもそうだろう。一緒に歩いていた仲間が死んでいるのだから。

 男は「なんで? なにが?」など呟きつつ、周りをきょろきょろと見渡している。

 

 そんな男の様子を尻目に、今回の戦闘での成果を確認していた。

 

 拍子抜け。

 これが抱いた感想であった。

 身体強化をしての戦闘は初めてだったので、一割の魔力を通した状態でどこまで威力なのかを見たかったのだが……

 

「脆過ぎね、これなら素の身体性能だけでも余裕があるわ。……さて、残った人に招待して貰おうかしら」

 

 そう小さく呟いた私は、男に見つからない様に少し離れ、建物の影へ降り立つ。

 そこで少し表情を整えてから、男に気づかれる様に足音を立てて近づいていく。

 

「な、なんだ。なんだんだ!?」

 

 私の存在に気が付いた男は、私に向かって叫んでいる。まだこの状況に混乱しているみたいだ。

 

「あ、あの!」

「てめぇがやったのか!? なんて事をしやがる!」

 

 あ、あれ?

 私が思った反応と違う。

 てっきり助けを求めてきたり、逆に襲いかかってくると思ったのだが……。

 

 男はしきりに叫びながら、私の右手を指差している。なんで右手?

 

「あ」

 

 視線を右手に向けてやっとわかった。さっき別の男の胸を貫いてしまったとき、血がべっとりとついたままだった。っち……目敏い。

 とりあえず仕切り直ししないといけない。右手は後ろに隠しておこう。

 

「な、なに?」

「その血だよ! それとこの状況を見て何も思わないのか!?」

「あ、あっちの方で死体を漁ってたの……。状況って、えっと、死体はここだとよく見るの」

「そ、そうか……? それもそう、なのか?」

 

 ふぅ、なんとか納得して貰えた様だ。

 この男まで殺してしまっては、また人を探さなければならない。あまり時間を浪費したくなかった私は、何とかこの男の説得を続ける。

 

「うん! それでね? 私は壁の外に出た――」

「――あぁ!? 壁ぇ? そんな事より俺と遊ばねぇか?」

 

 私が話しかけると、男はいまの状況を理解したのか、私の言葉を遮って、強気に出てきた。

 遮ってまで言った言葉の内容にもイラっときたが、何とか我慢する。ここにきて無駄足になるのは面倒だ。

 それにしても不思議なのは、いくら私が女だと言ってもまだ年齢的に子供だと思うのだが、ここの男達は揃ってそういう目をして見てくる。女の数が少ないからだろうか。まぁ理由がわかっても不快である事には変わらないのだが。

 

「……え、えっと、ここでその二人が殺されたのに、そんな危ない所で遊ぶの?」

「そ、そうだったな、よし! 俺の仲間の所へ案内してやるから、しっかり付いて来い」

「わっ、ありがとうなの! そこで壁の外に出るお話をするの!」

 

 色々と我慢しつつ、やっと男が案内してくれそうなので、それについていく事にする。道中隣を歩かされ、粘っこい視線を向けられ気分が悪かったが、目的の為にと重ねて我慢をする。

 

 

 

 

 拠点は男と出会った場所からそこまで離れておらず、歩いてそこまで時間を掛ける事無く、あっさりと到着した。

 

「ここが俺達の家だ、今日からお前もここが家だぞ」

 

 僅かな時間ではあったが、私にとっては苦痛で苦痛で仕方なかった。

 ふーっと息を吐いて心を落ち着けつつ、改めて建物を見ると、どこにでもある様な廃墟であった。男に連れられるまま中へ入ると、男の他に五人の男が目に入る。

 

「……えっ? これだけ、なの?」

 

 私が期待していたのはもっと大人数であり、二、三十人くらいはいるかと考えていた。だがここにいるのはこの五人だけ、周囲の音を拾ってみると、別の部屋に二人の人間がいる事がわかったが、それでもたった七人だ。

 私自身これまで独りでいたので、普通の集団がどの程度の人数がいるものかは知らなかったのだが、期待が大きく外れたので落胆も大きい。

 肩を落としつつ、ここまで案内役をした男へ、僅かな期待を篭めて質問してみるが……

 

「あの、ここの他に仲間はいるの?」

「今日二人死んだから、今いる七人と、お前で八人目だ」

「は? おい、一緒にいったやつらは死んだのか!? 何があったんだ!!」

 

 やはりこれで全員らしい。しかも何やら騒がしくなってしまった。

 それまで私の体をジロジロと見ていた男達の内一人が過剰に反応し、釣られて残り四人の視線も、案内役の男に向いた。

 

「え? あぁそれがよ、突然二人とも胸に穴開けたり、頭吹っ飛んだりとしてたから、正直俺にもさっぱりわからなくてな……」

「いや、いやいやいやいや、お前は何を言っているんだ? 突然何も無くそんな事になる訳がないだろう? 俺をからかってるのか!?」

「それが本当なんだって! なぁ、お前も見たよな!?」

 

 疑われて必死になった男が私へ弁解を求めてきた。

 私と出会ったタイミングだと、死体は見れても殺され方まではわからないと思うが……。

 まぁ良い。そろそろ私も我慢が限界なので、溜息を吐きつつ素に戻った。

 

「……もう面倒ね。私は私で本題を持ってここに来たのよ? 今更そんな事どうでもいい」

「は? てめぇなにいって……?」

「はぁー。個人的な感情もあったとはいえ、二人も殺したのは失敗だったかしらね。最初に見つけたのが、まさかこんなに少ない集団だなんて」

 

 私は呟きつつ、さっさと処理した二人について思い返す。

 確かにあの時は話し合いにならないと考えて即座に殺した。しかし実の所、お父さんの妻娘の死体を犯されていた件もあり、その時の怒りによって、無意識に男の相手を殺しても良い理由を探していたのかもしれないと、少し反省をする。

 

 私が反省をしている間、案内役をした男は後ずさりをしていたが、その他五人の男達は私の言葉に意を返さず、ジリジリと詰め寄ろうとしている。

 

「おいおい嬢ちゃん。あんたは俺らの仲間になりに来たんだよな?」

「もっとマシな嘘をつけよな! くくっ、本当は怖くなって、逃げだしたいんだろ?」

「ははっ! あんまり震えさせても可哀想だし、さっそく仲間として可愛がってやるよ」

 

 軽口を叩いてくる男達へ目を向けつつ、さらに人数を減らす事になりそうだと、自分の行動に心の中で溜息を吐く。

 ここに来る前の検証で、既に身体強化までする必要がない事をわかっているので、男達の出方を見つつ自然体で待つ。

 その時ドアを蹴破るようにして、二人の人間が入ってきた。

 

「っるせぇな! 気分が下がるじゃねぇか! なぁ?」

 

 入ってきた男へ目を向けると、私の二倍はありそうな巨体があった。他の男たちよりも鍛えているのか、結構筋肉もついているようで、目元が鋭く威圧的であった。

 そしてそんな男の後ろから、布切れを体に巻いて、手で落ちないよう押さえている女がついて出てきた。どちらも見た目から二十代中盤辺りだと思われる。格好からすると事後みたいだったが、匂いからはそういったものを感じない。二人で何をしていたのだろうか。

 

「そ、それが、この嬢ちゃんが俺らの仲間二人を殺したって言ってよ」

「あぁ!?」

 

 先程まで軽口を叩いていた男の態度が一変しており、ここでの力関係を把握する。

 後から女を連れて出てきたのが親玉だろう。これで全員顔を合わせたので、やっと話が出来ると思った私は、自己紹介とここへ来た目的を簡潔に伝えてあげる。

 

「皆さんこんにちわ、私はエリスよ。ここへは勧誘しにきたの。化物に殺されてしまう前に、みんなで壁の外へ出ましょ」

「……」

 

 言葉を選んで友好的にいったのだが、反応はあまり芳しく無いようだ。わざわざにこやかな表情を作って話しかけているのだから、少しは反応して欲しい。

 そう思っていると、親玉の男は噴出して喋り始めた。

 

「……っぷ。殺されるぅ? 俺達が怖くてそんな事いってんのか? 大丈夫だって、こいつも最初は怖がっていたが、今ではしっかりと女になったぜ? ガハハハ!」

 

 男は下品な笑い声とともに女を抱き寄せる。同じ反応しか返さない男達に嫌気が差してきたので、にこやかだった表情を消して、溜息混じりに吐き捨てる。

 

「……はぁ。予想していた以上に、この場所の在り方を理解していないクズばかりね」

「あぁ!? いい加減しつこいんだよ!」

「あーあ。おい、顔は止めとけよ」

「……はぁ、不本意だけれども、やっぱり一人は必要かしらね」

 

 私の言葉で、一番近くにいた男は頭に血を上らせ、殴りかかってきた。その動きはあまりにも遅い。軽く体を後ろに引いて避け、空を切った男の腕へ直角に手刀を振る。私の手刀は男の手首を捉え、男の手首は宙を舞った。

 

「あ、あぁぁぁああああああ!?」

 

 遅いし脆い。弱すぎる。

 恐らくあのまま殴られても、大した怪我や痛みは無かっただろう。

 この程度の実力しかない男達で、本当に戦力になるのかと不安になってくる。

 だけど一人に対して三人、五人と増やせばなんとか足止めくらいには使えるだろう。

 

 とりあえず当面の害意は無力化したので、他の男たちの様子を見てみると、男達は青い顔をして驚いており、男達の親玉も口を大きく開いたまま固まっていた。その後ろにいる女も、布切れを手で押さえる事すら忘れ、バサリと落ちた布着れに気づかずこちらを見ていた。

 

「あ、あぁぁあっ! あぁぁぁあああああああ!!?」

 

 そんな誰も動かない中で、男の声だけが響き渡る。

 

「うるっさいわね! はぁ……さて、話を聞く気になった? それとも」

「き、聞こう!」

「そう。わかってくれて嬉しいわ」

 

 親玉がやっと復活したようで、色良い返事を返してくれた。

 やっと会話が出来る事に安堵した私は、手に付いた血を近くにあった布で拭いながら、叫んでいる男が静かになるのを待つ事にした。

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