044
「へー」
私がそう言った後のヘルの反応は、そんなどうでも良さそうな生返事だった。
まぁそれも仕方が無いか。
ヘルから見れば彼女は初対面で、加えて恐らくは密かに楽しみにしていた玩具を取った相手なのだ。きっと反応の通りどうでも良いのだろう。
だが私から見れば少しだけ違う。ぶつかって怪我させられた相手ではあるものの、食事をごちそうになったし、話していて対等に接してくれた数少ない知り合いなのだ。そんな貴重な人材を、この程度の事で失ってしまうのは惜しいと感じてしまった。
それに感情を見てみれば、実に馬鹿馬鹿しい。
マルギットも魔物との実力差に気づいているみたいなのだが、それで焦燥感を感じるどころか、諦念さえ抱いていた。
加えて自身の命を諦めているクセに私達は逃がそうと画策しているみたいで、さっきからし頻りに私達の姿を探している。だが私達が上空でふらふら漂っているとは考えも付かないのだろう、案の定見つけられないみたいだ。
さて、どういった思考でその様な結論になっているのかは不明だが、このまま死なれても後味が悪い。
強制的に介入すればどうとでもなるのだが、それだと後々文句を言われそうで面倒臭いし……とりあえず彼女が音を上げるまではこうして見ているのが最善か。
私はそう決め込むと、ヘルにナイフを操作して貰い、ヘルの足からそのナイフに飛び移ると、そのまま静観を続ける事にした。
だめだ、手に負えない。これが三級指定の魔物の強さなのか。
こちらの攻撃では致命傷を負わせることが出来ず、逆に相手の攻撃一つ一つが身近に死を感じる。
「はぁ、ふぅ……」
息も徐々に乱れてきており、疲労で体も重くなってきた。これはいよいよ不味いかもしれない。
何とか一緒に来た二人だけでも逃がそうと思い、先程から視線で居場所を探っているのだが一向に見つからず、嫌な想像ばかりを駆り立てられてしまう。
さらに入ってきた入り口の方を見てみれば、どうやら敵も私達を逃す気は無い様で、いつの間にか根の様なものが密集して塞がれてしまっていた。あの二人も先に脱出出来ていない限り、この後の私と同じ運命を辿ってしまうだろう。
「……兄様」
つい弱気になってしまい、思わず言葉が漏れてしまった。
……分かっている筈だ。いくら兄様に助けを希おうと、絶対に来ない。数年前の討伐依頼で、私や他の人を逃がして自分が犠牲になったのだ。
あの時から私は、兄様の様に強く、そして弱者に手を差し救い上げる事が出来る人になりたかった。
今回の依頼だって、ただ三級へ昇格する為の実践を積む為だけでは無い。人々の脅威となる魔物を討伐して、皆を安心させてやりたかったのだ。
だが現実では、これだ。
一緒に来た二人の子供すら守る事も出来ず、このままでは私もただ無意味に朽ち果てるだけだ。それならばいっその事、持てる力を全て使ってしまおう。
「……ヘルムトラウト達! 無事かっ!? 今から私が出口の根を何とかする! それを見たらすぐに逃げろ!」
私は生きていると信じて二人に呼びかけると、すぐに出口へと向かう。
地面から突き出してくる根を掻い潜り、攻撃も一切放棄して進もうとしているのだが、まるで魔物は私の言葉を理解しているかの様に出口への進行を妨害してくる。
「邪魔をするな! くそっ!」
地面から出てきた根はそのまま上や前後左右と襲ってくる。それを私は何とか回避し、剣で切り捨てながらも出口へと退こうとするのだが、纏めて出されてしまえば切断する事は難しく、進行方向を変えざるを得ない。
結果として少し進めばすぐに魔物がいる方へ押し返されてしまい、戻る事すら出来なかった。
「くっ! このままでは、ふっ!」
そして押し返されてしまえば、今度は魔物の手が届く範囲だ。そうなれば、魔物は根の攻撃に加えて、手も使ってくるだろう。
押し寄せてくる根を斬りながら魔物へと注意を向けてみると、既に持っていた武器は壊れてしまったのか、大鎌以外を捨てていた。そうして無手になった手を握り締め、私に向かって突き出してくる。
「この距離は不味い……!」
拳の大きさは私の体以上なので、まるで壁が迫ってくるように感じる。それにこの腕には剣が通らなかった為、私には回避以外に手段が無い。
私は何とか大きく地を蹴って横に跳ぶ事により、回避に成功した。そして根の追撃に備え、空中で剣を構えるが……。
「ウウウゥゥゥ……」
ここで初めて魔物が声らしき声を上げたかと思うと、いつの間にか一番下の腕に持っていた大鎌を振りかざしていた。
そしてそのまま、私目掛けて振り下ろされる。
「くっ!」
咄嗟に剣を盾にして凌ごうとしたが、振りぬかれた大鎌は、私の剣や体に何の衝撃も与えず通過していった。
「? うぐっ!? ……一体どうなっている?」
私は剣を構えた体勢のまま地面に倒れこみ、自分の剣や体を見てみるが斬られた跡がない。
わけの分からないまま、すぐに追撃へと備え立ち上がろうと足に力を篭める、だが――
「なん、だ?」
――足に力が入らない。
いや、力が入らないというよりも、下半身が自分のもので無いみたいに、全く感覚が無い。
そうして冷静になって周りを見てみれば、先程まであれだけ激しくあった根からの攻撃もピタリと止み、代わりにうじゃうじゃと私を取り囲み始めていた。
「あぁ、そういう事か」
私は理解した。
恐らく先程の大鎌での一撃、あれで私は魔物から見て、敵から餌に変わったのだろう。もうヤツにとってはただの食事としか感じていないのかもしれない。
口惜しいが、もしかすると初めから私は生きの良い餌としか見られていなかったのかもしれない。ヤツから受けた攻撃はほとんど私が避けられるものだけであった。つまりは、この仕上げの為にここまで動かされていただけなのかもしれない。
「どうにかして、せめてあの二人だけでも……」
そう呟いて何とか立ち上がろうとするが、どうしても言う事を聞いてくれない。
こうしている間にも私の体に根のようなものがゆっくりと絡み付き、服の中へと入ってくる。
ふと魔物の方を見てみれば、魔物が地に繋がっている根の部位がうねうねと動き始め、中の様子が映る。
そこには恐らく先に来た冒険者達だと思われる躯が数体有り、どの死体も全裸で、骨と皮の中間位の様な見た目になっていた。
「うぁ…ぁ……」
「……あぁ、う」
最悪な事に、中で肥料となっている人たちには、まだ息があるようだ。もしかすると先程の魔物の声は、中にいる者達の叫び声なのかもしれない。
私もこのまま彼らと同じになってしまうのだろうと思うと、考えただけでぞっとする。
「や、やめろ! 離せ!」
まだ自由に動く手を振り回し、なんとかこの気持ちの悪いものを剥がそうとするが、すぐに別の根に手を絡め取られてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
ここにきてやっと、私の中で恐怖心が暴れだす。
「い、嫌だ!」
動けない事が、ここまで怖いなんて知らなかった。
死ぬという事が、ここまで恐ろしいなんて知らなかった。
……強いものが、こんなにも化物だなんて思わなかった。
私の頭の中は恐怖で一杯になり、無駄な抵抗である事は理解しつつも、無様にもがく。
しかし、私を押さえつけている何本もの根がそれをガッチリ固定して、出来る事と言えば目を閉じて叫ぶ事だけだった。
「嫌だ離して! 止めて脱がさないで、引っ張らないでいやいや嫌あぁぁ!」
もはや恥や外聞を気にする事も出来なくなり、子供の様に喚いて現実を否定する。
だが私がそうしている間にもぶちぶちと衣服を破り捨てられていき、服を剥ぎ終えた後はゆっくりと根の中へと引っ張りこまれていく。
あそこに入ってしまえば終わりだ。私はそう直感する。
「……いや、助けて、兄様……」
もう何も考えられなくなり、最後にまた兄様に縋ってしまった。
だかそれを情けないと思う気力はもう私に無く、抵抗する気さえ起きない。
そんな時、突然近くの前方で大きな音が鳴り響く。
私はさらに恐ろしくなり、閉じていた目にぎゅっと力をいれるが、私自身には何も起こらなかった。
「はぁ、本当……見てられないわね」
「……え?」
そう柔らかな声が聞こえてきたと同時に、体を拘束していた抵抗が弱まる。
私は恐る恐るゆっくりと目を開けると……一緒にここまでやって来ていた一人が、目の前に立っていた。
「酷い格好ね。仕方が無いから、ここからは交代よ」
そう言いながらローブとお面を外し、長い白亜の髪が広がる。その光景は幻想的で、不思議とこれまでの不安や恐怖、焦燥感を取り除くほど気持ちが安らいだ。
そしてそこにはいつしか見覚えのあった、優しく微笑み掛ける白髪の女の子がいた。
あーもう、助けたは良いけれども、お面まで外す必要は無かったかしら。
でもここには女の子だけしかいないとは言え、いつまでも裸で泣き顔は不味いだろう。それにお面だけ付けていたとしても、服装や髪で気づくだろうし、あまり関係無いか。
はぁ、せっかく武器をバレにくくして喋らずにいたのに、自分から正体を見せる何て私も馬鹿なのかもしれない。お面なんてただの内緒話にしか役に立っていないし……。
でも一度でも親しく言葉を交わした相手をみすみす死なせる訳にもいかないので、これは仕様がない。うん、後でマルギットの口を塞ぐか、テスラへの言い訳を考えておこう。
「ほら、何をしているのよ。早くこれを着て、隅の方に逃げてなさい」
そんな事を考えながらマルギットを見るが、せっかく正体を明かしてまで渡している物品を受け取らずに固まっている。後半何やら叫んでいたし、よっぽど恐かったのかもしれない。
「えぇと、大丈夫かしら?」
「あ、え? エリスか!? 何で!?」
マルギットは私に気づくと、大きな声を上げて手を伸ばしてくる……が、なぜかそのまま前のめりに倒れてしまった。
いそいそと手の力で起き上がってくる彼女に視線を向けつつ、純粋な質問をしてみる。
「何をしているのよ」
「う、すまない……さっきあの大鎌で切られてから、全く下半身が言う事を聞かないのだ」
「ふーん、だから粗相しちゃってるのね」
私がそう言って徐々に視線を下げていくと、彼女も気が付いた様で一気に顔が赤くなる。
「いや違っ! ……わない」
マルギットは言葉を一瞬止めるが、恐らく恐怖で漏らしてしまったとは言い辛かったのだろう。そのまま私の言葉を肯定した。
私はその様子を少し眺めたくなったものの、今こうして話をしているのは魔物の目の前である。外野からくる根はヘルに対応して貰っているので少しだけ会話の時間を作れたが、そろそろ本体も動くだろうし、地面からも根の気配を感じる。
「はぁ、もう仕方が無いわね、っと」
マルギットがこんな状態なので、正直あまり気は進まないのだが……彼女に着ていたローブを投げ渡すと、すぐに彼女の後ろへ周って肩と膝下から持ち上げる。
そのまま少し距離を取るようにして跳ぶと、間一髪で魔物の振り切った大鎌の範囲から脱する。そして片足で着地をすると、突然腕の中にいるマルギットが騒ぎ出した。
「え? 少し待て! その辺で良いから放り投げてくれないか!?」
「……何を言っているのよ。さっきの魔物の中にいた人達の仲間入りするつもり?」
「う、だがお前よりも背丈がある私を抱えていては、満足に動けないだろう? それに今、その、汚いし……」
「はぁ、もう……そういうもの全部含めて助ける事に決めたのよ。分かったらアナタは少し静かにしていなさい」
「わ、わかった」
「大丈夫よ安心して、すぐに終わらせるから」
マルギットは納得してくれたようで、顔を俯けて目をぎゅっと閉じる。ふむ、普段の口調からは想像出来なかったが、こうして見ると凛々しいというよりも可愛いかもしれない。
……と、今はそれ所ではなかった。今はヘルが常にナイフで援護してくれているので余裕があるのだが、先程マルギットを抱えて避けた時に大鎌で片足を持っていかれた様で、全く動かない。
幸いにも痛みが無かったのでこうして平静を保てていられるが、もしこれで血が出るほどの怪我を負っていたら不味かっただろう。差し当たってこのままでは不便なので戻しておく。
「『完全再現』……さて、ヘルー!」
「なーにー?」
固有魔法を使って治った足の具合を確かめると、ヘルへと声を掛ける。今はお面まで取ってしまっているので、距離がある状態では互いに叫ばないと聞こえなく少し不便だ。
「試したい事があるから、ナイフの制御に気をつけてー!」
「なにー? 聞こえないよー!」
「だからナイフの、魔力制御に気をつけてー!」
「ごめん! なにせいぎょー?」
「あぁもう! ……とにかく、気をつけてー!!」
「わかったー!」
うーん、やはり『情報伝達』が無いと、こうしたやり取りがし辛い。まぁ今は距離が少し離れている上に、魔物の根が面白いくらいに暴れていて大きな音を出しているので、聞こえないのも仕方が無いだろう。
私の様に聴覚も優れている種族であれば問題無かったのだろうが、森人の耳は長い割には性能が良くないらしい。
さて、ヘルにも言質が取れたし、試してみよう。
私は早速『技能共有』を使って、ヘルにゆっくりと力を受け渡していく。
作業を行っている最中も魔物の攻撃が止むわけでは無いので、マルギットを抱えたまま避ける。私にとってこの程度の速さは、例え人を一人抱えていたとしても遅すぎるくらいだ。
その間別の方向から「おわっ!?」という声が聞こえた気がしたが、ヘルが気をつけている上で制御に失敗する筈が無いだろう。多分気のせいだ。
そのまま一割まで共有を行うと、私は魔法を唱える。
「『紅の力よ 我が魔力に集いて形を成せ』、『第一節 ファイアボール』」
……本当なら一節目を唱える必要は無いのだが、マルギットを抱えている手前仕方なく行った。
そうして出来た火球は優に百を超えており、私自身も軽く驚いた。
ヘルのナイフを壊しつつ聞いていた話しだが、制御が上手く出来る様になると、こうした第一節の魔法でも広範囲の魔法として使う事が出来るらしい。
実際ヘルのサンドステークも、元は一本の杭を打ち出すだけの魔法なのだが、ヘル自身の能力で高い威力を出していたのだと言う。
ここまで来れば分かるかもしれないが、今回の私の検証は、固有魔法を持たない人と『技能共有』をした場合についてだ。
最初はヘルへの抑止力として繋げていたのだが、このままでは私が奪われてばかりだと思い、何らかの使い道が無いかと考えていた。
するとどうやらこの能力、共有した相手が固有魔法を持たなければ、一番秀でているものを借りられるみたいだ。普段の私であれば十数個の火球を出すだけで精一杯なのだが、ここまで違ってくるとは思いもよらなかった。
私がこの結果に満足して頷いていると、腕の中から声が上がった。
「なっ! お前は獣の亜人族だろう? なぜ魔法が使えるんだ! それにこの数は一体何なのだ!?」
あ、これはやってしまったのかもしれない。
わざわざ気をつけて一節目まで唱えたのに、こんなに火球を出現させるのは普通では無いのだろう。いやまぁ私自身も驚くほど出来てしまった訳だし、マルギットの言葉ももっともだと思う。
とりあえず誤魔化しておこう。
「ふふっ、私は狐の亜人族なのよ。だから火の魔法は得意なのよ」
「得意だと言っても限度が――」
「さぁ、さっさと終わらせるわよ!」
私はマルギットの言葉を遮って、火球を全て魔物へと集中させる。そして文字通りの集中砲火を浴びた魔物は、為す術も無く燃え上がり、爆発に巻き込まれたのか四肢も弾け飛ぶ。
そのまましばらく様子を見ていると、周りの根も力を失っていき、最後には全ての根が地に落ちた。
呆気ない。
両手が塞がっている現状では助かるのも事実ではあるのだが、魔法一発で終わるとは思わなかった。有体に言って弱すぎる。
「こんなにアッサリと……?」
「言ったじゃない、すぐに終わらせるって」
「……エリスぅ」
魔物を倒して気が抜けた所に、突然恨みがましそうな声で背後から呼ばれ、びくっとした。
振り返ると、その声音どおりの表情で見てくるヘルがいた。一体どうしたのだろうか。
「びっくりするじゃない、どうしたのよ?」
「突然魔力渡されたら危ないよ! 思わず落っこちそうになったもん!」
「だから気をつけてって前置きしたじゃないの」
「え? あそっか、うん……あれ?」
「ちょっと私は魔物の状態を見てくるから、少しマルギットを見ていてくれないかしら? あ、そうそう、彼女どうやら動けないみたいだから、そのローブを着せてあげて」
「? えっと、うん」
ヘルは不思議そうに首を傾げて考え始めたので、間髪入れずにマルギットをお願いしておく。多分これでこの事については忘れるだろう。
私はマルギットを優しく地面に下ろすと、ヘルに背を支えるように指示してその場を離れる。向かう先は勿論、今倒した魔物の所だ。
ここで気になっている事は二つ。
まずは魔物の持っていた大鎌だ。マルギットの体の自由を奪った所から、何らかの特別な武器なのではないかと思う。
恐らくこの魔物の捕食方法として、生け捕りしなければ養分を吸収出来ないようだったので、この武器に何か秘密がありそうだ。
そして二点目、これはすぐに実施が出来るのだが、人目があると少しやり辛い。
それは何かと言えば、この魔物の死体を食べて、能力を継承出来るかどうかという事だ。
先にこちらから済ませてしまおうと思い、マルギットとヘルの目を盗んで近くにあった魔物の腕に齧り付く。
うん、見た目から気持ち悪いのである程度想像出来ていたが、その予想通り不味い。人の死体と比べても、圧倒的にこちらの方が不味くて臭く、しかも固い。
「うぇっ、うぷ……」
何だろう、苦くて酸っぱくて、腐敗したような臭いまで感じる。まるでゴミを食べているようだ。
私はそのまま涙目になりつつ五口目を無理矢理飲み込むと、体内の魔力や身体能力、記憶を確認する。
すると、どちらも先程道中で食べた男の、約三人分くらい上がっていた。急上昇だ。
正直食べ損になってしまうとも考えていたので、これは素直に嬉しかった。そして記憶の方は……ふむ、直近の記憶しか残っていないようで、前に来た冒険者達の捕食映像しか無かった。
よし、気を取り直して次は大鎌だ。
これは大きさが大きさなだけに特に探すまでも無く見つかり、手にとってみる。
「あ、触れる……けど、重いわね」
斬られた時に感触が無かったので、もしかしたら触れないのでは無いかと考えていたのだが、それは杞憂だったようだ。だが代わりにとても重い。さっき魔物を食べていなければ持つことすら出来なかった程に、とてつもない重量だ。
そのまま両手で持って振り上げ、地面目掛けて下ろしてみる。
ガッ
突き刺さった。
あれ? 通り抜けはどうしたのだろうか。
もしかして魔力を通さないと、能力を発揮しないとかあるのかもしれない。
そう思って特に注意を払わずやってしまったのがいけなかったのだろう。すぐに目に見えて変化が訪れた。
「ちょっと、何よこれ……ッ」
魔力を通した大鎌はフっと黒い霧に姿を変え、私の右手首へ吸い込まれていくかの様に集まってくると、突然その手首に痛みと熱を感じた。
なぜか一瞬、あの黒い塊を食べた時の事を思い出し、そうしてしばらく私は自身の迂闊な行動に対して、改めて後悔するのであった。




