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行間 叩かれた一瞬


 情報管理室は今、妙な騒がしさを見せていた。

 他の指令部との情報のやり取りが、ネットワークを通じてひっきりなしに行われている。

『この場所には休みなどない』とさえ言われているのだ。

 そして、どの機関よりも地獄に近い場所だとも。

 またここでは名前にそぐわぬほど多量の情報が行き来されている。

 その内容は軍事的事柄から治安維持に関しては勿論のこと、各囚人の詳細なるデータや国家機密の極秘データまでと数多い。『情報』と名の付くものが幾万と、とにかく溢れかえっていた。

「そこの書類を取ってくれ!」

「配布ファイルに入っている一番新しいやつをオーラウェ指令に送ってくれ!」

「誰か本部に連絡をつけろ!」

「新たなデータが届きました!」

 多くの声が重なり合う。怒鳴り叫ばないと声が通らないほどの喧騒が、そこを支配していた。

 時に間違えた書類を持っていく者もいた。

 配線につまずく者もいた。

 机の角に足をぶつける者もいた。

 他人とぶつかり合う者もいた。

 その度に怒声や短い悲鳴があちらこちらで上がっていく。

 またどこかで、誰かの怒声が聞こえてきた。

「クウェンル指令にデータを送ってもらえ!」

「書類が届きました!」

「そこのを陸軍第一課に持っていけ!」

「ナギサ准佐は只今遠方へと出向いております!」

「そこのモニター、確認しておけ!」

 熱気に包み込まれた管理室。

 室内は緊迫し、忙しなく動いていた。

 足音や声が絶えることはない。いつまでも響いている。

 と、ひらりと一枚書類が机から舞い落ちていった。近場のドアが勢いよく開いたためだ。

「クロウス少将! 大変です!」

 するとそこには若い男が一人、肩で息をしながら駆け込んでくるではないか。しかもその手には書類を硬く握りしめている。

 勢いよく開け放ったドアを閉める余裕すら惜しいというところだろう。男は荒い呼吸をしてもなお、男はクロウスの元へと駆けていった。男のあまりの雰囲気に、緊張が室内を駆けていく。

「何があった」

「それが先ほど南方総指令部から入った情報なんですが、……これをこれを読んで下さい」

 男は握りしめていたため、書類にはいたるところにしわが寄っている。

 クロウスは一度男の方を見やったが、速く読んで下さいと急かされるだけに終わった。皆の視線を一身に受けながら、クロウスはたった一枚の書類を黙読し始める。

 だがそれがクロウスに衝撃を与えるのに、さほど時間はかからなかった。

 そこには誰もが予期しなかったことばかりが綴られていたのだ。クロウスの表情は時間に比例して、どんどん強張っていく。

「これはどういう……」

 嫌でも歯の根が合わなくなるのをクロウスは感じた。

 蒼白になった顔を向け、書類を持ってきた男に問いかける。

「解りません。もう一人いるのかさえも、どちらかが偽りなのかも。……ただ、厄介なことになりそうなのは確かです」

「そうだな。こりゃあ嵐が訪れるかもしれない」

 クロウスは作業机の上に投げるかのごとく書類を置くと、乱暴に頭皮を掻きむしった。

 たった一枚の紙切れで、どこまで事態を大きくするつもりなんだ……と。

 そこに書いてあったものとは――


 忙しかった室内は、いつの間にか静まり返っていた。

 ただ電話の鳴り響く無機質な音だけが、空気を響かせているだけで。




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