041
考えが甘かった。
私としてはヘルに対する感情に含むところはあまり無い。
彼女との戦闘で怪我をすること無く終わり、道中から今までで向けられている感情にも害意や悪意など含まれていなかった。そのため、私自身は特に不快な気分になる事はなかったのだが……どうやら私とテスラでは、受けた印象が大きく異なっていたみたいだ。
でも考えてみれば、それも当然かもしれない。
私だって逆の立場……あーちゃんやゼクス、それに勿論テスラが襲われている現場に突然遭遇すれば、まずは仲間を守ろうと動くだろう。だからその相手を排除しようとする気持ちも分かる。
だが、共感は出来たとしても、心蝕魔法だけは使わせるわけにいかない。
――心蝕魔法
それは優しく、そして残酷で、使った人を狂わせる魔法だ。
私は多分、あの魔法で救われたのだろうと思う。悲しみや苦しみに押し潰されそうだった私を。
……だけどもう、二度と発動させるつもりは無い。
実験区画で使ったあの魔法……
『心蝕魔法 フォルム・フレア』
それまで培っていた感情や想い、その全てを炎にくべる為の薪へと変え、欠片すら残さない。
今ではあの時の感情は思い出せないが、とにかく痛く、苦しかったものだったのだと思う。
……しかし、それだけでは無かった筈なのだ。
グレッグの記憶を見たとき、その家族の死体を見たとき。グスタやカール達を従え、共に行動していたとき。そしてマリーと一緒に過ごした時間。
その全ての感情も奪われ……いや、自らが燃やして灰燼に帰してしまった。
もしまたあの魔法が発動してしまえば、私は再び全てを失い……それでいて、何も感じる事すら無く平気だと耐えられてしまうだろう。
それが凄く恐ろしい。こうして考えてみただけでも、恐怖で身体が震えそうになってしまう。
そんな魔法を、想いを、こんな事で仲間に使わせたくない――
「……あーちゃん、ちょっと待っててね」
「ん、わかった」
私は教えてくれたあーちゃんの頭を一撫ですると、すぐにテスラ達の方へ視線を向ける。
幸いな事に、まだテスラは心蝕魔法の詠唱を始めていない。だが、目に見えてテスラの陣を生成する速度が落ちていたので、時間の問題だろう。
心蝕魔法は感情を魔力へと変換する為、今の焦れてきたテスラであれば、いつ発動させてもおかしくはない。その前に何とかしなければ。
「ふぅ……」
私は焦りそうな気持ちを静かに息を吐いて抑えると、思考を切り替える。
本当はやりたくなかったのだが、二人を止める手段について、最悪な場合を想定しての考えがあったので、大きく取り乱す事無く対応は出来そうだ。
「ふふっ、あははっ! 物量戦でこんなにも押されたのは初めてだよ! けど、ちょっと疲れちゃったのかな。息、荒くなってるよ?」
「……」
「あらら、もう喋るのも難しいのかな? ふふっ、じゃそろそろこっちから行くよー?」
見ればテスラの魔力は底をつきそうで、息も荒くなってきている。だがどういうわけか、ヘルの方はあまり魔力を消費した様子は無い。あの基本魔法はそこまで魔力消費をしないのだろうか。
……当初の予定では、お互い疲弊した所に割って入るつもりだったのだが、先程のあーちゃんの話を聞いた後ではそうも行かない。テスラには負担を強いてしまう事になるが、今回限りは強引にでもいかせてもらおう。
「当たっても死なないようにするから安心してね? エリスの仲間だし、治療もちゃんとするから……今だけは思いっきりやらせて貰おうかな!」
「……すぅー」
ヘルが宙に浮かぶナイフを操り、テスラを囲む。それに対してついに陣が間に合わなくなったテスラは目を閉じ、ゆっくりと集中するように息を吸った。
恐らくあーちゃんの言葉通りであれば、感情を魔力に変換する心蝕魔法の詠唱に入るつもりなのなのかもしれないが……させない!
「ヘル、止まりなさい」
「へ? おわ、っとと?」
「っ!」
まずは既に攻撃に入っているヘルから止める。
私が声を掛ければ、ヘルが操っていたナイフが全て制御を失って地に落ちた。そしてまた止まったのは周りのナイフだけではなく、引っ張られるようにして特攻しようとしていたヘルも、その手に持っていたナイフが動かなくまったため、不安定な姿勢でテスラの近くへの着地を強いる事となった。
体勢が整わない中なんとか手を付いて地に降り立ったヘルだったが、突然の事で信じられないといった表情で動きを止めてしまい、そこへ今度はテスラが勝機と見て陣を生成しようとするのが見える。
「テスラも疲れているでしょう、少し眠りなさい」
「うっ」
テスラは私のその言葉に従うかのように、とさり、と地へ倒れこむ。
「……ふぅ」
状況が終了したのを見て、私は安堵と反省で軽く息を吐く。
あーちゃんの言葉に少し動揺したものの、備えてた手段で予想通りの結果が出せた事に安心した。
だが本来の私の考えでは、戦っている内に少しでもお互いの理解が及べば良し。それが無理でも、テスラの頭が冷えた頃に言葉で説得しようと考え好きにさせていたのだが、今回の件では裏目に出てしまったと反省する。
出来ればこんな強引な手段はとりたくは無かった。もっと早い段階でテスラへ説得していれば間に合ったかもしれなかったのだが、私は選択を誤ってしまっていたようだった。
もしもっと私がテスラの事を理解出来ていれば、こういった状態になる事は防げたのだろうか。
考えた所で詮無き事ではあるのだが、それでもと考えてしまう。
記憶があれば、と。
「エリス……今ボクに、何したのかな?」
そう私が悔やんでいる気持ちをよそに、ヘルは不思議そうに自分の両手を開けたり閉めたりして、首を傾げつつ聞いてきた。その様子からは、倒れているテスラに対し、攻撃を仕掛けるような意思が無いみたいで安心する。
「そうね……ふぅ」
ヘルの問いかけを機に、これ以上思い悩んでいても悪い方へと思考が進んでしまうと思い、いつの間にか下を向いていた顔をヘルヘと向け、反省はここまでと思考を切り替える。
さて、どうしようか。
ヘルには一度襲われた経緯もあるので、私の固有魔法に関わる話をするのは危険が伴う可能性も考えられるが……。
そう思ってヘルを見続けているが、当の本人は「ん?」と小首を傾げて、私が説明するものだと信じきった目で見つめられる。『精神干渉』で見てみても、やはり害意や悪意は感じられない。
ま、良いか。
難しく考えてみたが、元より私はヘルを敵だとは思っていない。何故かと聞かれれば難しいのだが、やはり彼女の素直な態度と心が、私の警戒心を薄くしているのだと思う。ただそれでも周りに吹聴されるのは困るので、前もって釘だけは刺しておく。
「知りたい?」
「うん!」
「誰にもいってはダメよ? 秘密にする事、守れる?」
「大丈夫、かな」
「もし言ってしまったら、ヘルの事を嫌いになるけれど、大丈夫?」
「ぅ、うん……だいじょぶ!」
ヘルは私の言葉で想像してしまったようで、一瞬悲しそうな表情を見せるが、すぐに力強く頷いた。
まぁ実際のところ、釘は刺してみたものの、あまり心配してはいない。彼女からこれまで、『精神干渉』で害意がない事を確認取れているからだ。それに多分、彼女に会話出来る友達とかいなさそうだ。
そう本人には言えないような事を考えていると、あーちゃんがくいっと袖を引っ張ってきた。
「うん? どうかしたの?」
「……良いの?」
動きに釣られてあーちゃんへと振り返ると、目をじっと見つめ、端的に確認をしてきた。
能力について話をしても良いのか、という事だろう。何となくあーちゃんの真面目な表情から、何を聞きたいのかを察する。
私はあーちゃんの被っているフードを下ろすと、頭を撫でながら安心させるように微笑みかける。
「ありがとうあーちゃん、優しいのね。でも大丈夫よ、安心して」
「ほんと?」
「えぇ、もし何かあったとしてもあーちゃんがいるし、問題は無いわ」
「……うん」
あーちゃんは私の答えに納得したのか、引っ張っていた袖から手を離し、代わりに指を絡めるようにして握る。そして空いている方の手で、私の腕をぎゅっと抱いてきた。
そうして二人で笑顔を向けあわせてから、一緒にヘル達の所へと歩き出す。
……恐らくあーちゃんが心配しているのは、私の心についてだろう。
あーちゃんは私達が城から出る時、兵士に向けられた言葉や視線で私が傷ついた事を知っている。多分あーちゃんも魔人族という事で似た経験があり、苦しむ気持ちをよく理解してくれているのだろう。
そして今からする説明は、私達が化物と足る要素……固有魔法についての話となるので、ヘルの反応次第で、私が傷つくのでは無いかと心配してくれたのだ。
本当に優しい子だ。こんな事をされると、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
だが今は、テスラをそのまま地面に寝かせているわけにもいかず、またヘルの解答も保留にしているので仕方なく足を進め、やがて二人の前に到着した。
まずはテスラの介抱をする為、名残惜しいもののあーちゃんをそっと引き剥がしてテスラを抱き起こす。そして私の膝へ寝かせるように頭を乗せると、改まってヘルの方へと顔を向ける。
「良いわヘル、教えてあげる。アナタのそのナイフを操る基本魔法……えぇと」
「魔力操作だよ」
「……その魔力操作だけれど、制御がとても難しいのよね?」
「うん、普通の人ならナイフ二、三本操作出来れば良いほうだと思うよ? ふふんっ」
「ふーん、ヘルちょっと、こっちへいらっしゃい」
「え? なになに?」
ヘルは質問に対し誇らしげに胸を張って答えたので、私はヘルへちょいちょいと手を振って招く。暗に自分以外ではあそこまで巧く使えない事を言いたいのだろうが、そう何度も自慢されると面倒臭い。
そんな気持ちから、ヘルを手招きして近くに寄らせると、つい張っていた胸へと手を伸ばし、適当に力を入れてつつく。
「あうっ!? え、な、なに?」
「説明、続けるわよ」
「むぅ……」
ヘルは突然の私の行動に、驚いた表情で胸を隠しながら飛び退き、抗議の視線と唸り声を上げた。私はその様子を見て満足すると、向けられる視線を無視して説明を続ける。
「さっきアナタと口付けをした時、少し仕掛けを掛けさせて貰ったのよ」
「仕掛け?」
「そう、簡単に言ってしまえば、私の身体能力と魔力を貸してあげる事が出来るの」
「はぇー、そんな事が……あっ! だからか!」
ふむ、アホな子かと思っていたが、これだけの説明で分かるとは案外頭の回転は遅くないらしい。
「なんか回復したのかなーって思ってたけど、違ってたんだね。さっきなんて、ばーんっ! ってなってすぐ、わー!? っとなったからびっくりしたよ!」
「あぁうん、そう……」
いや、やっぱりアホな子だった。
この件に関しては一応仕掛けた本人なので、何とか言いたい内容が分かるのだが……普通の会話でこんな事を言われても、絶対に分からないだろう。
と、それはさておき、ヘルの言っている事は正解である。
使ったのは、私の固有魔法『技能共有』だ。
この能力は、接続した相手の固有魔法を貸して貰える代わりに、その対価として私の身体能力と魔力を貸し与えている。
以前、あーちゃんと戦闘訓練を行った時、ゼクスの説明を受けて分かった事だが、この貸し与える力は私の意志で調整が可能であり、渡した力に比例して扱える能力の範囲が増減する。
そして今回は借りている固有魔法では無く、この『技能共有』そのものを利用したのだった。
ヘルが使っていた魔力操作は、常人にはあまり馴染みがない魔法で、森人か魔人くらいしか扱う事が出来ない。さらにその中でも、制御に長けている人でナイフ数本が限界であり、非常に繊細な魔法だという事がこれまでの会話で分かっていた。
ちなみに魔法とは、必ず魔力を消費して発動するものであり、使う際には保有している魔力を何割で使って変換するかを、使用者が調整して発動させている。
例えるならば、伸縮可能な破れない袋に空気を入れ、魔法を使う時には開け口を調整して空気を抜いていく感覚だ。
ヘルの扱う魔法が繊細なものという前提で考え、私の『技能共有』によって急激に入っている空気を強制的に増やし、それに伴い調整していた筈の空気の排出量がヘルの意図せず急増したため、制御を狂わせる事が出来たのだと思う。
……尤も、使っていた魔法が適正魔法などであれば、増やした魔力分だけ威力が増していた可能性も否定出来ないので、自信があったとは言え思った通りに進んでくれて本当に良かった。
そう振り返り改めて考えていると、ヘルが気づいたように声を上げた。
「あれ? でもそれじゃ、なんでそっちの人は急に倒れたの?」
「ん? 今の私の説明で分からなかったのかしら?」
「うん、わかんない!」
「……はぁ」
ヘルの力強い即答に、私は額を押さえて溜息を吐く。……全く、少しくらい考える振りでもすればまだ可愛気があるものを。
そうして私が顔を伏せていると、ヘルも私が呆れているのに気づいたのか、慌てた様子で口を開く。
「う、言われた事はわかるけど、でもわかんないんだもん……」
「まぁアナタの思考って、単純そうだものね」
「うぅ……」
ヘルが肩を落とし、しょぼくれているのを感じる。
でも私は、緩みそうな頬を隠すため、呆れたような態度を装い顔を伏せ続けた。
……悔しいが、すごく嬉しい。
固有魔法について話をしても、ヘルの態度は一向に変わる様子は無く、先程までと同じように接してくれている。その事が私はとても嬉しく感じていた。
あーちゃんにはあぁ言ったものの、本当は少し恐かったのだ。
確かにヘルとは一度戦っていて、その際に殺す事を視野に入れた事もあるのだが、それでもヘルの裏表のない性格は好ましく思っていた。それに何より、笑顔を向けてくれていた人の態度が変わってしまうのは悲しい。
でもなんとなくだが、態度に出すのは気恥ずかしく感じたので、こうして心の中だけで感謝していた。
「ねぇ、急に黙ってしまってどうしたの? もしかして怒ってるの、かな?」
「な、何でもないわ! ……仕方が無いから、察しの悪いアナタにも分かるよう、説明をしてあげるわよ」
「うん、ごめんね」
ヘルが顔を覗きこんできたので、慌てて口角を下げつつ顔を上げる。その際に表情がおかしくなり、つい余計な言葉を付け加えてしまうと、ヘルはさらにしゅんと下を向く。
その様子に少し罪悪感を感じていると、あーちゃんがぺたんと隣へ座り、私にだけ分かるように笑顔を向けてきた。むぅ、あーちゃんには私の気持ちが筒抜けの様だ。
そのまま私に身体を預けるように、寄りかかってきたあーちゃんを受け止めると、出来るだけヘルに優しく続きを話そう考え、仕切りなおす。
「……こほんっ、魔力や身体能力については、私が貸してあげているものなの。さっきヘルにも、一瞬だけ貸してあげたのよ?」
「うん、いきなりでびっくりした」
「えぇ、だと思うわ。アナタへの供給はさっきの一瞬だけだったのだけど、テスラには常に貸しているの」
「へー、そうなんだ」
私が説明を続けていると、ヘルは少し面白くなさそうな表情になり、頬を少し膨らませる。
どうかしたのだろうか?
「? 説明、続けるわよ? それでテスラだけど、実は私達と合流する前に他の人とも戦っていて、ほとんど魔力がなくなっていたのよ」
「じゃボクと戦ってた時に使っていた魔力は……」
「そう、私が貸していた魔力よ」
「ほぁー。んじゃ今はその……テスラ? は、魔力切れちゃったんだね」
ここまで説明をすると、ヘルにもわかったようで納得顔で頷いた。
つまりテスラは既に、自身の魔力はほぼ無くなっていたのだ。それで私が貸していた魔力を使い、ヘルを倒そうとしていたのだが、私が貸していた魔力を強制的に回収したため、テスラの残存魔力が枯渇したのだった。
これが亜人族であれば獣化していただろうが、テスラは人間族なのでその様な事は無く、魔力枯渇と同時に気絶してしまったという事だ。
あーちゃんの言っていた通り、心蝕魔法が発動していれば、感情が魔力へと変換されてしまい、私が魔力供給を止めたところで変わらず戦い続けられただろう。そういった事を考慮すると、本当にぎりぎりであった。
もしあーちゃんと合流するのがもっと遅かったら……そう考えると、手が自然と膝に乗せているテスラの頭を撫でていた。
「あーちゃんには改めて感謝しなきゃね、もし教えてもらえなかったらと思うと……考えたくないわ」
テスラの癖のないサラサラな髪を梳きながらそう言うと、あーちゃんは嬉しそうにはにかみ、抱えている私の腕にぎゅっと力を入れてきた。
そのままテスラの髪の手触りと、あーちゃんの柔らかな感触を楽しんでいると、ヘルが羨ましそうな表情で近づいてくる。
「ねぇ、その人もう襲ってこないかな?」
「……あぁ、だから離れていたのね」
なるほど、ヘルが微妙に距離を開けていたのは、テスラを警戒していての事だったのか。……それもそうか。先程まで戦っていた相手なので、警戒するのは当然だろう。
……てっきりまた、私に突かれる事を警戒しているのかと思っていたが、違ったようだ。
「うーん、どうかしらね。あーちゃんはどう思う?」
「……」
情けない話だが、私はまだテスラという人物を理解しきれていない。そのためヘルの質問に対して、どちらとも言えなかった。
なので、恐らく私よりもテスラの事を知っているであろうあーちゃんに話を振ってみるが、なぜか反応が返ってこない。気になって顔を向けると、あーちゃんはヘルをじっと見つめたまま止まっている。どうかしたのだろうか?
「あーちゃん?」
「え? あ、うん。多分、だけど大丈夫だと思うよ? なんたってエリスちゃんの膝枕だしね!」
「……それは関係あるの?」
再び声をかけると、あーちゃんは私に目をあわせ笑顔でよくわからない事を言い出した。ふむ、何かあったのかと思ったが気のせいだったようだ。
まぁ何にせよあーちゃんのお墨付きを貰ったので、ヘルに視線を戻し「そういう事らしい」と肩を竦めてみせる。
「ふぅん……あーちゃん、ね。ボクはヘル。よろしく!」
「うん、魔物討伐の間だけだけど、よろしくね」
ヘルは思案顔で頷くと、すぐに笑顔になりあーちゃんへと話しかける。そしてあーちゃんも、それに笑顔で返した。
私はその事に、そっと心の中で安堵する。
……実は少し心配していたのだ。あーちゃんには申し訳ないが、これまでの行動と先程までのテスラの前例から、いつヘルに殴りかかってもおかしくは無いと考えていた。
そのせいで二人の仲介をする事に躊躇ってしまい、なし崩し的な形で互いの自己紹介させる事となってしまったが、今の様子をみると、結果的には良かったのかもしれないと思える。
そんな気持ちで二人のやり取りを見ていると、もうそれだけで自己紹介は終りらしく、ヘルが私に視線を向けてきた。
「それでエリス、これからどうするの?」
「そうね、テスラをこのままにしてはおけないから、目が覚めるまではここで休憩していましょ。……あーちゃん、他の冒険者が今いる位置はわかる?」
「うん、ゆっくりとこっちに向かってきてるから、まだちょっと時間が掛かりそうだと思うよ」
「ありがと」
あーちゃんの言葉を聞きながら、自分でも『精神干渉』を使って確認してみるが、まだ私には感知できる距離では無いらしく見当たらなかった。
だがそれとは別に、魔物が少しずつこちらへ向かってきている事を感知出来た。結構殲滅したと思っていたのに、どこにそんな数がいるのやら。
うん、ヘルに任せよう。
「ヘル、魔物が来るわ」
「そうなんだー……って、あれ? 準備しないの?」
「だってほら、今私こんな感じだもの。それにアナタなら、一人ででもここの魔物くらいは片手間で倒せるでしょうし……ね? やってくれないかしら?」
「……もー、しょーがないなぁ」
私は膝に乗せているテスラを強調して見せ、眉尻を下げてお願いをする。
するとヘルは言葉ではそう言いつつも、嬉しそうにナイフを取り出して準備を始めたのだった。
 




