第三章 Time travel times③
詩音の憧れはいつしか、恋愛感情に変わっていた。
空想癖が高じ、夢の中で隼人とカップルのような気持ちにまでなっていた。
今までは、仕事のない朝を心から喜んだが、今は隼人を眺められる指定席と少しの時間が恋しい。不純な動機とはいえ、仕事に行く気力さえ出てきたような気がしていた。
詩音は、想像でも思い浮かばない、隼人の笑顔を見たいと思った。
朝、少しの間しか見かけることはないが、隼人が笑うところをまったく見たことがなかった。
友達といるところも見かけたが、その時でさえ笑うところは見なかった。
「どうして笑わないのかな?」
詩音は、隼人が笑わない理由を考えた。
いろんな雑誌を読んでみたが、隼人の小説に触れたことは書いてあっても、人隣りまで書いてある雑誌はほとんどなかった。掲載してあっても、出身地や年齢程度だ。
本人に直接聞くことは、積極的な詩音でもできなかった。
それに、一応ではあるが仕事中だった。たとえ偶然抜け出せても、第一印象で悪いイメージを与えたくなかった。かといって、親しい大学生の知り合いはいなかった。
やはり一番思いつくのは、最近いつもよく通う店で会った不思議な女性のことだった。
自分のことを姉とそっくりと言った女性だ。
格好を思い出しても、大学生にまず間違いないと思った。
「名前とか聞いておけばよかったな。今度、レジのおじさんとおばさんに聞いてみようかな。どんなことでもいいから。もう少し話してみよう。親しそうだったから、電話番号とか知ってるかもしれないし」
両親から受け継いだ低血圧のせいもあって、朝起きるのは苦痛だった。
詩音は、空想が夢になればいいと、再び眠りに入った。
週に二度だけ許されるぜいたくだ。




