└ さよならを言おうか
「流れ星の願い方」番外編
いけないことなんだってわかってた。
「ねぇ、郁くん。なんで最近お星様にお願い事させてくれないの?」
不満げに口を尖らせる幼馴染。
あの夜までは、こんなわがままを言わなかった。
あれが欲しい、こうなりたい。
そう思うのが当然の年頃。
彼女はいつも自分で手に入れようとしていた。
なのに、今は俺のせいで。
「お願いしたいこと、いっぱいあるのに」
「……そっか」
息苦しい胸を我慢して、俺は申し訳なさそうに微笑む。
でも、頭の中は母親の言葉でいっぱいだった。
『このままじゃ、帆夏ちゃんがダメになっちゃうよ』
わかってる。
そんなこと、とっくに気付いてる。
でも、彼女の笑顔が嬉しかったから。
どうしても彼女の隣にいたかったから。
今は後悔している。
苦しくて、苦しくて仕方がない。
母親は彼女のことしか言わなかったけど、俺もダメになりそうだった。
「今日は帰るね」
ふてくされた彼女は、早々に俺の部屋を出ていく。
閉じたドアに、何故か安堵の息が零れた。
「……っ。最悪だな、俺は」
自分が招いたことなのに、もうやめてくれと心の中で叫ぶ。
至福の時間だった。
彼女と二人の時間は、何よりも幸せだったのに。
ふと目に入った茶色い封筒。
実力試しに受けた私立中学の合格通知だ。
偶然合格してしまったけれど、彼女と同じ公立中学に進むつもりで、ゴミ箱に捨てたもの。
それを取り出して、もう一度中身を見る。
……行く気はなかった。
でも、こうなってしまった今。
俺にはどうすることも出来なくて。
良案なんて考えるほど、時間もなくて。
ただただ俺が彼女から離れればいい。
そうすれば、お願い事を聞くこともない。
お願い事を叶えなくてもよくなる。
「……行くしかねぇよな」
ギュッと握り締めた紙切れ。
俺は何故か痛む心を無視して、それを母親に渡しに行った。
さよならを言おうか
(その痛みが恋だと知らぬまま)
♯sneeze様/09.06.01 提出
05月お題『少年少女の幼少期』より。