15話 新たな日々
そして、日曜日。
「おはよっ! って……まだ起きてないの?」
朝っぱらからえらく可愛らしい声が俺の寝室に響いた。きっと夜桜だろう。
「……なんだよ。まだ7時だぞ?」
俺はそばにある目覚まし時計を見ながらうるさい夜桜に言った。
「いいから早く起きて支度しなさいっての! 良いものはすぐ無くなるんだから!」
と、言うなりすぐに部屋のドアを勢いよく閉め去っていった。俺はせっかくの休みなのでもう少し寝たかったのだが引き受けてしまったからには、一緒に行かざるを得ない。
「……仕方ないか」
ようやく重い腰を上げたのだった。
男の出掛ける準備など早いもので朝ごはんと身支度して終わり。夜桜のが遅いくらいだった。
「で? どこへ行くんだ?」
家の近くに海へ行くための準備は揃えれる店があるのだがなぜか今は電車に乗っている。
「隣町に良いお店があるらしいからそこへ行こうと思ってね」
そこで俺はふと思って携帯を開けてメールを打つ。隣の夜桜は二人でいるのに携帯をしだす俺に怪訝そうな顔をしてきたが……。
「……?」
夜桜の携帯が着信を報せたのだろう。夜桜も携帯を取り出す。俺が夜桜にメールを送ったからだ。俺のメールの文章は
『そんなに離れて大丈夫なのか? もしAキラーが襲ってきたら……』
その返信がすぐに来た。
『大丈夫よ。なぜだかわからないけど最近は那珂湊高校周辺しか出ないらしいの。あそこには游も祇園も残してきてるし』
なるほど。あの二人なら撃退できるだろうし、那珂湊高校の生徒ならある程度自衛はできるだろうからな。
「でも、あんまり長いことは居られないぞ? 他の場所でも出るかもしれないからな」
「わかってるわよ。私を誰だと思ってるのよ。そこらへんはしっかり考えてあるわ」
胸を張って答える夜桜。なぜメールのやり取りにしたかと言うとMRSの存在はやはり世間に知られると色々と都合が悪いかららしい。まぁ全部、理事長の指令なんだけどな。なぜとか詳しいことは教えてくれなかった。
「あ、着いたわよ」
夜桜の声に反応して俺たちは電車を降りた。
「……な、なんでよ?」
駅から少し歩いたところにデパートがあり、そこで買い物をしていた。のだが……
「なんであんた達がここに居るのよ!?」
目の前には置いてきたはずの神輿と
「いや、ちょっとお言葉に甘えてね」
この前、戦って女であることがわかった祇園琥珀がいた。もちろん二人とも私服のわけだが神輿は白を基調としたシャツの上にジャージ。なんとも動きやすそうな格好。しかし、髪の毛が長いこともあるのだがどこか女の子らしさを印象付ける服装だった。こいつはこいつで可愛いのだ。
「って、祇園。お前それって明らかに男物の服装だよな?」
最近はどちらでも着れるような服はあるのだがどちらかというとメンズコーナーにあるような服を着ていた。よく服の種類はわからないけど。
「今まで男として育ってきたからね。仕方ないことだよ」
んー。祇園はなんでもないような口振りで言うが女子制服を着ていたと言うことは女に戻るつもりなのだろう。そこで俺は名案を思い付いた。
「よし。幸いにもここはデパートだ。ついでに祇園の服も見ていこうぜ」
友達ができたときにも、遊びに行きにくいだろしな。俺は女子の服とか全然わからないから(てか、ファッションにあまり興味がない)夜桜と神輿にさせるつもりだが
「ま、良いわよ別に」
と、夜桜が承認した。だが祇園は……
「え!? い、良いよ! そんなみんなの時間を使ってもらわなくても……」
へー。祇園ってなかなか遠慮がちなやつだったんだな。新しい発見。
「良いって言ってもらったなら素直に従えよ。欲しいんだろ? 服」
ボーイッシュな感じだが女子と知られてしまったからだろうか、上半身の最大の特徴がわかるようになっていた。だから、なにかと不自然なのだ。
「あ、うん……。ありがとね……」
中性的な笑顔でお礼を言う祇園。これは男も女も虜にしてしまうはずだ。
「良いわよ、誰でもおしゃれの一回くらいはしてみたいものよ」
そう言って夜桜は海へ行くための買い物を開始した。
「そーいや、買い物って具体的には何を買いに来たんだ?」
海に行くならパラソルとか浜辺に敷くシートとか? あと女子なら日焼け止めクリームなどだろうか。などと考えていると
「何って、海と言ったらこれでしょ!」
いつの間にか着いていたその目的の物を見て俺は思わずたじろぐ。
「こ、これって……」
もしかして……。いや、もしかしなくても……
「そ、水着よ」
「こんなとこに男の俺を連れてくるなよ!!」
思わず大声を出してしまった。普通の水着売り場なら、あ~、なら俺も水着選ぶか~って、なるんだが。ここはなぜか『女性専用水着売り場』。男用の水着は一切ない。
「いいじゃない。別に水着くらい」
とは、言うがな夜桜。ここ男誰一人と居ないじゃないか。場違いにもほどがある。ちょいちょいこっち見る客もいるし。
「何そんなにためらってるのよ? もしかして……」
「……このくらいで興奮するなんて。それはそれで怖いかも……」
「な、なに!?」
神輿までもがそんなことを言ってきた。これはヤバイぞ。祇園も、え? こんなやつだったの? みたいな目で俺を見てくるし……。仕方がない!
「そんなことあるわけないだろ! いっしょに行けば良いんだろ!?」
と、言ってしまってから気づいた。女子三人はニヤニヤとしている。しまった!
「よしっ。じゃあ行きましょうか。……あんたもよ良知」
「ふ、ふざけるなー!」
引きずられるようにしてその水着売り場へ入っていくのだった。
店内には所狭しと色とりどりの水着が置いてある。赤、青、黄色……。男物とは種類の多さや色合いが全く違う。まぁ、これだけあれば買い物の時間が長くなるのも頷ける。
「じゃ、私は選んでくるから。適当に待ってて」
そそくさと着くなり勝手に夜桜はどこかに行ってしまったので俺と神輿、それに祇園となったのだが……。
「「「……。」」」
この沈黙である。元々あまりしゃべらない神輿とほんの少し前まで敵だった祇園。それにあまり社交的とは言えない俺。会話があるわけでもない。と、考えていると
「……私も選んでくる」
「えっ、神輿。お前自分で選ぶのか?」
神輿がそんなことを言い出した。それに俺は変な返答をしてしまった。なぜなら神輿は必要最低限(鮭の缶詰は除く)のもの以外は自分で選べるのかというとこから心配な……。つまり世間のことをあまりわかってないのだ。
「……大丈夫。これくらいできる」
何か神輿の気に触ったのかスタスタと早足で行ってしまった。そして残された祇園と俺。黙っていても仕方がないので
「……まっ、お前も選べよ。俺もいっしょに悪いが付いて回らせてもらうけどな」
こんなとこで男一人がポツンと居れば通報ものだ。いや、さすがに通報はされないか。ま、怪しいのは確かだ。
「えっ!? い、良いの?」
対する祇園は意外な返事をして来た。てっきり嫌がると思っていたんだけど、なにか期待しているような。そんな感じがこもった言い方な気がした。
「お、おう。あいつら勝手に行っちゃったしな。ほら、行こうぜ」
そして祇園と俺はいっしょに水着を見ることとなった。
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