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第五章 奇跡の裏の真実①

「会って話さないといけないことか・・・」

心音との不思議な出来事があった二日後、隼人は、以前に詩音と訪れた喫茶店にいた。

雲一つない澄み切った空を眺めようと、窓側の席に座った。

人目につく以前の問題と思えるほど、店への人の出入りはなかった。

隼人は妙に落ち着いた気分になり、注文したエスプレッソがすすんだ。

日々の習慣の一つに、この喫茶店を取り込もうとさえ考えていた。


しばらく一人の時間を楽しんでいると、待ち合わせの人物が、約束の時間よりも二十分ほど早く現れた。

隼人の前に現れた男は、年の功は聞いていた通りの四十代後半ぐらいで、

隼人とは対照的な恰幅のいい体をしている。

くっきり二重の左目と二重になりきれない右目が特徴的で、髪は短髪、顎鬚を少しのばしている。

手編みと思えるセーターの上に、フード付きのジャケット、黒いジーンズとスニーカーが、年を若くさせているように見える。

「どうも、はじめまして」

隼人は立ち上がり、対面したその人物にあいさつをした。

詩音の父親である、南和典だった。子どもはよく異性の親に似るというが、詩音と似たパーツを見つけるのは難しかった。

容姿は母親似なのだろうと感じた。優しさを醸し出す雰囲気だけはなんとなく似ていた。


「どうも」

探るように自分を見る隼人に対して、南は何気なくあいさつを返した。

そのあいさつを軽い礼で受け流すと、詩音の姿が見えないというように、隼人は南の後ろを見た。

「ああ、詩音なら午後から仕事で。・・・、この店を案内してもらって、そのまま会社に行ったよ」

南は隼人の行動をすぐに理解し、そう呟いた。

隼人は南がそう話すときの言葉のつまり方が気になったが、それ以上は聞かなかった。


「そうですか、どうぞ」

隼人は南に、向かい側の椅子を勧めた。

「ありがとう」

珍しく、いや珍しい客が来たというように、二人を見ながら、店員が注文をとりにきた。

南は、メニューを一通り眺めてから、隼人と同じエスプレッソを注文した。


「へぇ、君が片桐隼人君。君の本は全部読ませてもらってるよ。女性の心理を捉えるのがうまいよね。売れているがよくわかるよ。って、小説家としたら君の方が全然すごいのにこんなこというのもなんだけど」

水を少し口に含んだ後、南は隼人にそう語りかけた。

「そんな、でもありがとうございます。自分も、南さんの本は二冊読ませてもらいました」

隼人も正直に話した。

「詩音から聞いたよ。よく見つけたね。君と違って、自費出版で大量流通している本じゃないんだけど」


失礼を感じながらも、隼人は南を見て、読んだ二冊の小説を本当に書いた人物だろうかと思った。どっしりとしていて、自分の考えをしっかり持っているように感じる。

   

時間軸を考えついた人物ということで、小説家によくある精神分裂病の影が見え隠れする人物だろうという考えを勝手に念頭に置いていた。

そんな隼人にとって、そのギャップに驚かされた。

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