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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
15/52

015

 

 ゼクスとの話を打ち切った私がアリーセ達のところへと戻ると、既に調査を終えたようで皆集まっていた。

 

「あ、エリスちゃん! って、どうしたの?」

「なんでもないよ、アリーセお姉ちゃん」

「……?」

 

 気持ちが表情に出ていたのか、アリーセから心配そうな顔で声をかけられてしまった。

 その後ろの方でエルナも首を傾げている。

 

「ゼクスお姉ちゃんと、ちょっとお話してたの」

「あら、そうだったの? ……ちょっと、エリスちゃんに何かしたの?」

「ご、誤解っすよ!? 本当に少しお話をしてただけっすから」

 

 表情をそのまま表に出してしまうとは……私が思っていた以上に、ゼクスとの会話で精神的に追い詰められたらしい。

 だが大丈夫だ、今の思考はかつて無いほど冷え切っている。目的を強く意識できたからか?

 あぁ、マリーに会いたい。早く外へ出たい。

 この冒険者達とのやりとりすら煩わしいが、出る為には必要な事だから仕方が無い。

 

 さて、ゼクスとの会話でそこそこ時間も経ったと思うので、そろそろ次の場所へ誘導しよう。

  

「あれ? この先でなんか音が聞こえるよ? 誰かが戦ってるみたい」

「なに!? どこだ?」

「こっち」

「よし、いこう」

「あ、ヴォルグばかっ! エリスちゃんも危ないよ」

「まぁまぁ、調査結果もあまり良くないし、僕達も追おう」

 

 ヴォルグがいち早く反応し、すぐに私の後ろを追ってくれた。そしてその後ろを、他のメンバーもついて来てくれていることも確認できた

 本気で走れば置いていく事になる以上に、か弱い子供としては不自然に思われると思ったので、走っているように見せながらゆっくりと移動する

 

 

 

 

 走り出して少しすると、路地の中央あたりで人が三人見えた。

 一人は倒れており、一人は蹲っている。そして最後の一人が武器を二人へと突きつけ、血だらけで立っている。

 

「おい、そこのやつら!」

「はぁ、はぁ……ん?」

 

 私達がその場に辿りつくと、すぐにヴォルグが声を上げて立っていた人の注意を引く。

 そして声に気がついた血みどろの男が振り向くと、ヴォルグ……を通り越して私に視線が固定される。

 

「エリス、か?」

「カールさん!」

「知っているやつなのか?」

「うん、カールさー、ん!?」

「エリスちゃん、待って! 危ないかもしれないから、行ってはだめよ!」

 

 声を掛けつつ駆け寄ろうとするが、すぐさまアリーセに手を捕まれ抱き寄せられた。

 まぁ良い。ここまで来れば、ほとんど作戦は完了である。

 

「お、おい! あの倒れているやつって……」

「あー、別れた男二人の内の一人っすねぇ」

「なんだと!? お前がやったのか!」

 

 バシリーが観察員の男に気づいてくれたみたいだ。

 この作られた状況から案の定、ヴォルグが怒声をあげてカールに詰め寄ろうとする。

 

「待て、俺はこいつらに襲われたんだ! それにお前らこそ、エリスに何してやがる!」

「このお嬢ちゃんは、俺達の調査を手伝ってくれていたんだ。それよりも、襲われただと?」

「あぁ、何でも俺達を素材にして化物を作るとかいってきたんだ」

「っちぃ! わけがわからん! 仕方がない、とりあえずもう一人の男も逃がすなよ」

 

 ヴォルグの指示にバシリーが動き、蹲っている男を拘束する。

 その間にカールは武器を収め私に視線を送ってきたので、頷いておく。

 

 この場にいたのは、カールと観察員、そして、以前に仲間を検証で食べさせて貰った、唯一の生き残りの男。

 この男には今回の件をうまくやれば助けてやると言い含めてある。

 

 視線を観察員へと移すと、昨日行われていたカールのお礼を改めて受けたのだろう、最後に見た姿よりもさらに酷い状態となって事切れていた。

 

「お、俺はこっちの男に雇われていただけなんです! 助けて下さい!」

 

 ふふっ、この男も必死だ。

 もしもヘマをすれば、仲間と同じように生きたまま食べる事を伝えてあるので、表情にも気迫がある。

 私はアリーセから解放して貰い、バシリーに拘束されている男の方へと歩き出す。

 

「ひ、ひぃっ!? 本当なんです! 俺は本当に雇われていたんです!」

 

 男は私が一歩近づくごとに段々と顔を青くしていき、必死に叫んで伝えようとしていた。

 

「わ、わかったから少し落ち着くんだ! 話が全くわからない!」

 

 バシリーが男を拘束しながらも、宥める様に言って落ち着かせようとする。

 私もこれ以上は逆効果になると思い踵を返して離れてやると、男も落ち着いたのか、ゆっくりと台本を読むかのように喋りだした。

 

「お、俺はこの人達、観察員と呼ばれるヤツらから依頼を受けていました。ここに住んでいる人達を攫って、そいつで実験をするという内容のものです」

「なんだと!? じゃあこの男ともう一人のやつも……」

「はい、どちらも観察員です。片方は姿をくらましたようですが」

 

 こちら側の自演なのだが、それに気づかれなければ問題は無い。

 唯一反論出来る位置にいた観察員の男達は、既にどちらも始末しているので思うように誘導が出来る。 

 ただ一人、コイツを除けば。

 

「ゼクス」

「ん? なんすか?」

 

 少し離れた位置で事の推移を見ていたゼクスへ近づき、周りに聞こえないように話を進める。

 

「アナタの立ち位置は知らない。けれど、ここで邪魔はしないでね」

「ここでは邪魔をしないって言ったっすから、なんもしないっすよ。だけど爆弾狐さんは、一体何するつもりっすか?」

「私はただ、ここから早く出たいだけ。アナタの話を聞いてより強くそう思ったわ」

「ふーん、だからこんな回りくどい事を……けどこんな事しなくても、自分が爆弾狐さんを出してやれるっすよ」

「……いいえ、アナタとは一緒に行けないわ。外での暮らしは、他の人との先約があるのよ」

 

 ゼクスは私の言葉に一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐに口元を押さえて噴出す。

 

「っぷ! あはっ、無理無理、無理っすよ爆弾狐さん。忘れたんすか? 自分ら、化物なんすよ? 普通の人と一緒に生きられるわけないじゃないっすか」

「いいえ、化物はアナタだけよ。私はエリス、普通の亜人なのよ」

「…………へぇ」

 

 そう、私はエリスだ。

 ノインというのはゼクスが言っているだけの、仮想の人なのだ。そんなものに付き合ってやる必要は無い。

 外へ出られればもう関係が無いし、マリーにその話をするつもりも無い。

 

 短い言葉を最後に、ゼクスは黙り込んだ。

 その表情からは笑みが消えており、視線の温度が下がっているように感じる。

 

 とりあえず話しかけた感触では邪魔をされそうな雰囲気ではなかったので、私はゼクスから離れカール達の所へ近づいてみる。

 

「……つまりだ、ここの区画は実験生物を作るために人を監禁していて、必要になったらその素材として使われるって、そう言う事か?」

「はいっ! そうなんです! それが観察員がここへ来る理由で、そこの男を襲った理由になります!」

「っちぃ! ペラペラと喋りやがって、話の内容も突拍子ねぇし信じらんねぇなぁ……」

 

 説明は終っていたみたいだ。お疲れさま。

 男はいつの間にかバシリーが持っていた縄で拘束されており、動けない状態で転がされていた。

 

 まぁ、別にこの作り話は信じて貰えなくても問題ない。

 ただ可能性があるという事だけ聞いて貰えれば充分なので、転がされている男の役目は終わりだろう。

 

「アリーセお姉ちゃん……エリス達も、化物になっちゃうの?」

「えっ? あ、いや、多分この人の作り話よ」

「そうなの? 本当に?」

「え、えぇ、きっとそうよ」

 

 ダメか。能動的に動いてもらえるような意志は感じられない。

 恐らくアリーセ達もわかっているのだろう。ここで事を大きくして動き出せば、必ず国に目を付けられる。

 本心では動いてやりたいとは思っているのだろうか、私から目を逸らして奥歯を強く噛みしめている。

 

 さて、そうなるとここはカールに任せるのが無難か。

 視線ですぐにカールへと指示を出す。

 

「俺は実際に襲われたんだ。コイツらの妄言だったら問題は無いが、そうじゃないかもしれない」

「そうだったなら、お前はどうするんだ?」

「仲間を集めて、ここから出る!」

「そう、か。まぁそうだよな……くそっ!」

 

 バシリーは悪態をつきながら、力を貸せない事に苛立っているのだろう。

 これなら次善の策を頼むのに、恐らく問題は無いだろう。

 カールに問題ないから続けるよう視線で促し、了承の意を返す代わりに喋りだす。

 

「本来ならアンタらにも手伝って貰いたいところだが……そっちも事情がありそうだな。ならせめて、これだけ頼んでも良いか?」

「なによ」

「アンタらならここを出る事が出来るだろう? そのときだが、ゆっくりと関所を通ってくれないか?」

「そうだけど、ゆっくりってどういう事かしら?」

 

 パーティリーダーとして、アリーセが私を抱えながら受け答えをする。

 調査は不完全ながらも終っているので、出る事については肯定した。

 しかし今の内容では意図が伝わらないのだろう。カールも先程の男と同じ様に、私の書いた台本通りに続ける。

 

「この内と外を繋ぐ場所、あそこに化物がいると聞いたんだ。そいつらが出てくれば、きっと俺達が何人集まっても出る事は難しいだろう」

「それで何で、私達が時間をかけてそこを通る事と繋がるのかしら」

「絶対の確証は無いが……恐らくアンタらが通ってる間は、化物が出てくる事はないと思っている。自分達や、死んではいけない人を避難させてから解き放つと思うんだ」

「つまり、私達は彼らの足枷みたいなものってこと?」

「あぁ、危険な役割だとは承知しているが、頼まれてくれないか?」

「そうね……」

 

 これは私の予想だったが、国から依頼されて入ってきた冒険者を関所で殺してしまう事はないだろう。

 そしてこの方法であれば、表だって国と対立するわけでないので、了承され易いとも考えている。

 

 しかし、私の思惑とは逆に、頼みの内容を聞いたアリーセは、考えこみながらヴォルグやバシリーへと視線を送っている。

 その視線を受け取ったバシリーは視線を逸らし、ヴォルグは腕を組んで目を伏せていた。

 

 ……あまり感触が良くないのか?

 確かに命を危険に晒す内容なので、簡単に返事が出来ない事はわかっていたのだが……

 

「アリーセお姉ちゃん!」

「エ、エリスちゃん……」

 

 アリーセから返事は返ってくるが、それでも目をあわせてくれない。

 反応はどう見ても芳しくない、か。

 想像以上に慎重なパーティなようだ。戦闘音で真っ先に釣れたヴォルグでさえ目を伏せたまま動かない。

 

「エリスちゃんだけなら、私達と一緒に……」

「うぅん、マリーさん達もいるし、エリスだけではいけないの」

「そう、よね、ごめん。ごめんね……」

「大丈夫だよ! エリスも頑張るから!」

 

 全てがうまくいくと思っていたわけでは無いのだが、次善の案でもうまくいかないか。

 まぁそうなれば少し作戦を変更して、アリーセ達が入ってすぐに突入すれば良い。

 ここは不信感を持たれないように振舞って、変に気取られる前に関所へ行ってもらおう。

 

「おじさん、お兄ちゃんも、そんな悲しそうな顔しないで」

「うっ、悪い……ほら、これやるよ。これくらいしか出来なくてすまない……」

 

 そういったバシリーは、懐から飴玉の入っている袋を取り出し、袋ごと渡してきた。

 

「え、そんな……お兄ちゃんもこれ好きだって、それに高いって……」

「良いんだ、出来れば全部食べて欲しい」

「うんっ! ありがとう!」

 

 私は受け取った袋を首から大事にぶら下げ、バシリーへお礼を言って踵を返す。

 そしてエルナの前に立つと、スカートの裾を持って広げる。

 

「エルナお姉ちゃんもありがとう! この服、お気に入りなの! 大事にするね」

「うぅ、私も、貰ってくれてありがとうだよ」

 

 エルナからじっと視線を感じる気がする。

 この子はオドオドしている割に、結構人の事を見ていると思う。

 前髪で隠れているから、気づかれていないと思っているのかもしれない。

 

「ま、また、会えるかな? また、服を作らせて、ほしいな……」

「……うん! 会える! だってお姉ちゃんとエリスは、もうお友達だもん!」

「とも、だち?」

「うん! それともエリスが思ってただけで、違ったの……?」

 

 私がそう聞くと、エルナはビクっと身体を震わせて、迷うように聞いてきた。

 

「わ、私が友達でも、いいの? 私はこんなの、だけど……」

「うぅん、エルナお姉ちゃんと、友達がいいの! でも、じゃないもん」

「っ! わ、わかったよエリスちゃん、私達は、お友達。えへへっ、ともだち」

 

 エルナは自分に自信が無い性格で、人との会話を苦手としていると思うが、こんなに喜ばれるとは思わなかった。

 最初に近づいたときは他意しか無かったが、会話したり、服を作って貰ったり身体を洗って貰ったりして、マリーほどでは無いが、エルナに対しても割と好感を持っていた。

 そんな相手が喜んで友達になってくれたので、これも素直に嬉しく思う。

 

 外に出たら、真っ先にマリーと一緒に会いにいこう。

 そしてまた、服を作って貰って一緒に出かけたりしたいな。

 

 

 エルナとも会話を終らせ、カールの傍に立って皆に声をかける。

 

「それじゃお姉ちゃん達、外でまた会えたらまた遊ぼうね!」

「えぇ、手伝ってあげられなくて、ごめんね……」

「無事を祈ってるよ」

「生き残れよ」

「えへへ、お友達……うん、友達は友達の役にたたなきゃ、だめ、だよね。うん」

 

 そう言ってアリーセ達は私達に背を向けて、関所へ向けて歩き出す。

 ゼクスはそれまで一言も喋らず、彼らの一番後ろに付いていった。

 

 私はそれを見送りながら、カールへと声を掛ける。

 

「お疲れ様。まぁ今回は相手が悪かったわね」

「あぁ、それでどうするんだ? 化物相手だと厳しそうだと思うが」

「仕方が無いから予定を早めるわ」

「それしかないよな。じゃあ俺はすぐに準備するから、最後の指示だけ頼むぞ」

「えぇ、頼りにしているわ」

「っは! ここまであいつらを誘導したお嬢に言われても、正直信じられねぇけどな。まぁ任せておけ」

「ふふっ、その辺りも含めて頼もしく思うわ、任せたわよ」

 

 そう言って縛られている男を連れて行くカールも見送りながら、バシリーから貰った飴玉の一つを口に放る。

 うんっ、甘い。

 

 

 いよいよ作戦も大詰めであり、必要な情報は手に入っている。

 

 作戦は単純で、アリーセ達が関所へ入ったのを確認したら、すぐに私達も突入するというものだ。

 兵士は恐らく十五人程度であり、人数にものを言わせて全員排除。理想としては化物を檻から出される前に決着を付けたい。

 

 アリーセ達が頼み事を聞いてくれていれば、化物の開放まで時間の猶予が出来たと思うが、これはもう仕方が無い。

 だけどこちらも背に腹は代えられないので、もし化物が出てきたら一緒に的になって貰う事になり、そこだけは彼らに悪いと思う。

 

 さて、そろそろ時間も無い。私も待機場所へ移動しなければ。

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