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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
16/52

016

 

「マリー!」

「あ、エリスさん、おかえりな――っきゃ!?」

 

 私はマリーを見つけると、すぐさまその胸に飛び込んだ。

 マリーは慌てながらも私を受け止めてくれたので、そのままその豊満な胸に顔をうずめる。

 この場所は関所からそこまでは離れていない場所であり、最初にアリーセ達が入ってくるとき、監視に使っていた場所であった。

 

「マリー、マリー! 会いたかったわぁ」

「そうでしたか、ふふっ、ありがとうございます」

 

 はぁ、落ち着く。

 ゼクスの話を聞いてからというもの、マリーが恋しくて仕方が無かった。

 

 そうやってマリー成分を補っていると、後ろから遠慮がちに声が掛かる。

 

「……お、お嬢」

「ん? あぁ、ゲロルドにカール。アナタ達は準備出来ているかしら」

「それはバッチリだ」

 

 そう返すゲロルドの後ろを見ていると、十人くらいの男達が待機していた。

 既に別の場所でも二十人ずつくらいで一纏まりになっているグループが三つあるはずであり、その内二つのグループをそれぞれカールやゲロルドに任せるつもりだ。

 

「で、彼らは今どの辺りかしら」

「あぁ、お嬢たちと別れた後すぐに足を止めて話し合いをしていたみたいだ。恐らくもう少ししたら、関所の所までくると思うぞ」

「そう、ありがとう。流れはわかっているわね? それじゃアナタ達もそろそろ配置へ移動しなさい」

「あぁ大丈夫だ! いよいよだな!」

「よし、じゃあまた後で会おう」

 

 ゲロルドは祭りが始まる気分なのか、ウキウキとした足取りで持ち場へ行き、カールもそれに続いたのを見送る。

 私はマリーに抱きついたままでいたので、そのままマリーへと顔を近づける。

 

「マリー、ついに外へ出るわよ。そして出たら、一緒に……」

「はい! それまでは必ずエリスさんだけでも守り抜きます!」

「えっ?……いや、それでは――」

「――見えたぞ!」

 

 だめなのよ……。と続けようとした私の言葉は、監視していた男の声に遮られた。

 視線を向けるとアリーセ達が見えており、間も無く関所へ入るところであった。

 

 っ! タイミングの悪い。しかし責めてばかりいても仕方が無い。

 さっきの言葉と、その他の想いも出た後に伝えれば良い。ここは行動をするときだ。

 

「突入するわ! カールやゲロルドへも合図を出しなさい!」

「はいっ!」

 

 少し待機し、合図が行き渡ったのを確認すると、私はすぐに駆け出した。

 男達の速さにあわせるように速度を緩めて向かい、先行しすぎて孤立しないよう気をつけて関所の前へと向かった。

 

 

 

 

 入り口の前までいくと、一人の兵士が武器を持って構えていた。

 恐らく向こうからもこちらが見えていたのであろう、既に抜剣している。

 遠目で見たときには二人で待機していたはずだが、恐らくもう一人はアリーセ達を先導しているのだろう。となれば、時間はまだ大丈夫だと思う。

 

「おいお前ら! そこで止まれ!」

 

 私は身体強化を使って速度を一気にあげると、兵士の側面へと回り込む。

 緩急ついた速さに対応出来なかった兵士は私の姿を一瞬見失い、あらぬ方向へと視線をやっていたので、横腹へ向かって遠慮無く拳を突き出す。

 すると兵士が纏っていた鎧を簡単に突き破り、風穴を開けることが出来た。後は放っておいても事切れるだろう。

 

 そこでやっとカール達も合流する。

 

「アナタ達はすぐに中へ向かいなさい、恐らくまだアリーセ達がいると思うから、その間に制圧しなさい」

「おう!」

「わかっている!」

 

 それぞれ怒鳴るように返事を返したかと思うと、数十人の男達を伴って中へ雪崩れ込んで行く。

 私は風穴を空けて蹲っている兵士から剣を奪い取り、彼らに続くよう中へと入る。

 

「ぐわぁっ!?」

「ぎゃぁああああああ」

 

 関所は分厚い壁の見た目通り、抜けきるまでには少し距離がある。

 入って少し進むと狭い通路が右に折れており、その先に大きな部屋がある。さらに進むとまた狭い通路で左に折れており、そこから外へ出る事が出来る構造となっている。

 その中で化物がいるのは中央の大部屋で、入って左右の壁際に檻が一つずつ設置されているのを記憶で見て知っている。

 

「この野郎! なめるなよ! うるぁ! ぐぶぁ!?」

 

 ふむ、順調に圧倒出来ているようだ。

 断末魔は先行している前の方から断続的に聞こえてくる。

 このまま進めれば――

 

「お嬢!! やばい、既に一匹出てきているぞ!」

 

 ――何?

 今の声はカールだ。そして出てきているというのは……

 

「っち、こいつは俺達だけじゃ無理だ! お嬢、早く来てくれ! 周りのやつらは兵士を抑えていろ!」

「何があったの!? っ! すぐに行くからもたせなさい!」

 

 私は舌打ちしながら身体強化を二割にまで高め、目の前にいる男達の頭越しに側面の壁へと移り、先行しているカール達の元へと向かう。

 幸い天井が高いので、そのまま側面の壁を走って中央の大部屋へと入ると、それはすぐに視界に入った。

 

 そこにはカールやゲロルドの五倍はありそうな巨体であり、大きな蜘蛛みたいな生き物であった。

 長い手足が両側に四本ずつあり、手前の二本を器用に操って男達を串刺しにしていた。

 圧倒的にこちら側の男達の方が多かくやられていたが、兵士達も例外なく刺し殺されているのが視界に映る。

 

 何故このタイミングで? しかも、通路を塞ぐように待ち構えているようにしているの!?

 そうだ、アリーセ達はどこに!?

 

 左右に首を振って周りを見ると、片方の檻が開いた場所で、ゼクスが笑顔で私に手を振っていた。

 あのエルフ! 邪魔をするなと釘を刺したはずだが、まさかこの場で邪魔をしてくるとは!

 

 そうして睨むと、ゼクスの振っていた手がある方向を指差しているものに変わる。

 逆側の壁だ。その指に釣られてそちらに視線を向けると、まだ閉ざされている檻が見える。しかしその前にいるのは――

 

「――エルナっ!?」

 

 エルナが壁の前で魔法の障壁を張って、アリーセ、バシリー、ヴォルグが入って来ないように抑えていた。

 

 どういうことだ? エルナ以外の全員が、兵士達へ情報を伝えたのか?

 いや、であれば兵士達は既に退避しているはずだ。とすると、これは一体?

 

「お嬢っ!! まだか!」

「っ!?」 

 

 カールの切羽詰った声が聞こえて我に返った。

 そうだ、出口は化物の後ろであり、状況的に見てあの化物はどうしても邪魔だ。

 

 エルナも心配なのだが、これ以上はカール達も耐え切れないだろう。

 すぐに化物を倒してから、エルナのところへいって事情を確認しよう。

 

 そう決めた私は、走っていた壁を蹴って化物の頭上へ出る。

 兵士から奪った剣に魔力を流していき、切れ味を高めながら振り下ろす。

 

「アナタは不要よ、さっさと退場しなさ……っ!?」

 

 もう数瞬で頭を斬り落とせると思ったが、甘かったようだ。

 私の動きを複眼でしっかりと捉えていたみたいで、私の動きに合わせてすぐに男達を貫いていた前足を戻し、剣が受け止められる。

 

 その足はとても固く、半ばまで刃を食い込ませる事は出来たのだが、そこで止められてしまった。

 そして対の手で私を貫こうと迫ってきていたので、私は剣から手を離して身体を翻し、柄の部分を蹴ってその場から飛びのいた。

 

「これは、すぐにどうこうっていうのは難しそうね……」

「っち! お嬢でも難しいか、どうする?」

「とりあえず、カールは獣化しなさい。一本ずつ足を折ってやるしかなさそうだと思うわ」

「もう一匹出てきたらまずいしな、さっさと終らせよう……ふんっ!」

 

 カールはすぐに自身の持てる魔力を全て強化に回して、魔力枯渇を早めつつ攻める。

 対する蜘蛛の化物には痛覚が無いのか、剣が刺さった事に意を返さず目に入った人を次々と刺し殺していく。

 

「ゲロルド! マリーを護衛しながら、少し離れていなさい! 他の皆も離れなさい!」

「確かにこれじゃ、俺だと手出し出来ないしなっ」

「エリスさん、危険です!」

 

 この場では、マリーも含めてほとんどの人たちが戦力外だった。

 いてもいなくても代わらないのであれば、出来るだけ命を落とさない方が良い。

 そう思って離れるように伝えると、男達は既に逃げようとしていたようであり、速やかに化物の近くに人はいなくなった。

 

 戦いやすくなったので、すぐさまカールと私で化物へと突っ込むと、化物も迎撃しようと前についている足を二本ずつ持ち上げた。

 そして私達が射程距離に入るのをみるやいなや、すぐさま前足が振り下ろされる。

 しかし、私達には掠りもしない。

 

 ここには冒険者で言えば、四級以上の戦力が二人もいる。

 お父さんの能力や、他の男達の分まで強化している私にとって、蜘蛛の化物の速度を見切るのは難しくなかった。

 

 蜘蛛の化物の足をやりすごすと、その足の側面をそれぞれの獲物で攻撃を仕掛ける。

 私は既に限界の三割強化を済ませている拳で殴りつけ、カールは錆びた長剣で浅く切りつける。

 

 カールの方は軽微な損傷だったが、私の拳で殴った箇所は大きくへこみ、足があらぬ方向へと曲がった。

 

「……硬いわね。けれども、時間を掛ければすぐに畳めそうだわ」

「お嬢、こっちもそろそろだ」

 

 カールがそう声を掛けてきたかと思うと、一瞬にして巨大な狼へと変化する。

 大きさは蜘蛛の半分も無いが、それでも見た目通りの質量で攻撃が出来るのは大きい。

 これでもう少し時間を短縮出来そうだ。

 

 蜘蛛の化物も本能で不利を悟ったのか、後退を始めた。

 しかし、すぐ後ろは関所の出口であり、蜘蛛が出られる大きさは無い。

 それを見た私は、この生き物をどうやってここまで運んだのか一瞬気になったが、今はどうでも良いかと捨て置く。

 

 そのまま壁に向かって後退を続けていた蜘蛛は、突然その巨体を丸めるようにして、尾をこちらに向けて突き出してきた。

 普通の大きさの蜘蛛を見た事も食べた事もある私には、この行動にある程度の予測がついていたので、すぐにその場を離れる。

 

 案の定、蜘蛛の化物は尾から糸をばら撒いてきた。その範囲は思っていたより広かったが、事前に移動していた私までは届かない。

 カールへと視線を向けるが、こちらも無事に避けていた様だった。

 

「カール、エルナの方が心配だから、すぐにやるわよ」

「あぁ、討伐依頼で受けた化け物よりもだいぶ弱い。これならなんとかなりそうだな」

 

 蜘蛛の化物が糸を撒き終える前に、私達は化物へ肉薄する。

 私は別の足を殴りつけ、カールは長剣を捨てて同じように殴りつけていた。

 恐らく私の魔力で強化した剣が通らなかったのを見ての判断であろう。

 

 私の拳は先程と同様の結果を残し、カールの拳は私の威力よりも低かったが、圧する面積が大きい事で同じような結果をもたらした。

 蜘蛛の化物は二本の対の足を使えなくなりバランスを崩したので、一気に残りの足も殴りつけて使えなくする。

 

 全ての足を潰し終えると、完全に蜘蛛の化物は無力化できた。

 あとは頭部分で噛み付くしか無いだろうが、近づかなければ問題は無いのでいつでも始末できるだろう。

 

 そう思った私は、処理を終えた蜘蛛の化物からエルナの方へと意識を移すと、エルナに対してアリーセ達が攻め込んでいるのが見えた。

 

「っく……」

「早くどきなさい! このままじゃ私達まで!」

「そうだ、仕方がないじゃないか!」

 

 エルナの魔法で結界を張り、ヴォルグやバシリーの剣を弾いて無力化しているみたいだったが、そろそろ顔色から限界である事が見て取れた。

 

「や、だよ……友達だもん、助けないと……!」

「っち、結界が壊せねぇ! アリーセ、魔法を使ってくれ!」

「仕方が無いわね……『蒼の力よ 我が魔力に集いて形を成せ』」

 

 ヴォルグの声でアリーセは魔法の詠唱を始める。

 その声に乗った魔力は、何も無い空間に変化を起こし始めた。

 

「やめて! コレが出てしまえば、エリスちゃん達が危なくなっちゃう!」

「『第一節 アクアボール』 悪いわね」

 

 その瞬間、アリーセの頭上に巨大な水の塊が出来た。

 初めて肉眼で見た魔法に感心しそうになるが、今はそれどころでは無い。

 

 すぐに身体強化をしている足で、地を蹴って向かおうとするが……

 

「う、うぅぅう……きゃぁ!?」

 

 私の行動は一足遅く、アリーセの魔法でエルナは障壁ごと吹き飛ばされた。

 そしてエルナが背にして守っていた檻にも魔法はぶつかり、扉が壊されてしまった。

 

「よしっ! すぐに出るわよ!」

「あぁ――って!? 化物が道を塞いでるよ!?」

「しかも、もうヤツらまで来ているじゃねぇか!」

 

 どうやらアリーセ達は、エルナの防衛を突破するのに集中しすぎて周りが見えていなかったらしい。

 

「え、エリスちゃん!? もしかしてその化物は、エリスちゃんが倒したの……?」

「さぁね」

 

 アリーセが驚いて聞いてきている事を適当に流しながら、周りの状態を確認する。

 吹き飛ばされたエルナには意識が無い様だったが、弱々しくも自分の周りに障壁が張りなおされていた。

 そして、その横から……

 

「グルルルルゥゥ……」

 

 先程の蜘蛛の化物と同じくらいの大きさの巨体を持つ、純白の狼が出てきた。

 幸いにもエルナの方には目もくれず、アリーセ達を睨んでいる。

 さっきのアクアボールに、檻の中で避けられなかった化物も巻き込まれたようだ。

 化物の様子にアリーセ達も気がついたのだろう、焦った様子で叫びだす。

 

「は、早く出るわよ!」

「だからっ! でっかい虫が道を塞いでいるんだって!」

「くそっ! 一旦区画の方に……っちぃ! ヤツらが邪魔で出られねぇ!」

 

 入り口からはこちらの男達が八十人弱で押し寄せてきており、それが道を塞いでしまって彼らは逃げられない。

 私は焦っている彼らに会話を望めないと考え、矛先をゼクスへ変える。

 

「ゼクスっ! 私は邪魔をするなと、言わなかったかしら!?」

「爆弾狐さん、それは誤解っすよ。自分はなぁーんにも邪魔して無いっすよ?」

「じゃあ! この状況は! この化物はどう言うつもりよ!」

「その辺は全部そこの三人がやったんすよー。自分じゃないっすー」

 

 だめだ、こっちにも話が通じない。

 仕方が無い、一旦化物をどうにかしてからアリーセ達から話を聞こう。

 

「グルルルァアアアアアア!!」

 

 そう思ったのだが、何もかもうまくいかない。

 化物が咆哮を上げると、バシリーは耐えられなくなったのか、剣を片手に駆け出した。

 

「くっそ、こんな所でやられてたまるかぁぁぁぁあああ!」

「フゥー……」

 

 地を蹴って跳躍、剣を大きく振りかぶり、正面から化物の頭を狙って斬り付けようとしている。

 化物はそんなバシリーに向かって大きく息を吸うと、何かを吐き出す。

 吐き出されたものは、白い霧状のものだった。

 

 それを真正面からもろに浴びたバシリーは、振りかぶった体制のまま固まり落下。そして――

 

 ――パリーン

 

「えっ?」

 

 粉々に砕け散った。

 

「ちょ、バシリー! 嘘でしょう!?」

「くそっ! コイツはやばい! アリーセ、逃げるぞ!」

「え、えぇ!」

 

 区画から入ってきている男達に紛れる為、ヴォルグとアリーセは駆け出す。

 しかし化物の方が動きが早くすぐに回り込まれ、軽く振ったように見えた前足に、アリーセが吹っ飛ばされる。

 

「かはっ」

 

 軽く振ったように見えたのに、飛んでいくアリーセの速度は尋常ではない。

 そのままの勢いで壁に直撃したアリーセだったものは、真っ赤な壁の染みとなった。

 

「お、お嬢……」

「えぇ、アレはまずいわね」

 

 そうこう言っている間に、ヴォルグも真正面からあの吐息を浴びてしまい、既に固まっていた。

 そして同時に、その吐息についても理解する。

 

 これは、冷気。

 バシリーも、今のヴォルグも凍ってしまったのだろう。

 さっきの糸なんか問題にならない程、これは不味い……

 

「グルルァァァァァアアアア!!」

 

 化物は自身を害した相手を倒したのにも関わらず、落ち着く気配が無い。

 アリーセ達と同様に逃げ道の無い私達も、いずれは同じ道を辿る可能性が高いかもしれない。

 

「っく……外はもう目の前なのにっ! 何かないの? 何か……」

「爆弾狐さーん」

「なによっ!!」

 

 焦りながらも思考を続けている私に、ゼクスの間の伸びた声が掛かる。

 反射的に怒りとともに睨みつけると、出口の方へと指を向けていた。

 

「あぶないっすよー?」

「えっ? ――ッ!?」

 

 そこには処理を終えていた蜘蛛の化物が、尾をこちらに向けていた。

 そしてすぐに糸が射出される。

 

「っく」

 

 反応が遅れて避けれなかった私は、糸を全身に浴びてしまう。

 そしてそのままその場に縫い付けられ、動けなくなってしまった。

 身体強化している体でブチブチと引き剥がすが、数秒程度の時間が掛かりそうだ。

 

 さらに間の悪いことに、ゼクスに対して叫んでいた私は目立ったのだろう、狼の化物に狙われていた。

 

「グルルルゥ……」

 

 おかしいっ! どうしてこの様な事になったのか? 自分の見積もりが甘かったのか?

 いや、そんな事よりも!

 

「フゥー……」

 

 まずいまずいまずい!

 化物はこちらに向けて、息を大きく吸い込んでいた。

 糸を引きちぎって離脱しようとしているが、伸縮もするこの糸はなかなか外れない。

 だめだっ、これでは間に合わない!

 

「グルルァァァァァアアアア!!」

「っん!」

 

 一か八か、私は五割を超える魔力量で身体強化を行い、冷気に備える。

 身体中が引き千切られるかの様な痛みだ。恐らくこれ以上やれば、私の体が即自壊してしまうだろう。

 

「エリスさん!」

 

 その時、私と狼の前に誰かの影が飛び出してきた。

 その人物は、とても見覚えがあるものだったが、目の前の真っ白な吐息は直前まで迫っている。

 

「絶対に、あなたを守りますから、安心して下さいね?」

「……なっ!? ま、マリー? だめよっ、逃げ――」

 

 ――そして、私の視界は真っ白に染まった。

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