第二章 思いの行方⑪
南詩音は、今日の不思議な出来事を思い出していた。そして考えていた。
自分とそっくりな女性の存在。詩音はふと、近くに置いてある鏡を見た。
「お姉ちゃんにそっくりか」
言い終わると、ぐったりとベッドに横になり、仰向けに真っ白な天井を眺めた。
「写真かなんかあったら、今度見せてもらおうかな」
詩音は、言葉に出した写真で、あることを思い出し、近くの組み立て式のテーブルに手をのばした。
起きてとれば、そう苦労はしないが、ずぼらな性格のせいで、乱雑に重ねてあったノートや雑誌が床に落ちた。目的の雑誌はなんとかとることができた。
片付けようか迷ったが、結局疲れに負けた。雑誌の折り目のついた、隼人の写真とコメントが付いたページを開いた。
「大学生か」
仕事にも少し慣れてきた詩音は、出社してから席に落ち着くとよく外の風景をぼうっと眺めている。行き交う人々に興味を持ってみると、なかなか楽しい。
詩音は始めは、通り過ぎる人の人生を勝手に想像したり、強烈な個性を持つ人物には、愛称をつけたりしていた。しかし、いつしかタイプの男性を探すようになり、毎日決まった時間に通り過ぎていく隼人が気になった。
隼人の第一印象は時間に正確で、生活のリズムを崩さない人物だった。
気に留めて見ていると、通りすぎる隼人を指さす高校生や大学生らしき人物を何度か見かけた。主婦がたまに話しかけたりしていることもあった。
スポーツか何かをしていて人気があるのだろうとしか、その時は思わなかった。
二週間ほど前、帰宅途中の本屋で雑誌をめくっていると、偶然隼人が写っているページを開いた。驚いて読み進めていくと、
小説を書いていて、最近世に出た人物だと、その時初めて知った。
隼人の書いた小説も購入し、描かれている純粋な恋愛観に、いつしかそれが隼人の思想と考え、憧れとなっていた。
本で見る前に気になっていた、身近な有名人と話してみたいとは思ったが、つきあいたいという気持ちはなかった。現実的に無理だろうと思ったからだ。
「なんかきっかけがあったらいいのに。今日の子も大学生だったけど、知らないかな・・・、それより思いきって話しかけてみようかな。お父さん知らないかな。・・・・・。話しかけたら迷惑かな」
女子高生に話しかけられている隼人を何度か見かけたが、どうしていいかわからないという顔をしていた。詩音は、基本的に女性と接することが苦手なのだろうと思った。小説に出てくる主人公と重なり、微笑ましく思えた。
「自然に話せないかな」
最近、詩音は隼人のことをよく考えた。どうしてそうなったかはよくわからないが、次第に好きなのかも知れないと思った。
今まで好きになったタイプともずいぶん違う感じがする。
話して好きになっていくことはあっても、思いから気になるのは珍しかった。




