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第三章 Time travel times⑥

桜の告白から、隼人の小説を書くスピードがあがった。

次の小説を出してもらえる出版社へ、これまで書いた作品の原稿を渡した後は、ほとんど何も書いていない状態だった。

今度の小説は、自分のこれまでの人生で感じたことをテーマにすることにした。

アクセントを加えるために、恋愛に対しての気持ちがどこから来るのか、それを自分なりの解釈で形にしたいと思った。


久しぶりに、南和典という人物の『夢の中の訪問者』、『ラポール』を読んで思いついた。

連日、夢中で書いていることもあって、生活のリズムが崩れそうになる。

それでも、生活習慣だけは変えたくないと思い、隼人は、家を出る時間は定時に合わせた。きせわしかったが、隼人は心地よい充実感を感じていた。


アパートを出て、いつもの通りに出る。よく見る顔ぶれが並ぶ。道端もほとんど同じ光景だった。

空を見上げることも好きだが、変化のある道端を見るのも同様に癖のひとつだった。昨日からの無造作に捨てられた空き缶を見ると、新鮮な空気がにごる感覚がするが、そこに空を見上げることとは対照的な現実がある。


自分の足まわりを見て歩いていた隼人は、道端に落ちている財布を見つけた。

「またか」下ばかり見てゆっくり歩いているせいか、隼人は落ちている財布を見つけることがしばしばあった。

 

「警察に届けるか」

財布から少し飛び出していた何枚かの領収書と名刺から、近くの会社であることがわかった。

通学途中にあったことにも気づき、警察に届けるよりも直接持っていこうと隼人は決めた。小銭だけではなく、お札がけっこう入っていたせいか、財布がずしりと重かった。警察に何回も財布を持っていくと、あまりいい顔をされないことが、隼人にとってはつらかった。 


バス停の近くだったので、あわてて落としたのだろうと考えながら、しばらく歩くと、目的の会社にたどり着いた。看板には、“高田コンサルティング”と書かれていた。まだ社会人の経験のない隼人にとって、経営か何かの相談でも請け負う会社くらいにしか思い浮かばなかった。

 

いつも、窓の向こう側をただ通りすぎるだけの隼人が、入り口で立ち止まっていることに、詩音は驚いて声が出せなかった。立ち止まらないかなと思っていたら、本当にその通りになり、超能力でもあるのだろうかと不思議な気持ちにもなった。

何気なく、髪型などを少し整えた。他の女子社員三人は、隼人の方を監察するように見ていた。

手に何かを持っているようで、その何かを届けにきたという感じだった。

 

「すいません。失礼します」

隼人は意を決してドアを開き、申し訳なさそうに入った。

詩音には、少し緊張した面持ちに見えた。隼人は、自分に視線が一斉に集まっているだろうと、照れくさくなり視線を下げた。


詩音は、話しかける絶好のチャンスを得たという調子で、隼人に近づいた。


 

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