第二章 思いの行方⑧
巧もまた悩んでいた。冷静に、とにかく冷静になろうとしていた自分が、見境をなくしてしまった。
その後悔からくる懺悔の気持ちだった。
「言いすぎたな。あんなこと言うべきじゃなかった」
申し訳なさそうな声、で瞳に尋ねた。
「ううん。そんなことない。桜が隼人君のこと好きだったってこと、もっと早く私が気づいてたら」
心音がいたころも、いなくなってからも、瞳は本当の妹のように桜をかわいがってきた。だが、桜から、隼人が好きだと聞いた時は驚いた。
同時に、心音への申し訳なさや、隼人の気持ちを考えると困難と感じたが、桜の思いを叶えてあげたいと思った。姉と隼人の恋愛を一番近くで見てきて、それでも好きという気持ちに嘘偽りはないと思った。
「仕方ない。俺も予想できなかったことだから。でも難しくなったな。隼人のためを思ったらどれが一番かがわからなくなった」
「ねえ、もう一度・・」
「いや。それはやめた方がいい。今でももう手がつけられなくなってる」
巧は、瞳の発言を即座に理解し、強く制した。巧の頭の中にもよぎった考えだったからだ。
「でもどうして隼人君は他の女の子に目を向けないかな。確かにあんなことがあって、忘れるには十分な時間じゃないって思うけど。少しずつ気持ちは変わらないのかな。桜にしたって、他の女の子にしたって、これからな関係があるわけだし」
心音の女性としての素晴らしさは、そばでずっと見てきた瞳が一番よく知っている。一見すると、桜の方が容姿端麗で引きつけられるが、隼人の言葉を借りると、心音には慈愛のある強い母性を感じる。
それは、同姓の瞳でさえ虜にしてしまう魅力だった。
「さあ、あいつの一途さは筋金入りだから」
その一途さが、間違いとまでは言わないがよくない方向に向いている。
なんとか他の人にも目を向けさせてやりたいと巧は思ったが、それが桜であるならば、心音に近すぎる気もする。
桜が傷つく結果になってしまったらもともこうもない。何よりも、今の隼人はおそらく桜を受け入れないだろう。
「難しいな」
巧はため息をついた。余計なことがありすぎた。何もなければよかったと心から思った。
小説の一部分が消えたことを恨んだりもした。瞳も本を眺めていた。
「まだしばらくかかるな。隼人が気持ちを切り替えるのには」
「うん。でも、立ち直らないと」
早く幸せを見つけて欲しいというのが、二人の正直な気持ちだった。
「隼人にがんがんアタックしてくる子はいないかな。振られてもくじけないでどんどん積極的に。そしたら少しは」
「桜はそういうタイプじゃないね。言うならそれこそ心音みたいな子だよ」
「確かにな」
結局行き詰って、二人は考えることをやめた。でた結論は、成り行きを見守るということだった。




