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第二章 思いの行方①

その日の晩は、結局何も思い浮かばなかった。

 

早瀬瞳は、隼人に対して、自分の「行動」の申し訳なさを感じて眠れなかった。

親友の中村心音に対しての思い、本当にそれでよかったのかという気持ちが複雑に絡み合い何とも言えない気持ちでいっぱいだった。


片桐隼人は気持ちの高ぶりで、眠ることができなかった。

帰ってからも小説をめくっては眺めた。

そのうち目が冴えてしまった。

気にしない方がいいことはわかっている。しばらくそのことばかり考えた。不眠は容赦なく体力を奪う。ベッドでずっと横になりたいと願った。


「弱いのかな。心音の死は受け入れてはいるけど」

精神が少し不安定になる。五年たっても、ほとんど何も変わらない。

月日にすると結構経っている気がしても、心の時間はまだ昨日のことに感じる。

人はそんなに簡単に忘れていくものなのかと、隼人は疑問に思う。


机の上に置いた携帯を見つめながら、吉澤直樹のことを考えた。

相談してみようと思った。だが、やめた。

さっき話したばかりの気恥ずかしさもあったが、直樹に相談してどうにかなる問題ではない。

隼人は、単に自分の気持ちの問題と思い直すことにした。

心音が実は生きていて、もう一度自分の目の前に現れるかもしれない。

そんな気持ちを処理しなければならない。


「小説の一部がなんで消えたか。何かある。でも何も変わらない」

数十分ごとに変わる思考。大学への準備をして、平然と同じ道をたどり通学する。

冷たい空気の香りは、隼人を動揺させた。大学へ着いた頃はまた不安になるだろう。

だが、毎日の日課は欠かさない。少し早かったが、森川虎二の店に寄る。

火曜日はミックスサンド。ハムとレタスの間に、マヨネーズで和えたツナと大根の千切りとが挟んである。

妻の梅子のアイデアで、シャキシャキという触感がたまらない。

そんなに空腹でもなかった腹が鳴った。


「おはようございます」

引き戸を開けると、珍しく梅子がレジに立っている。

いつもの店内が凛とした雰囲気になっていた。

虎二はそのすぐ近くで、ぼぉっとしている。

対照的に梅子は何かに挑むような表情だった。

「おはようございます隼人さん。今日も寒いですね」

昨日は虎二だけが少し様子がおかしかった。今日は二人とも何か違う。

喧嘩ではないはずだ。だが、二人の間に何かあったことは見ていてわかる。


「ミックスサンドありますか?」

隼人はとりあえずいつも通りの話しをした。

「ええ、用意してありますよ」

そう言って、梅子が袋に入れてくれた。隼人はあるのかと思った。

虎二がまた売ってしまったかと思っていた。

昨日と同じ表情をしていたことが気にかかった。

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