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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
14/52

014

 その後、少しの時間を掛けて持ち直した私は、マリーを連れてカール達がいる別の廃墟で合流していた。

 

 カールに連れて来られていた観察員を見ると、体中痣や切り傷を作って気絶してはいるものの、まだ息をしていた。

 

「ちょっと来るのが早すぎたかしら」

「大丈夫だ。もうこっちでのお礼は済んだから、後はお嬢が手に入れた情報次第では処理しようと思っているぞ」

「あら、私が情報を引き出すのに失敗すると?」

「いや、そういうわけじゃねぇが、念のためにもな」

「ふふっ、まぁいいわ。情報はしっかりと手に入っているから安心して良いわよ」

 

 カールも本当ならこの男を殺したかったのだろうが、目的を間違えないように考えて行動しているのだろう。

 最初にも感じた事だが、必要以上に人数を集めようとしていたりと、カールは慎重に物事を進めようとするきらいがあるように感じる。

 いや、もしかするとカールみたいなのが普通で、他の男たちが後先考えず行動し過ぎているだけかもしれないが……

 

 そんな風に考えつつ観察員へ近づき、傷の状態を確認する。良かった、まだ使えそうだ。

 

「さて、それじゃ手に入れた情報から明日の動きについて言うから、いつものメンバーと、そうね……彼を使おうかしら」

「ん? 彼ってどいつだ?」

「アナタ達を迎えたときに、ここで好き勝手してた生き残りの彼よ」

「……あぁ、アイツか。だが精神状態があまり良くないと思うが、使えるか?」

「それも含めて確認しておきたいのよ。じゃ、部屋で待ってるわ」

 

 カールへそう伝えると、私は使われていない部屋へ移動し、ベッドに腰掛けて待った。

 しばらくしていつものメンバーと、ゲロルドに引き摺られて連れてこられた男が入ってきたので、明日の動きについて説明を始める。

 カールやマリーからの質疑に応じ、ゲロルドが首を傾げていたので説明に補足を入れて話を進めていく。

 男の方は仲間を食べられた事で酷く怯えていたものの、取引を持ち出すとすぐに了承の意を返してくれたので、作戦に組み込む事にした。

 

 そうして話し合いも終わり、マリーと私はいつものように一緒の部屋で休む事にした。

 

 

「ついに明日ね。マリーは外に出られたら、何かしたいことはあるの?」

「外でですか? えぇと、特には考えていなかったのですが……あ、そうですね。エリスさんと暮らしたいと思っています」

「? そんなの、今と変わらないじゃない」

「それもそうでしたね。ふふっ、では外に出たら一緒にお買い物したり、料理を作ってみたりしてみたいですね。そういった何でもない暮らしで、ずっと一緒に過ごせたら嬉しいです」

「それでも今とあまり変わらないじゃない……欲が無いのね」

「私にとっては結構、欲張っているつもりなのですけどね」

 

 マリーはあまり欲が無いのか、そんな事を返してきた。

 私もマリーに対して悪い感情は無く、それ以上に温もりを与えてくれる人として見ており、手放す気は無い。

 なので、マリーの願いは私にとっての当たり前で、したいことには含まれない様な気がする。

 

「まぁいいわ。それじゃそろそろ寝るわよ」

「はい。それでは失礼します……」

 

 一緒の布団に入った私達は、他愛の無い話で暖かい時間を過ごす。

 マリーは結構良いものを持っているので、私はマリーに抱きつき、その柔らかく大きなものを枕する。

 ここは既に私の定位置と化しており、弾力を楽しみながら眠るのが習慣になっていた。

 

「それにしてもアナタの胸は、柔らかくて気持ちが良いわね。あ、でもいつも頭を乗せてるけど、重たいかしら?」

「そ、そうですか? いいえ、私もエリーさんが暖かくて気持ち良いですよ」

「そう、なら良かったわ。じゃあ明日も早いし、そろそろ眠るわ」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 声を掛け合った後、私は目を閉じてマリーの鼓動を感じながら眠りについていった。

 

 

 

 

 そして翌日。

 目を覚ました私は、お気に入りのワンピースの着心地を楽しんだあと、冒険者達の所へと来ていた。

 

「エルナお姉ちゃん、おはよう!」

「ぅ、お、おはよ」

 

 私が着いたときには皆で朝食を取っていたので、少し離れて座っていたエルナへ飛びつく。

 昨日は普通に話が出来ていたのに、今日はまた最初のときに戻っていたみたいな口調だった。

 しかし顔を逸らさなかったので、恐らく昨日よりも仲良くなれているのだろう。

 

「みんな、おはよう!」

「おはよう、朝からエリスちゃんは元気ね」

「おはよう」

「おう」

 

 アリーセから順番に他の人達にも挨拶をすると、それぞれ返してくれた。

 そして問題の――

 

「ゼクス」

「おは……って、何で自分だけ名前でしかも呼び捨てっすか!?」

 

 こいつからは、色々と聞き出さなければならない。

 ただしそれは、他の人の目が無い所で行いたかった。

 

 

 それからすぐに、皆の食事も終ったので、早速化物がいた場所へと案内する事になった。

 道中はアリーセに手を繋いで貰ったり、バシリーから飴玉貰ったりして、和気あいあいとした雰囲気だ。

 エルナも今日は服を作っていなかったので、何度か普通に会話しながら目的地へと向かっていった。

 

 

 しばらくして到着したので、私は皆の方へと振り返って伝える。

 

「ここだよ! ここに化物がわさわさー! ってしてたの」

「ここかぁ、でも特には何も無いわね」

「もう化物は討伐されちゃってるみたいだしね。死骸とかあればもっと良かったけど」

「その冒険者さんが、燃やしちゃったー! って言ってたの」

「グレッグさんが燃やしたのなら、確かに何も残らなさそうだね」

「地面には焼け跡とか、少しだけ残っているな」

 

 ここにはもう、何も無い。

 観察員の死体も、ケリーや娘の死体も全て移動している。

 前者は男達に運ばせ、後者は以前私が運んだからだ。

 

「さて、じゃ私達はちょっと調査してみるから、エリスちゃんはここで待っていてね」

「うん! あ、ゼクスお姉ちゃんはちょっと待って!」

「へ? 自分っすか?」

「少しだけ、お話があるの」

「んー? ま、いっすよー」

 

 アリーセ達が調査をしている中、ゼクスだけ呼び止めた私は、ゼクスの手を引いて離れた所へ向かっていった。

 

 

 

 

 物陰になって見えないところまで進むと、音でアリーセ達の位置を確認して安心する。

 だいぶ距離は取れたので、ここであれば会話を聞かれる事もなさそうだ。

 そう思ってゼクスへ向き直り、口調も元に戻して口を開いた。

 

「ゼクス、成功体であり識別番号六番」

「! 思い出したっすか!?」

 

 私の言葉にゼクスは一瞬驚き、すぐにニヤついた顔をして聞き返してきた。

 

 思い出した……? 

 その言葉を私は理解出来ない。

 そもそもこの知識は、観察員の男の中にあったものなのだ。

 

 ゼクスへの動揺を誘う為、あえてこのエルフ少女の正体を突きつけたのに、彼女は期待した目で見返してきた。

 これでは本当に、ここに来る前からの知り合いだったみたいではないか。

 

 まさか私の方が動揺させられるとは考えていなかったので、無防備な言葉を晒してしまう。

 

「私と、アナタは……以前の、知り合い?」

「? あぁなるほど、完全に思い出せてはいないみたいっすねぇ。良っすよ、少し教えてあげるっす」

「なにを」

「爆弾狐さんの事っす」

 

 私の事? 何を? 何で?

 考えが纏まらない、そんな事を聞きたくて連れてきたのでは無い。

 正体を突きつけて、本当の目的の確認や、作戦の邪魔をしないよう釘を刺そうと思っていただけだ。

 

 ゼクスの言葉は毎度、私の精神を不安定にさせる。

 聞いてしまってはいけない。

 今日には壁から出るのだから、ここで心に乱れがあっては計画に支障が出るかもしれない。

 

「せっかくだけれど――」

「爆弾狐さんも自分と同じ、成功体っす」

「――!? ありえないわっ、嘘よっ!」

 

 焦りながらも断ろうと口を開くが、すぐにゼクスの言葉に被せられてしまった。

 しかもその内容が内容だけに、無視出来ない私は叫びながらもその言葉を否定する。

 

 私自身にその記憶が無いから否定が出来る。だというのに、心のざわつきは収まらない。

 

「識別番号九番、ノイン。これが爆弾狐さんの本来の名前であり、記号っす」

 

 違う、そんな番号なんて知らない、ノインなんて知らない! 私はエリスだ!

 

「前は自分らと同じ実験を受けたっすよ? ちょっと事故があって、爆弾狐さんはここに取り残されたんすけど、思い出さないっすかね?」

「違う違う違う! 私はエリスよ! そんなの私は知らない! 私はずっとここにいたのっ!」

「はぁ、その名前は借り物じゃないっすか。それで、ずっとっすか? ちなみにそのずっとっていうのは――」

 

 嫌だ、聞きたくない。

 それ以上は、本当にいけない。

 次の言葉を聞いてしまえば、私の中で否定が出来る確固たるものが、瓦解してしまう。

 

 しかしその思いは、対面している彼女には伝わらなかった。

 

「――いつからっすか?」

「……」

 

 私はゼクスの言葉を否定したかったのに、言葉が出なかった。

 

 そう、私だけの記憶があるのは、お父さんに出会う少し前からのものだけだ。

 その前のことについては、恐らく空腹で意識があまり無く、加えて何も理解しようとしなかったので、無かったのだと思っていた。

 だけどもし、その記憶の空白がそうではなく、ゼクスの言うとおりだとしたら? 

 

「っ!? し、知らないっ、私は知らない! 実験体のこともっ、観察員も成功体のことも、当然ノインなんてものも今まで知らなかったっ! 私はずっと、ずっとずっとここにいたのよ! だから私は知らないっ!」

「どこまで思い出したかはわからないっすけど、おかしいとは考えなかったんすか?」

「は、え……?」

 

 おかしい? あぁ、確かにおかしい。

 このエルフ少女はまったくもっておかしなことばかり言っている。

 

 私の記憶では、元々実験区の知識なんでものも無かった。

 この知識や記憶は全部借り物のはずであり、私自身の経験ではない。

 だから私は、ここにいる私こそが私なのだ!

 

「この区画にいる人達って、元は国で集めた孤児って事は思い出してるっすかね?」

「っ!」

「それって、いつからここに収容されたのかもわかってるっすか?」

 

 壁が出来たのは二十年前。そして孤児が入れられたのも壁が出来てすぐだったはずである。

 つまり……

 

「周りはみんな、大人しかいなかったっすよねぇ?」

 

 あぁ、そうだ。自分でも考えた事ではなかったか。

 同時期に区画へ入れられた孤児達は、絶対的に不足している食料を巡って、結果的に男ばかり残っていた。

 

「爆弾狐さんは、自分の容姿を理解してるっすか?」

 

 二十年という歳月の中、歳を取らないのはありえない。

 だがその中で、私だけが幼い容姿というのはありえない。不自然過ぎる。

 これまでは、自分というものを意識的に当てはめずに考えていたのだった。

 

「そろそろ理解出来たっすかね? つまり、自分や爆弾狐さんは」

「あぁあ……あ……」

「ここで駆除された化物達と同じなんすよ」

 

 私は、化物……?

 ここでお父さんや、区画の人達、他の冒険者達を屠った存在と一緒なもの……?

 

 そんなのありえない。絶対に違う。

 そう言いたいのに、ゼクスの言葉に理解してしまう。

 もう、記憶が無い、知らないと言うだけでは、あまりにも状況が揃いすぎてしまっていた。

 

「私は……化物、なの?」

「そっすね。けど大丈夫だから安心して欲しいっす。自分も同じっすから、独りじゃないっすよ」

「独りじゃない……?」

 

 あぁそうだ、私は独りじゃない。

 私にはマリーがいる。

 

 壁から出て、マリーと静かに暮らせば良い。

 お父さんには悪いけど、国打倒も含めて壁の中の事は忘れよう。

 だって、仕方が無いと思う。私は化物として生きるのは嫌だ、独りはもっと嫌だ。

 

 私が化物である事については、黙っていれば良い。うん、そうだそれが良い。そうしよう。

 全部忘れて、マリーと一緒にご飯を作ったり、お買い物をしたりして何でもないような日々を過ごそう。

 

「あー、もしかしてやっちまったっすかねぇ。えと、大丈夫っすか? 爆発は勘弁して貰いたいっすよ?」

 

 私が立ち尽くしていると、ゼクスはなぜか心配をしているといった風の言葉をかけてきた。

 大丈夫だから安心して欲しい。私はもう冷静になれたのだ。

 

「えぇ、大丈夫。まだ私は大丈夫よ」

「まだ……?」

「ゼクス、絶対に私の邪魔だけはしないでね」

「邪魔? えっと、何かするつもりっすか?」

 

 反応を返してきたゼクスを無視して、私はアリーセ達がいる所へ向かって歩き出す。

 そうだ、早く壁の外へ出なければ。外へ出れば、こんな悩みも無かったことに出来る。

 そう、早く、早く出たい。

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