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第四章 時間軸を超えて①

背中に吹きつける冷たい風に、隼人は本当に、世界の至る所で温暖化が起きているのかと感じた。

同じ場所に長く立っているのがつらい。できるだけ風を受けない場所を探しながら、隼人は詩音を待った。虎二の店に入る前か、出てきた所で声をかけるつもりだ。

巧に詩音が現れる、ある程度の時間を聞いていた。


「あっ」

詩音は、店を挟んで、隼人の待つ場所と反対側から現れた。

隼人の後ろ姿を眺める形になり、思わず立ち止まった。隼人もなにげなく店の方を振り返った。

数人が歩く中で、立ち止まっている詩音にすぐ視線が定まった。お互いに視線があった。

隼人は照れくさそうに、軽く礼をした。詩音の方もそれにつられるように礼をした。

詩音は、虎二の店を足早に通り過ぎてすぐ、隼人のそばまでやってきた。


「おはよう」

詩音は、隼人の体が小刻みに震えているのに気がついた。

「おはようございます」

隼人の視線を受け止めながら、詩音は応えた。

「敬語はやめよう」

「はい、あっ、・・・、うん」

恥ずかしそうに、言い終わってから詩音は下を向いた。


「あのさ、今日仕事終わってから時間あるかな?」

「えっ」

詩音は突然のことで戸惑った。家を出る前に鏡でチェックしたはずなのに、なぜか、詩音は着ている服を見た。

「少し話したいと思って。無理かな?」

「ううん。私も話したいことあったし。今日はたぶん五時ちょうどに終われると思うけど」

「わかった。会社の前まで行くのは迷惑だから、連絡くれないかな?」

「わかった」

「俺の携帯の番号」

隼人はジャケットのポケットから携帯を取り出した。詩音もかばんの中から携帯を取り出した。


詩音の番号まで聞くつもりはなかったが、結果的に番号を交換することになった。

詩音はそれから、照れを隠すように、虎二の店に入っていった。

隼人は、近くの喫茶店で、講義の時間までつぶそうと思ったが、かなり時間があったので、ひとまず自分の家に戻った。

隼人は、そこで思わぬ訪問者を見かけ、立ち止まった。


「おはよう」

桜は明るく挨拶してきた。以前の告白の後とは思えないほど、明るく元気な声だった。

まるで、以前の告白は、夢の中の出来事だったのではないかと不思議に思ってしまうような笑顔だった。

「おはよう」

「ひょっとして朝ごはん買いに行ってたの?」

隼人が手にぶら下げているコンビニの袋を見て、桜は呟いた。

隼人は、何気なくコンビニに立ち寄ってよかったと思った。


「そう。珍しく早起きして。そしたら腹が減って」

「そうなんだ。でも、梅子さんの店で買わなかったんだね」

「うん。虎さんのとこには後でサンドイッチ買いにいくから。二回行くっていうのもなんかな」

「今日は、私が朝ごはん作ってあげるよ。だからそれを昼ごはんにすれば」

いつも以上に声を強め、積極的に桜は言った。

「桜ちゃんが?」

「うん。ほら、材料もあるの」

桜は自分のかばんと、買い物袋を持っていた。

隼人は、どこのスーパーもまだ開いていなかっただろうという野暮な質問はやめた。

ただ笑顔で頷いた。


急なことでびっくりしたが、桜の顔を見たいと思っていたので、元気そうな表情を見れたのはうれしかった。

それに、自分をかなり長い時間待っていたことも、小刻みに奮える体で理解できた。

それが隼人をたまらなく切なくさせた。

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