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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
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004

 今更ですが投稿当初にサブタイトルの意味がわからなく、ナンバリングでそのまま通してしまってますが……。きちんとつけた方が良いのかしら。と、悩んでます。

 

「はむ、んー。あむ。んくっ。はー、やってしまったかしら」

 

 私は男を食みながら、少し後悔していた。

 壁の中の情報は必要であったが、この男も私以上の情報を持っていなかったのだ。

 考えてみればわかる事だったが、壁の向こう側へ行こうとしている人でなければ、徘徊して食料を調達する以上に必要な行動が無く、得られる情報自体が限られていた。

 

「しかもなんか少し、いやかなり臭いし酸っぱいし不味い……。殺したのは失敗だったかしら。まぁ検証には役に立ってくれたけれど」

 

 とりあえず以前考えていた予想はあたっており、相手の肉を食べればその相手の力や記憶を引き継げていた。

 

 男から得た記憶を大雑把に辿る。

 大体ここ三ヶ月くらいの記憶を読み取れた為、恐らく記憶を辿れる長さは、死後の経過時間に比例するという仮説が立てられた。

 しかし、お父さんのお肉から得られた能力と比較すると、吸収できた力が塵程度にしか感じられない上に、これまで身を綺麗にした事がないであろう男の臭いで、食欲はかなり減退していた。

 

「うぅ、酷い臭い。……記憶も見るべき所のないクズ肉だし、コレはもういいわ」

 

 少し前までは食料に困っていた私だが、今なら死んだ人を食べることが出来る。歩けばそこら中に食料が転がっているので、このクズ肉にこだわる必要は無い。男の死体をその場に捨て置き、考えるべきことを纏める。

 

「情報を望めない以上、ちょっと方針を変更する必要があるわね。多分壁の外へ行くには、お父さんの記憶にあった関所を通らなくてはならないのだけれども……」

 

 当然のことだが、ここに入るためには壁と街を繋ぐ場所を通らなければならなく、それが関所であった。記憶を見た限り兵士の姿が十程度あったので、恐らくそれ以上の戦力があると考えるべきだ。

 

 一人で突破するシミュレートをしてみるが、今ある自分の実力では難しいと考え、自然に溜息が漏れる。 魔力や筋力が上がったと言っても、私自身は戦闘経験皆無だし、兵士の実力もわからない。さらに言えば、まだ自分の身体能力や、魔法についても理解が足りていないと思う。

 

「魔法自体はお父さんのを初めて見た訳だし……ちょっと試してみようかしら」

 

 わからないならまずはやってみようと思い、お父さんの記憶から魔法知識を思い出す。

 

「魔法を使うには適正が必要。そもそも獣人は保有魔力が少なく、放出する魔法を使うのに適さない。と、お父さんの記憶にあるわね。どういうことよ……」

 

 言葉に出した通り獣人は元々の魔力量が少なく、放出する魔法は絶対に使えないわけではないが、獣人の中でも限られたものでしか扱えないとあった。さらに魔法を扱うには適正が必要で、適正が無い魔法を使おうとしても出来ないようだ。

 ちなみにお父さんの適正は、炎、風、聖。一般的に適正が一つでもあれば良いとされているようだが、三つの適正を持っていたことから、お父さんはかなり壊れた性能であったことがわかる。

 

 出来れば記憶で見た煌びやかな魔法を使いたのだが、適正の有無がわからなければ可能性があるかすらわからない。しかし適正を確認する為には専用の道具を使うか、ある程度魔法を扱える人に見てもらわないといけないようであった。

 

「魔法や適正とかも一緒に吸収出来てたら楽だけれども……。――! うぅ、だめだわ。試しに風の魔法をと思ったけど、記憶で見た詠唱が出来ないわ」

 

 詠唱で使う言葉まではわかるのだが、魔力を乗せようとすると、自分の中の何かに邪魔されてしまい、声が出なかった。

 

「くっ、せっかく魔力はあるのだから、何か、何か無いの」

 

 このままでは身体能力だけしか頼れるものが無い。せっかくの魔力が宝の持ち腐れになってしまう。

 私は焦りつつも必死に、お父さんの記憶から何かしらないか掘り起こす。

 そして――

 

「――やったわ! 適正がわからなくても使える魔法があった! えーと、主に身体強化や自己治癒か。うぅぅ、私も出来れば魔法を飛ばしたりしてみたかったのだけれど」

 

 自分にも魔法が扱えると一瞬嬉しくなったのだが、しかしその魔法は地味だった。

 

「いや、でもこれが出来るのと出来ないのとでは全然違うはずよね、頑張れエリス!」

 

 必死に自分で自分を励まして、盛り下がる気分を無理やり持ち直しながら、お父さんの記憶から自分の魔力を感じる。

 私はこれまで魔力というものについて知識すらなかったのだが、お父さんの経験した記憶を振り返ることによって、なんとなくイメージを掴むことが出来た。

 そのまま意識を集中して魔力を身体に流し、身体強化を使ってみる。

 

「これで出来たかしら? あまり実感が無いわね、ちょっと動いてみぎゃっ!?」

 

 軽く飛ぶつもりだったのだが、予想以上の速度と高さで跳躍をしてしまい、そのまま天井の高さを確認しようと顔上げた所で、顔から突っ込んでしまった。

 

 物凄く痛い。なんだか鼻から血も出てるし、正直泣きそう。

 だけど負けない。私にはまだ治癒魔法もあるのだ。

 

「すんっ、これで自己治癒を確かめられるわ。さすがは私、無駄が一切無いわね! ……ぐすっ」

 

 涙目になりつつも、私は先程盛り下がった気分とは逆に、魔法が使えたことについて素直に嬉しく感じていた。その為に無駄な独り言が多かったのだが、ここには私しかいないので気にする必要もない。

 

「えと、治癒したい箇所を意識して、その部分に陽の光が当たる様な暖かいものをイメージして魔力を集中する。ね」

 

 壁の内側での生活しか知らない私にとって、陽の光はイメージをし辛い。

 何せ壁に遮られてしまってほとんど入ってこないのだから、実経験のない事に対して想像するなど、とても難しい。

 苦戦しつつもお父さんの記憶の補助で、何とか擬似的にイメージを固めていく。

 

「……で、出来てる、わよね? へぇ、凄いわね。痛く無いし、もう血も止まったわ」

 

 恐らくこの二つの魔法は初歩なのだろう。

 魔法の存在を知らなかった私でさえ、一発で成功させることが出来た。どちらの魔法も効力が高く、使い勝手が良さそうに感じる。

 

 しかしそこで一つの疑問が浮かんだ。

 

 お父さんは自分の傷口を治すとき、自己治癒を使っていなかったような?

 これはお父さんの記憶を見なくてもわかる。目の前で光を放つ魔法を使っていたからだ。

 

 私はお父さんの行動が気になり、さっそくそのときの記憶を辿ってみる。すると意外なことがわかった。

 

 どうやら種族によって魔法を使う向き不向きがあるようだ。

 

 人間は使う本人を含めた味方の守護。

 亜人は自己の強化。

 森人は対象の補助。

 魔人は敵の殲滅。

 

 お父さんは人間だったので、自己治癒よりも回復する魔法を唱えた方が、より効力が高く発揮出来たようだ。……とは言っても、残った魔力量と負傷具合ではどちらにせよダメだったようだが。

 

 う、湧いた疑問が消えた代わりに、お父さんの事で思考が暗くなりそうにる。

 しかし、毎回思い返す度に暗くなっては話が進まないので、私はなんとかそんな思考を振り払って、検証の続きを行おうと頭を切り替えた。

 

「そういえば、確か使用魔力の量により、強化出来る度合いが違う。だったわね」

 

 お父さんが化物へ突貫するとき、物凄い魔力を使っていた様な気がする。あの威力は凄まじいが、その代償も無視出来ないものだったと思う。

 そのときの記憶を思い返しながら、一気に魔力を込めては先程の天井衝突の成功を繰り返してしまうだろうと考え、少しずつ魔力を体に巡らせていく。

 予想の通り、身体強化に使う魔力の量を増やせば増やすほどに、身体への負担は掛かるが力が湧き上がるのを感じる。

 

 そのまま魔力の量を増やし続けていると、大体全体の三割程度流したあたりでそれはきた。

  

「ぃい!? うぅ、痛い。……これが私の強化限界かしら、あの時よりはまだマシだけど、体中が酷い痛みね」

 

 肉体の許容を超えて魔力を流しすぎると、強化されている身体の方が崩壊を始めるようだ。

 黒い塊を食べた時よりはマシであったが、だからといってこのまま痛いのも嫌だったので、思いつきで身体強化を止めずにかけながら、治癒魔法を同時に試してみると――

 

「っぃいい!? ったい痛い痛いっ! 痛いじゃないのよ!?」

 

 自己治癒で魔力を流しているはずなのだが、その流した魔力が全て、身体強化の魔力に上乗せで襲い掛かってきた。

 あまりの痛みに慌てて身体強化を解き、自己治癒の魔法を掛けなおす。

 

「うーん、魔法の同時使用は無理なのかしら。自己治癒も……やっぱりそうなるわよね」

 

 先に自己治癒を掛けたところに身体強化の魔力を流してみるが、結果は同じだった。先に掛けていた自己治癒に上乗せされるだけで強化はされない。

 出来ないものは仕方がないので、私は魔法の同時行使を諦める。

 

「ともあれ、身体強化と治癒魔法が使える事を加味しても、独り乗り込むのは厳しいわねぇ。そうなると人数を集めて突破するしかないのかしら」

 

 そこまで考えて、さっきのクズ肉を殺した事を再び悔やむ。

 

 あの時は男の記憶を貰おうと思って殺したのだが、その前に仲間のところを教えてもらったりすれば良かったと思う。

 私は自分の計画性の無さに頭を抱えたくなったものの、ものを考えられる様になって僅かな時間しか経っていないので、慣れてない内は仕方が無いと考えを改める。

 零れたミルクは戻らない。失敗は反省として受け入れて、次の行動を決める。

 

「少し、思考や身体に慣れる必要があるわね。その後に仲間を増やして……って、あぁ。その前にやることがあったわ」

 

 必要なことを言葉に出して確認していると、あることを思い出した。

 外を見ると間も無く夜も明け方のようで、時間も丁度良さそうだ。

 早速行動を開始しようと、周囲の音を拾って安全を確認して、私は廃墟から出て目的地へと歩き出した。

 

 

 

 

 私が思い出してやってきたのは、化物と戦った場所であり、お父さんが家族の死体を置いていってしまった場所である。目的は勿論食べる為だ。

 特にお母さんは、妻である前に冒険者としてお父さんの相棒をしており、力を強化するのに期待が持てた。

 

「なによこれ。……お父さんの記憶が無くても怒りが湧くわね」

 

 だが目的のものを目の前にした私は、その死体のあまりの様相に、顔を顰める。

 

 私が今見ているのは、確かにお母さんと娘エリスのものだ。

 お父さんの持っている記憶で損傷具合を把握している為、間違いではない。

 

 しかしその死体達は、なぜか損傷箇所が増えている上に、記憶よりも酷く汚れていた。

 死体からは死臭の他、別の残り香を感じる。恐らく私の鼻でなくとも、この光景を見たものであれば、皆同じ感想を持つだろう。

 

「死体を犯したのね、節操のない。あのクズ肉も加わってたのかしら、不愉快ね……」

 

 確認しようと、一瞬あのクズ肉から記憶を探ろうと考えたが、結果がどちらにせよ、さらに気分が悪くなる事折り紙つきであったので、そんな考えを頭から取り払い、食べるかどうかを検討する。

 

「お父さん、アナタには本当に感謝しているのよ? それに少しはお父さんを食べてしまった事も悔いているの。……だから私も少しは我慢して、せめてみんなを一緒にしてあげるわね」

 

 正直見た目や臭いからはとても遠慮したい有様ではあったが、お父さんへの感謝の念と、この顛末を知ってしまっていた事から、私には食べないという選択肢を選べそうに無い。

 覚悟を決め、喉奥から込み上げる胃液を我慢して飲み込みつつ、食べ始めた。

 

 

 食べ始めてからしばらくすると、私の中に別のものが流れ込んできたのがわかったので、食べ進めながらも検証を始める。

 

 時間の経過で記憶の読み取りが薄れるのは、やはり推測通りだ。さらに新たに分かった事として、経過時間によって記憶の読み取りだけでなく、力の量も減ってしまっているみたいだ。

 お父さんと同じ二級冒険者のお母さんを食べているのに、お父さんの時に感じた程の充足感が無いし、念の為に身体へ魔力流して容量を確かめてみたが、お父さんの時と比較しても一割程度しか増えていなかった。

 

「……失敗したわね。悠長にクズ肉なんて食べてる場合じゃ無かったわ」

 

 そうぼやきつつも食べ進めていると、どうしても死体の状態が目に入る。

 せめてもの救いは、死んでから輪された為に本人達にその体験がない事だけであった。

 

 お母さんはともかくとして、娘エリスの方はさらに悲痛な気分になる。秘部から流れている血を見ていると、まだ経験が無かった彼女を汚された気持ちになり、特にこの娘と成り代わって考えている私には、自分が犯されたと錯覚してしまいそうだ。視界に入れるだけで沸々とした怒りが込み上げてくる。

 

 

 私はこの妻娘を、食べられる限界まで精一杯食べてあげた。

 お父さんの時は無我夢中に、しかも八つ当たり気味で食べてしまった事を思い出して苦笑いしつつも、せめて私の中では、三人一緒に安らかに居て欲しいと願う。

 

「これからは、こんな気持ちになる食事はしたくないわね……」

 

 少しの間、悲しい気分に浸りそうになったが、まだ目的は終っていない。

 

 すぐに下げた顔を上げて死体を視界に収めると、死体のお腹辺りを片手で支え、そのまま優しくゆっくりと抱き上げるてみる。

 死体を持ち上げられるか少し心配していたけど、強化された身体能力で苦労無く運べそうであったので安心した。初めから運ぶことを見越して、食べる時は手足へ集中して口に運んだので、妻娘共に地面で引きづる事無く運ぶことが出来そうだ。

 

 二人を抱き上げたまま、周囲を音を拾って警戒しつつ、来た道を戻るために歩き出した。

 

 

 

 

 お父さんの所に戻ってきた私は、運んできたお母さんと娘エリスの死体を、お父さんの両脇に寄り添わせるようにして下ろした。

 時間は夜も明けて朝になろうかという時間だったが、陽の光は壁によって遮られており薄暗い。出来れば陽の当たるところへ連れて行ってあげたかったが、ここでは難しそうだ。

 

「お父さん、ここで見ていてね。私がきっとこの国を壊してあげるからね」

 

 みんなの前で決意表明をした私は歩き出す。

 この家族の優しい思い出と、悲しくなる気持ち引き連れて。

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