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IW's機鋼電射ニアラーテ  作者: まっちゃオレ
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世界を変える最初の出会い

 第一話

    「世界を変える最初の出会い」


 ミレニアムイヤーを終え、既に三世紀が経とうとしていた2290年の夏、反乱は突如として始まった。

 バス万能と電車の撲滅を謳う世界バス経営企業組織「パラダイス」が全鉄道本社に宣戦布告を行い、既に五年もの歳月が過ぎようとしていた。

 時は2295年、鉄道利用者数は毎年3割も減り、また各鉄道本社が展開していた全てのバス事業は敵に回り、連携をしていた旅行会社には契約を切られ、鉄道側は頭を抱えていた。

 その年の4月、新たな悲劇が始まった。

 季節は春になり、パラダイスの内部でも人事異動と幹部、長である組織長の交代が行われ、組織内の過激派リーダー大河原寺宝(おおがわらじほう)が組織長になってしまったのだ。

 今までは企業の経済、顧客面で鉄道会社を押していたが、大河原は違った。

 自らが組織長となり、パラダイスを総括出来る今日まで秘密裏に設計、製造していた鉄道破壊専用車「スービィ」と車両鎮圧専用車「イクサート」を正式配備を決定した。

 月に五本のペースで鎮圧されていく鉄道会社。その数はすでに八割を超し、鉄道側は最後の賭けとして破壊活動鎮圧計画を決定した。そしてその年の八月……。



 この月は特に暑かった。毎日、気温が35℃をマークし、高い湿気がコンクリートジャングルである東京を覆っていた。それはアマゾンに存在する鬱蒼とした自然群と気候を彷彿とさせる様な鬱陶しさだった。それは東京から離れたここ戸斤市でも同じだった。

 戸斤市は東京に隣接する市でも1、2を競うほどの都市で、ここには1つの路線が存在した。

東京にある大規模駅である代衣駅からちょうど真北にある小規模駅の五口駅を結ぶ全長約70kmの路線「北部代衣線」。その路線のほぼ中央にある五本の線路と3つのプラットホームを持つ中規模駅の戸斤駅と1つ下りに存在する北戸斤駅を持つ都市が戸斤市なのである。

 そんな街中に一人の青年が、少しも暑さを気にすることなく、無表情のまま歩いていた。昼間だと言うのに自動車1台も走らない銀座通りを左に曲がる。目の前には緩やかな坂道が続いていた。青年は一言も発することなく歩みを進め、青年の耳から垂れる青色のイヤホンに、少し短めの黒髪からつたったらしい雫が滑り落ち、胸元のイヤホンホルダーに溜まった。

 それでも青年は何も言わず、坂の上にある1つの建物の前に立った。看板には少し掠れた文字で「北戸斤駅」と書いてあった。青年は面倒そうに、けれど少し嬉しそうな表情でポケットからICカードを取りだし、改札に当てると、そのままプラットホームにたった。

「…随分と、寂れたな……」

 蝉の鳴き声がうざったく響く人気のない一番ホームに、青年の水を欲する渇いた声がもれた。やがて、青年の声も蝉の鳴き声もかき消す轟音と吹き荒れる風と共に、銀色の鉄箱が入ってきた。

 灰色に近い銀色の車体に、一般的な青ではない、深淵を思わせる蒼のライン、そして十両編成であるこの電車は間違えなく、北部代衣線が所持する八千系だった。

 青年の前を通過した電車が停まるまで、たっぷり12秒かかった。

 ドアが開き、青年はなんの躊躇いもなく青いシートで覆われた7人掛けの席のど真ん中に座った。中の涼しさに、青年の口から思わず悦びの溜め息が出た。

 そう、この青年が本日の乗客第一号にしてこの物語の主人公、田所十字なのである。因みに名前は「じゅうじ」ではなく「くろす」と読む、非常に珍しい名前だ。

 中学校を都会の私立にしてから毎日この路線を使っていた。それはパラダイスが現れてからも変わらなかった。

 数秒の駅メロが流れ終わった後、最後尾車両の運転士が短く「閉まります」と言った。その言葉はたとえ乗客がいなくても発せられる、優しい口調だった。

 それから二秒後、電車の扉が閉まり、動力が動き出すような音がして、低い唸り声を上げながら、電車は進み始めた。目的地である代衣駅に向かって……。



 薄暗い雰囲気の室内に、1人の男が入ってきた。堂々とした歩き方、そして仁王立ち。口は固く紡がれ、深く被った帽子のつばの奥に光る鋭い眼光。

 その身振りが、彼が大河原寺宝がいかに大物であるかを物語っていた。

「用意はどうだ」

「はい、既に準備は整っています」

 必要最低限の台詞を放った大河原に、近くのデスクに座っていた事務員の様な人が落ち着きながら語った。大河原は一度目を瞑ると、静かに開けながら言った。

「よし、これよりパラダイスは北部代衣線の鎮圧行動に移る。いいか民間人は殺すなよ」

 男はうっすらと笑みを浮かべると、モニターの駅舎を見つめていた……。



 電車は南へと進んだ。戸斤駅を過ぎ、冬筆駅、青頼駅、東米駅……。4つの駅を過ぎ、次の駅である燕丘陵駅に向かう途中、それは突如として起こった。凄まじい轟音が、車内に響いたのだ。「なんだ!?」

 イヤホンをしていても聞こえた音、急停車する電車に十字は驚きの声を上げた。イヤホンを外し音楽プレイヤーに巻き付けながら、十字は1つの結論を出した。

 パラダイスが攻めてきたのか……!

 その結論と同時に車内アナウンスが流れる。北戸斤駅で聞いた優しい口調ではなく、緊迫した焦燥感のある声だった。

 暫く聞いているうちに、このアナウンスが乗客に向けてのものでは無いことに十字は気が付いた。

 神経を集中させスピーカーから流れる声に耳を傾ける。

《敵の数はいくつだ!!……そうか、わかった。この電車を使うんだな。場所は……わかった。直ぐに向かう。彼?……ああ、彼ならもう乗ってるぜ……了解した誘導を開始してくれ!》

 何を喋っているんだ?彼って一体……。

 十字が注意深く辺りを探っていると電車が動き出した。

 轟音は続いていたが電車はそれに怯まず速度を上げていった。外の景色が普段よりも速く通り過ぎる。

 やがて電車は燕丘陵駅の二番ホームに入る。外を見ていることしか出来ない十字の瞳に、もう1つの電車が映った。

 それは普段燕丘陵駅には止まらない、下部が漆黒、上部が淡い紫で彩られ、その間に名前の由来である真紅のラインが入った七両編成の特別急行列車「クリムゾンアロー」だった。

 しかし、普段のスマートで風を切るようなボディではなく、上部にミサイルポットの様な四角い箱を載せ、人々が乗り降りする扉からは機関銃の様な筒が二門ついているドーム型の迎撃機銃が、太陽の光を浴びてその重々しい四肢を輝かせていた。

 やがてそれは十字の乗る電車が燕丘陵駅を過ぎた後、ゆっくりと動き出した。

 アブノーマルなクリムゾンアローの車体を呆然として見つめていた十字の車両に、アナウンスの声が響いた。

《お客様、ご乗車中のお客様は直ちにこの電車5両目に移動して下さい》

 現在十字がいる車両は七両目。そのアナウンスを聞いた十字は手持ちの道具をポケットにしまうと目的地の5両目へと向かった。

 外はすでに燕丘陵駅の次の駅、囚木谷駅を半分ほど過ぎていた。

 目指す駅はすぐそこに迫っている……。



「八千系はまだ着かんのか!!」

 1人の若い男の憤りの声が、緊迫する広報室の空気を震わせた。

 煌々と光るモニターに、北部代衣線の路線図が映し出されていて、東米駅と燕丘陵駅の間に赤いバツ印が増えていった。その隣のモニターには敵の情報、戦局、神井戸駅の3D画像が映っていた。

 クリムゾンアローの戦局は思わしくなく、いくつかのスービィやイクサートの残骸が転がっていたが、クリムゾンアローの車両も車輪を破壊された車両や稼働部をやられた車両も多く、四両まで減っていた。

「ただいま大白水駅を過ぎました。後少しです!!」

「よし……。二千系の調子はどうだ」

 神井戸駅の下りホームに向日葵の花びらのような黄色で全体を彩っている十両編成の二千系が停まっている映像が、小さいモニターに映った。

「車両固定完了、乗客避難完了。可動基部の調子は万全です」

「そうか……。頼むぞ、田所十字……」

 男は静かに、モニターの3D画像を眺めながら呟いた。



 電車の速度は燕丘陵駅の時よりも下がっていたことが、目的地に近付いているという事を十字に思わせた。

「誰も、いないのか……」

 5両目に着いた十字の目には、彼が予想していた通りの光景が広がっていた。十字以外の客はおらず、普段座っている座席は上に上がり、見たこともないような電子機械類が眼前にあった。そして、その車両の中央に戦闘機のような座席が1つ、十字を待つようにして堂々と席を空けていた。

 そしてその意志は十字にも届いていた。

「ここに座れってか……」

 十字の独り言に答えるように、電車が停まる。十字は静かに虚空を向いて頷くと、座席に座って背中の上部と腰の辺りからシートベルトを引っ張り体を固定する。同時に両脇の機械が十字とシートを取り巻き、円の字を象った座席周りが鉄の板で隔離された。厚い壁の向こう側では様々な機械動く重低音や振動がした。

 真っ暗の室内で、十字は1人全てが終わるのを待った。体が宙に上がる感覚が起こり止まる。

 永久に思われる暗黒は唐突に、終わりを告げた。

 いくつかの起動音が低く唸った後、青い光と外の太陽光が部屋を照らし始めた。

「モニター……。戦えってのか、やっぱり」

 モニターには様々な武器の残弾数や残エネルギーが表示されていた。

 威勢良く座ったはいいが、一体どうすりゃ……。

 十字がモニターで周囲を見ていると、大きな音を立て、真北の方で爆炎が上がった。

 突然のことで困惑している十字を助けるように通信が入った。

《十字君!いいですか?今からクリムゾンアロー救出に向かいます!》

 その台詞から、先の爆炎がクリムゾンアローのものだと十字は気付いた。だが彼はそれよりも気になることがあった。

 なぜ俺の名を知っているんだ?それにこの電車は……。

《知りたいですか?この電車はなんなのか、僕がなぜ君の名を知っているのか…》

 その疑問に答えるように、雄一の声が十字の心に響いた。メカは全ての変形を終え、高架の上に仁王立ちをした。

 顔のバイザーは遠くの、立ち込める煙を見つめていた。

《あなたは選ばれたんです。この機鋼電射ニアラーテにね》

「機鋼電射……ニアラーテ……?」

 これが、ニアラーテと十字の、世界を変える最初の出会いだった。

 そして十字の、自分を知る物語になるのであった。

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