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IW's機鋼電射ニアラーテ  作者: まっちゃオレ
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カプセルの中の顔と同じ形

 第四話

    「カプセルの中の顔と同じ形」


 皆と海に行く約束をした、小学生生活最後の夏。

 十字は皆とは違う学校に行くから、夏休みに皆で海に行こうぜ。そう徳義は皆に言った。

 そして電車で、近くの海に向かうことになって。その日、浮かれ気分でホームで待っていて。

 ふいに、俺は誰かとぶつかった。中学生くらいの、優しそうな、けど言い様のない恐怖の色の目をした学生と。

 そして気が付いた時にはもう体は、ホームから半分以上出ていたんだ。そして、迫ってきた特急の列車に……。



 クリムゾンアローが速度を落とし、本来は通過する神井戸駅に停まった。パラダイスの破壊行動は凄まじく、自衛武装の4割は既に破壊されていた。

「変なことが起きてなければいいが……」

 クリムゾンアローから出てホームに降り立った新島は、堀田の心配と徳義への警戒を胸に止めながら、その身を十字がいるであろう待機室へと向けて走り出した。

 過去に北戸斤駅で起こした、計画の全ての始まりの日を思い出しながら……。



「死んだんだ……。お前は」

 徳義の放った言葉が、十字の中の記憶を、全て蘇らせた。

 ゆっくり膝をつき、崩れ落ちる十字を横目で見ながら、徳義は大きな袋の中からサブマシンガンを取り出すと、それを動揺して動けないでいる堀田に向けた。

「終わりだ……」


 下を向き、引き金を少しだけ引く。わずかな銃声が響いた後に、ヒトが倒れる音がした。目を開くと、左胸に穴を開け、血を流しながら倒れている堀田がいた。

 これで終わりではない……。

 徳義には撃たねばならない人物がいた。サブマシンガンを投げ捨てる徳義。

 そしてその人物がゆっくりと階段を降りてくるのを、徳義は睨みながら、じっと見つめていた。

「分かってんだよ……。新島」

 階段から笑い声が聞こえてきた。影が徐々に見え始め、その男は現れた。

「梅頭君。見事なまでの田所君救出劇でした……」

 話し始めた新島の脳天に、一発の銃弾が撃ち込まれた。後ろの階段に不快な音を立てて、血がべっとりとこびりついた。

「お前に誉められるほど、落ちぶれちゃいねぇよ……」

 ハンドガンに持ち替えていた徳義が、階段に倒れ込む新島の足を撃つ。

 バランスを崩した新島はただ笑みを浮かべながら階段を転げ落ちた。

 階段の下に血溜まりが出来る。徳義は銃をサブマシンガンとは別の方に投げ捨て、膝をつけて、項垂れている十字の方を向いた。

「十字。お前はまだやるべきことがある」

「……わかっているよ。ニアラーテだろ?」

 立ち上がる十字。彼の今の姿は、カメラを使わなくてもはっきり見えていた。

「すまないな……」

「いや、ニアラーテに乗ったときから、あのメカがおかしいことはわかっていたんだ……」

 十字の瞳は全てを悟った色をしていた。

「俺は行くよ……」

 十字はゆっくり歩き出した。本来のニアラーテのコックピットである、駅の中心へと。

 徳義はバッグから数枚の紙を取り出す。この駅の、地下研究室で見つけたニアラーテの資料だった。そこには小さな文字で「Near Lethe」とかかれていた。



 ニアラーテは本来、生身の人間だけでは動かない設計になっている。そこに生身でない、霊体であるヒトを中に組み込むシステムがついている。

レーテ。それがこのシステムにつけられた名前であり、ニアラーテの名前のもとである。

レーテを動かすために、十字は選ばれた。そして十字も選ぶ。ニアラーテを動かす人物を……。



 コックピットの奥の、小さな部屋。十字の前には5㎝ほどの、小さな窪みがあった。

「思い出したよ、新島」

 列車に跳ねられホームの上まで飛ばされた十字に、新島は駆け寄った。そして小さなその声で、はっきりと言った。

 ――システムの完成だ。

「俺は死んだ。けど、普通にはもう死ねないんだ……」

 窪みに左手を重ねる。窪みは十字を包むように光を放つ。

「徳義、任せたよ。お前なら……」

 窪みが強く光り、辺りを白い世界に変えた。その光が収まった時、既に十字の姿はなかった。

 光が消えたのを確認すると、徳義はコックピットに入りシートに座る。その瞬間にコックピットのランプが灯りだす。

 起動スイッチは押してはいない。

 十字か……。徳義はそう呟くと、そのまま全てが終わるのを待つことにした。

 神井戸駅にある2つのプラットホームが、2本のクリムゾンアローと2本の八千系を巻き込みながら変形を始めた。

 クリムゾンアローの武装が、プラットホームである体の様々な場所に固定されていく。大きさも前と比べて高くなり、武装も装甲も前より強くなっていった。

 コックピット内のモニターが全部つき、外の景色が徳義の瞳の泪に映った。澄んだ、とても綺麗な夕陽だった。

「起動コード詠唱……迅鋼電射ニアラーテ!」

 モニターの縁の緑のラインが点滅する。それはニアラーテの、十字のオッケーのサインだった。 素早く身を翻し、一跳びで隣の白水駅を踏み潰した。

「これからパラダイスと共に、この路線をぶっ潰すぞ!」

 緑の点滅が起こり、パラダイスの司令室との通信が繋がった。



「ニアラーテからの通信か!」

 大河原は明るくなった表情をモニターに向けた。

 パラダイスの組織長になって白衣線を排除ことを抱きながら戦ってきた。それも全て、十字のために……。

「大丈夫か徳義君!」

《ああ、今は十字に助けられながら戦っている。あんたの息子にな……》

 モニターに映った徳義の顔に、安堵の表情をみせる大河原。

「近くの車両を全て援護につけろ。通信スピーカーに繋いでくれ!」

「了解!」

 パネルのスイッチでマイクをオンにすると事務員は大河原にオッケーサインを出した。

「全機、周囲の住人を守りつつ、ニアラーテ3号機を援護し、周辺の駅を破壊するんだ!」



「……!」

 なにかが来る……。

 徳義が六感を働かせニアラーテを空中に飛ばす。その数秒後、青白い光球がニアラーテの下を、目にも止まらない速さで通りすぎた。

 徳義はニアラーテのカメラを光球の飛んできた方向に向けた。そこにはコの字の電磁弾加速機を2つ、腕部につけた、黄色のボディ橙色のラインが入ったニアラーテが立っていた。

 ニアラーテ1号機。白衣駅が変形したそれは、重火器武装が特徴的な倉嶋が乗り操るニアラーテだ。

「貴様ァ!」

 1号機は背部の大型バルカンを両手で持つと、上空を飛んでいる3号機に向かってデタラメに撃ち始めた。

「ちっ……」

 3号機は左手の円筒状のシールドを展開して回避行動に移った。

 右手のチェーンソーを当てようとするが、弾幕の濃さに断念する。徳義は必死にニアラーテの武器を探した。そしてそのカーソルが、クリムゾンアローのところで止まる。

「こうなったらッ!」

 徳義は勢いよく旋回して1号機の後ろに回り込んだ。そしてクリムゾンアローの武装のハッチを排除し、その無数の機関砲から放たれた鉛玉が1号機を飲み込んだ。

「しまった……」

 重火力なため動きが鈍く、空も飛べない。そんな1号機の欠点をとられ、今度は倉嶋が守備に徹する番となった。

 しかし1号機の長所である重装甲のせいか、致命的な打撃は与えられなかった。

 そのうちに、背後の警報がけたたましく鳴った。

「またか……」

 3号機は1号機への攻撃を止め、右に飛び退く。3号機のいた場所に、一筋の鉄光が鈍く輝いた。

「2号機のおでましか……」

 2号機が1号機のそばに駆け寄る。先刻の鉄光の正体は、2号機の腰にある長く細い日本刀の様な形をした剣だった。

「迅鋼電射となったか、しかしっ!」

「危ないっ!」

 素早く剣を抜き斬りかかってきた2号機をかわす。剣の鋭い先端が、3号機の装甲の一部とシールドに、横一線の傷をつけた。

 ニアラーテ2号機。糸鹿駅が変形したニアラーテで、体と同じ深淵のラインが入った剣を振りかざして闘う、接近戦闘用に特化した機体である。だと!?

 徳義はモニター隅に出た敵機の情報を読んで、呆然とした。

 2号機の剣は3号機のチェーンソーとは違い、鋼鉄レールを組み合わせた武器で、こちらのチェーンソーでは歯が立たないことが、詳細に書いてあった。

 おそらくこれは十字の出した答えであると、徳義は思った。そして、十字に告げるように言った。

「じゃあ、やつの装甲は切り裂けるんだな?」

 再び剣を構え迫ってくる2号機と距離をとりながら十字の反応を待つ。1号機も復活したらしく、強烈な弾幕が、上空で旋回する3号機を包んだ。

 そして、縁が点滅した。緑の色だった。

 戦術ディスプレイに目を向ける。そこには今このニアラーテが出来る、最大の連撃が表示されていた。

 すぐさまクリムゾンアローの武装が、煙幕に切り替わる。そして2号機が剣を構え向かってきた時、徳義の作戦が始まった。

「食らえッ!」

 全身から煙幕が噴出する。上空に1つの、灰色の煙塊が出来上がった。

「なんだ……」

 その煙塊に飛び込んだ2号機。前はひたすら灰色と黒の世界だった。2号機はただ呆気にとられて、周りを見渡すしかしていなかった。

「てやァァ!」

 3号機が下から、2号機の目の前に現れた。右手を振り上げ、2号機に飛びかかるように。

「しまっ……」

 剣を降るよりも早く、3号機のチェーンソーが、2号機の体を半分に抉り裂く。

 落ちていく2号機の手から剣を奪い取ると、チェーンソーを180度後ろに回した。隠れていたマニピュレーターがその姿を表す。その手で盾の裏からロングレンジの対装甲車用ライフルを取り出す。

「次は……」

 3号機は素早く上昇すると、灰色の煙塊を抜け出た。



 ニアラーテが翔び去った神井戸駅の、地上から管理施設へと繋がる通路に2つの、銃殺された死体があった。

 階段と十字路の真ん中に倒れているその死体に、近付く影が1つあった。

「計画のうちだよ……全て……」

 そいつの頭と足には、銃で撃たれたような痕が2つ残っていた。



「田中は無事なのか……」

 灰色の塊が咲いてから、数秒しか経ってはいなかった。ふと煙の下から、落ちてくる物体があった。その鉄塊にズームをする倉嶋。

「これは……2号機!!」

 その時、中から発生した突風で、煙が散り1号機の視界を邪魔した。

 それと同時に、前方上空に微かな熱源反応があるのを1号機は捉える。

「田中の仇だ……!」

 ありったけの火力を、モニター上の機影向けて放った。しかし元からロックをしておらず、敵機を目視すらしていない内に感情的に放ったため、そのほとんどは空を切った。

 そして放たれる一発の対装甲車用弾。それは1号機の頑強な装甲を貫いて、右肩から背中の中央へと走る1つの穴を作った。

「これで……」

 煙を晴らしながら、全速力で向かってくる3号機。右手には2号機が持っているはずの剣が、強く握られていた。その剣を、先ほど作った穴に刺し込む。

「終わりだ!!」

 剣を斜め下に滑らせる。左の腰から出てきた剣は、見事に1号機を斜めに切り落としていた。

「これが……レーテの……」

 崩れ落ちていく視界を最後に、モニターは暗黒を映した。



 戸斤駅地下。ニアラーテ4号機の眠るその格納庫に、1人の男が立っていた。

「これで全ての道具が揃った……」

 両手に抱えていた2つの死体を、順にカプセルの中に投げ入れる。蓋を閉め液体が容器を満たすのを 男は黙って見ていた。目の前には頭に1つの穴が開いた死体。それも既に顎の辺りまで液体が注がれていた。

「絶望の始まりはこれからですよ……梅頭君」

 液体の注入が終わり、天井に吊るしてあるライトが弱々しく輝きだした。その薄暗い光が、カプセルの表面に反射して男の顔を照らした。

 その顔は、カプセルの中の顔と同じ形をしていた……。


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