第一章発端②
「どうしてそんなに好きでいれるの?もうお姉ちゃんいないんだよ。振られただけならわかるけど。お姉ちゃんも望んでないと思う。隼人さんに他の女の人とつきあって欲しいって」
桜の声に、隼人を虜にする心音の魅力への嫉妬がこもる。
心音は美人で優しかった。だが、自分だって同じ両親から生まれた妹。
姉の方がとは思いたくはなかった。
しかし桜は、自分にはない、人の心を惹きつけて放さない何か不思議な魅力が心音にあることを幼い時から感じていた。
心音に尋ねたこともあったが、それが何かは今でもわからない。
恋愛でいえば、心音に惹きつけられる男性は、桜が憧れる人物だった。
中でも隼人は特別で、姉妹で憧れた。勝者は姉の方だった。
「桜ちゃんでも心音の気持ちまではわからないさ。この世界にいなくなったからそれで終わり、いつかは次の恋。みんなそう言うけど。でも、いつまでたっても忘れられなくて、前よりもっと好きになる自分みたいな奴もいてさ」
隼人はあやすように言い、そしてまた自分の気持ちを確認した。
自分の気持ちは変わらない。それに素直でいたいと思った。
何よりも素直に。桜にはそれを伝えたかった。
「でもお姉ちゃんよりも長く付き合って、結婚して子どもできて、もっと楽しくて幸せになれる相手いると思う。隼人さんそうしようとしないだけじゃないかな。次の人と恋愛するのが怖い?お姉ちゃんへの裏切りになるから?」
桜は強い調子で呟いた。
隼人は深く目を閉じた。
心音としてきた恋愛、楽しいばかりでは決してなかった。
後悔は決してなかったが、二人の恋はまだ未熟過ぎた。結果周りから孤立し、行く末を悪い方向へ導くものすることが多かった。
「ごめんなさい」
桜は余計なことを言ってしまったことに気が付いた。
子どもの話は、隼人が一番気にしていることだ。そして、胸の中の心音にも謝罪した。
「ん?ああ、いや、別にいいよ。桜ちゃんが悪いわけじゃないから」
隼人は桜の気持ちを理解した。
表情を和らげ、桜に優しく笑いかけた。
寂しさのにじむその笑顔に、桜はたまらない気持ちになった。
感情だけに頼って物を言うことが、どれだけ自分勝手か思い知った。
よからぬことも思わず口にしたことで。
そんな自分の性格がときどき嫌いでしょうがない。
恋愛に対しては臆病で何も言えないのに。




