表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/59

第四章 時間軸を超えて⑥

その日の晩、隼人は強烈な睡魔に襲われた。

今まではりつめていたものや、肩の荷がいっきに降りたような気持ちになっていた。

後は、南和典という人物から、なにもかも聞けば解決する。

そこまで辿り着いたことで、言いようのない安堵感が訪れた。

「今日はなんか眠れそうだな」

そんな独り言を呟きながら、隼人は深い眠りについた。


・・・・・

以前から、心のどこかで、思い出すように心音の声を聞いていたが、今日は、頭の片隅の方で、心音が自分を呼ぶ声を聞いた。

そして、その声が、だんだんと大きくなり、はっきりと聞き取れるようになると、隼人はゆっくりと目を覚ました。視線の先には、自分の部屋の白い天井が映っていた。


隼人は、時計を確認して、ほんの少ししか時間がたっていないことを確認した。

やはりほとんど眠れなかったのだろうと、寝返りをうとうとした次の瞬間、

何度も夢で見た心音の姿が現れた。


「!!!!!」

隼人は声が出ず、驚きから、その場に飛び起き、立ち尽くした。

はじめは幻覚でも見ているだけなのだろうと思ったが、頭は妙にすっきりしている。

「隼人」

心音の口元が開き、自分の名前を呼んでいる。

隼人は、ついさきほどまで感じていた安堵感が嘘のように、また動揺が走った。


「心音・・・、夢?、ひょっとして詩音、ちゃん」

おどおどして隼人が名前を呼ぶと、心音は少し顔を歪めた。

「ごめん。驚かせちゃって。でもこれは夢じゃないの。それに落ち着いて聞いて欲しいの。隼人が動揺したり、疑ったりすると、この空間がどんどん壊れちゃうから」

「この空間?」

 隼人は、わけがわからず、やはりさらに動揺した。

そうすると、目の前の景色が、陽炎を見るよりも強く、歪んだ。

まるで、視線の焦点をでたらめに狂わし、眼球を動かした時のように。


その景色を見て、隼人は心音の言葉を理解し、できるだけ冷静になろうと努めた。

「ありがとう」

隼人の目の前で、歪みが少しずつおさまっていった。異次元という言葉が、隼人の頭に浮かんだ。

「・・・・・」

そしてそのまま、驚きと脱力感から、あっけにとられて、隼人は沈黙した。

「突然ごめんね。でも会えてすごくうれしい。あのね」

心音は、まるで何かに急かされているように、猛スピードで会話を始めようとした。

「ちょっと待って。これ何?・・・・」

隼人は、自分の頬を軽く叩いてみたり、思い切り顔を左右に振ってみた。

感触はあるが、おもいきり強くつねっても、痛さを感じない。


「ごめんね。いろんなこと説明したいんだけど、あまり時間がないの。詳しい説明は省かせて。すごく簡単に言うと、ここは、隼人の時間軸と私の時間軸が交わった場所」

「時間軸・・」

心音の口から、隼人が理解できる言葉がやっと出てきた。

時間軸なら、隼人にも、少しは理解できる。今までの一連の出来事の中で、ずっと頭にひっかかっていたキーワードだったからだ。


「うん。隼人は、私が死んじゃった空間にいる隼人。私は、隼人と知り合っていない空間から来た私」

隼人は、南和典という小説家が描いた、無数の自己の存在のことだと理解できた。

「なら、なんで俺を知って」

当然の質問を、隼人は心音にぶつけた。そうすると心音は、さびしそうな笑みを浮かべ、まっすぐに隼人を見た。


「こんな話信じてもらえないと思うし、信じられないと思うけど。私ね、死んじゃった後、すぐにある人の声を聞いたの」

心音の表情が猫のように移り変わる。まるで生きているように。

いや、確かに生きていると、隼人は思った。

隼人は、ほんの少し落ち着きを取り戻すと、心音のその華奢な体をただ懐かしく見ていた。

昔とどれだけ違っているのだろう。何も変わっていない。

「南和典っていう人」


隼人は、懐かしむ気持ちをぐっと押さえ込まれたように、心音の顔を改めて凝視した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ