└ 夢に惨敗
「一番星の見つけ方」番外編
夢のような生活って、たぶんこんな幸せな生活なんだろうなと思う。
朝、目が覚めると朝食のいい匂いを微かに感じて。
満面の笑みと共に交わされる挨拶と一緒に、軽いキスもして。
いってらっしゃい、と見送られながら、家を出る。
夕方も夕方で、まぁそれなりに仲睦まじくやり取りして。
俺の愛情をたっぷり彼女に伝えるんだ。
「今日も一緒に寝ようか」
「んもー、それいつも言ってるじゃない」
困ったように言う彼女だけど、浮かぶ笑みはどこか嬉しそう。
だから我慢し切れずにその体を抱き寄せて、深く口付けを交わした。
昨日もこんな始まりだった気がする。
何度も何度もキスをして、力が抜けた彼女の体を抱き上げて寝室に移動する。
「とっ、しはる」
「なーに。ほら集中してよ」
「としはる」
ベッドに下ろした彼女の表情を覗き込んで、俺は体中が凍ったように冷たくなった。
そこには最愛"だった"人が横たわっていて。
般若のように歪ませた憎悪たっぷりの表情を浮かべさせていた。
「最低ね、俊晴」
「ほ、のかちゃん」
「榛名ちゃん、可哀相に。こんなバカでアホでマヌケなエロダヌキに騙されるなんて」
「え、エロダヌ……、っ!」
「いつまでのしかかってんのよ、この人間のクズがっ」
いい終わるが早いかで、下半身に衝撃が走る。
あまりの痛さに意識が薄らいでいって……。
+
「……い? 俊晴先輩?」
「ん……はる、な?」
「大丈夫ですか? すごくうなされてましたけど」
心配そうに覗き込む榛名を見て、さっきのは夢だったんだなとぼんやり思う。
それにしても酷い悪夢だった。
まだ下半身がズキズキと痛む気がする。
「先輩?」
「……榛名、俺は騙してないからね? 榛名一筋だからねっ!?」
「は……はぁ」
訳がわからない……というかわかるはずがない榛名の肩を揺らしながら、俺は必死で訴えていた……らしい。
それを聞いたのは、再び落ちた意識が戻ってきた後だった。
夢に惨敗
(暫く帆夏ちゃんを避けたのは言うまでもなく)
♯sneeze様/09.06.21 提出
06月お題『奴等が結婚したならば』より。