第一章 発端⑨
隼人の講義は午前で終わり、食堂で昼食をとった。
サインを求めにくる者、握手を求めてくる者、さまざまだった。
隼人は適当にかわしながら、瞳と話した小説の作者の名前が気になって検索してみたが、結局思い出せなかった。
「確か、南なんとかって言ってたような気が」バイトへは直行した方が早かったが、一度家に戻っても少し余裕があるので、確かめてみることにした。
南という人物の容姿や性格を考え、帰路に着いた。
自分も世に小説をだした。いつか、南という人物と話してみたいと考えた。
「あなたの書いた小説のヒロインが言った言葉と、友人が見た夢で、失った恋人が言った発言が同じだったみたいで」、そう呟いてため息をもらした。
だからどうしたと言われるに決まっている。
だが、親身になって聞いてくれる相手かもしれない。
迷惑だと追い返されてしまう相手かもしれない。
南という人物の容姿や性格を考え、帰路に着いた。
本棚に整然と並んだ小説から、目当ての二冊を探すのは簡単だった。
目当ての本は、一般流通している文庫本とは違っていて、古風な作りの本だったのを覚えていた。
「下の名前、和典やったか。瞳ちゃんの言ったセリフはどこだったかな」
独り言を言いながら、『ラポール』の方をぺらぺらとめくってみた。
時計を確認すると、日雇いのアルバイトまで、もうあまり時間がなかった。
あせって探す必要もないだろうと、本を置いた。
「時間の軸にある点を線にか。鐘の音を聞く。思いを告げにか。俺も伝えたいことがある」
小説のフレーズを口にし、それに対する返しの気障なセリフがふいに出たことにおかしくなった。




