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第三章 Time travel times④

週明けの朝早く、瞳は早起きが苦手な巧をせかして、虎二の店へと急いだ。

昨日の夜、桜のことについて話していると、虎二の店に訪れる女性の話になった。

そのまま脱線した話が続き、一度見てみようと決めた。


いつも定時に起きて、こまごまとした部屋の片付けを行う瞳と違って、

巧はいつまでも寝ているのが好きで、無理やり起こされることを極端に嫌った。

巧は、まだ半分眠った頭と、閉じかけた瞼を手でかいていた。

「うー、寒い! やっぱり眠い」

そういって何度も帰ろうとする巧の背中を、瞳は後ろから押し、店の方へ連れていった。

太陽の光がまだ地球に届いていないのかというくらい、暖かさがない。

虎二の店までそう距離はなかったが、冷たい風が容赦なく二人の露出した肌にあたった。


「おはようございます」

ドアを開けるなり、瞳は元気な声を出した。寒さのせいか声が少し震えていた。

虎二は、瞳よりも、一緒にいる巧の訪問を見て驚いた。思わず時計を確認した。

「一大事か」

虎二は茶化し、巧は「ここで寝ていいですか」と照れくさそうに笑った。

いつも買い物は瞳にまかせきりだった。

二人のやりとりをよそに、瞳は、一番奥の商品棚に視線を向けた。そうすると、女性の頭が見えた。梅子は、瞳の視線を追うことで、二人が何をしにきたか悟った。


「・・・・・」

何もいわなくても梅子はわかってくれるだろうと、瞳は梅子に視線をやった。

梅子もそれを確認して頷いた。瞳はさりげなく見ようと近づいた。

あくまで自然を装うようにと、心を落ち着かせて奥の商品棚に向かった。

しかし、斜めからの表情を見ただけで、瞳は思わず立ち止まってしまった。


巧とのやりとりを終えた虎二は、瞳の方を振り向き、やれやれという表情をした。

いつからか、詩音が店員でもないのに、看板娘のようになっている。

視線を感じた詩音が振り返ると、瞳はますます驚いた。

視線が瞳で止まった詩音の方もどこかで見たことがあると思い、しばらく立ち止まった。

遠くで見ていた巧も、あまりに似ていたので、言葉がでなかったが、すぐに我に返った。


「ほら、ぼっと立ってると邪魔になるだろう」

巧は、詩音の通り道をふさぐように立っている瞳の肩をつかみ、自分の方に引き寄せた。

巧と瞳が揃うと、詩音も誰であるか気がついた。特徴のある髪の色がおおいにヒントになった。

一度だけ見た、隼人と話していた友達の二人だとわかった。


「あっ」

詩音はどうしようか迷った。隼人について何か教えてもらうチャンスだと考えた。

しかし、何から聞けばいいのかわからなく、ただどぎまぎした。

とりあえずあいさつをしようとも思ったが、それもなんだか変だと思いやめた。

巧の方はともかく、瞳がまじまじと自分の方を見ていることが、少し気になった。

自分の姉にそっくりと言った桜も、同じような視線で自分を見ていた。

関係のある人物なのかはわからなかったが、この店に入るとよく注目されると、詩音は照れくさかった。


「すいません。ありがとうございます」

詩音は、巧の方を見て軽く礼をした。遠くから見ているとそうでもないが、いざ巧の目の前にたつと、詩音は少し怖くなった。

気配りなどから、優しい人物であることはわかったが、髪の色が違う人物はどうしても、明らかな偏見で、不良という目で見てしまう。

「どうもありがとうございます」

梅子はいつもの調子でレジを続けた。無駄のない動きが心地よさを感じさせる。

「いつもありがとう」

横にいた虎二が、珍しく自分から声をかけた。心音と、購入していくものが類似していたからかもしれない。虎二はまだ、詩音に心音の姿を見ていた。

「どれもすごくおいしいです。お昼の楽しみです」

詩音は、少女のような、くったくのない無邪気な笑顔を見せた。


そして、時計を気にしながら、急ぎ足で店を立ち去った。

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