11話 人は過去から逃げられない
「……へっくし!」
ピピピと電子音が脇から鳴り、体温計を出す。38.2°を示していた。昨日は急いで帰ったがずぶ濡れになってしまい、風呂には入ったのだがやはり風邪を引いてしまったようだ。
「こりゃ、学校休むしかねーか……」
そこで俺は斎に熱あるから休む、先生に言っといてくれ。とだけメールを送って再び眠りについた。
あれから、何時間たっただろうか。もう昼過ぎになっていた。俺は寝転びながら携帯を手に取り開く。すると
『……斎?』
数時間前に学校へ行った斎からのメールだった。そしてそのメールを開いてその内容に目を見張った。
「!?」
俺は飛び起きてそれが見間違いで無いことを確認する。そのメールの文章は
『たすけて』
その一文だけだった。
俺はまだ完全に回復していないが走って学校に向かった。出来る限りの速さで間に合ってくれと願いながら。……しかし、もう既に遅かった。学校にはパトカーや救急車が多数止まっており現場は騒然としていた。聞く話によるとなぜかはまだわからないが暴走した異能者が学校に侵入し、人質を取っていたらしい。動機は私怨だとか。被害者はケガ人数名。そして……不幸にも死者1名。その名前は……
「……斎」
今朝も元気で出ていっただろう。久遠斎だった。俺は信じれなかったし、信じたくなかった。呆然と立ち尽くす俺の前にひとつの担架が通りすぎた。顔には白い布が被されている。きっと不幸な死者なのだろう。そう思い、ふと見る。その光景は見なかった方が良かったのかもしれない。なぜなら……。左手首に赤と青のミサンガがキレイにつけられていたからである。
それから、しばらくしてまた雨が降ってきた。俺は公園のベンチで1人、座り込んでいた。俺がもし数時間でも早くメールに気づいていたら? もしかしたら斎を救えたかもしれない。そう思うと悔やんでも悔やみきれない。そこへ
「こんなとこでなにをしてるんだい?」
突然後ろから声をかけられた、聞き覚えのある声。
「……祇園……か」
チラッと俺は見るだけにしてまたうつむく。
「……斎さんの件は不幸だったね」
聞きたくないことを祇園はしゃべってきた。しかしそれに反抗する気力はもう俺にはなかった。代わりに弱く呟く。
「……助けれなかったのか?……誰も」
助けれなかったから斎はもうこの世にはいない。理屈ではわかっていたが聞いてみた。しかし、祇園からは思いもよらない答えが返ってきた。
「いたよ。たった1人。すべてを知ってる人間がね」
「っ!?」
思わず立ち上がる俺。そしていつの間にか正面に来ていた祇園を見る。
「だ、だれだ!? そいつは!!」
掴みかからんばかりに激しく言う。そして祇園はとんでもないことを口にした。
「誰って……。この僕だよ。あの子にはけっこう期待してたんだけどね。危機的状況になったら力を発揮するかと思ったんだけど」
なにを言っているのかすぐには理解できなかった。というよりは脳が理解するのを拒んでいるようだった。
「それは……。どういうことだ?」
聞かずには居られない、本当のことを俺は聞くことにした。
「あの久遠斎さんだっけ? あの子、秘めた力を持ってたんだよ」
「秘めた……力?」
斎はNCT接種者だったが極めて普通なやつだった。それがどうして?
「そぅ。詳しくは言えないけど僕はその力が欲しかったんだよ。でもあの子はそんな力なんて知らないって言うからね。危機的状況を作ったらその力を解放するかと思ったけど……。ダメだったね」
作った……? あの状況を? ということは
「お、お前が……。お前がすべて仕組んだ出来事だって言うのか!?」
もう怒りを押さえれなくなり怒鳴り散らす。祇園を睨み付けながらしゃべる。
「暴走した人間も斎が人質にされるのもか!!」
そんな俺とは対称に祇園は冷静に落ち着いてこう言った。
「……あぁ。暴走した人も快く実験台になってくれたよ。それが……仲間ってもんだろ?」
「……祇園。覚悟はできてるんだろな?」
その後、俺は祇園と戦い勝っている。しかし俺には疑問があった。
「なんで今になってこんなことを……」
やり返すならこいつのことだ。もっと早く仕掛けてくるはずだ。すると祇園は
「ふふ……。色々と理由はあるけど君には教えても意味ないよ?」
「……なぜ?」
嫌な予感しかしない。すでに戦わず無事にこのビルから脱出する確率はゼロに等しかった。
「それはね。……君はここで死ぬからだよ!」
急に右手を左から右へと勢いよく振る祇園。そして
「攻撃壱型! この世は諸行無常、流るる波のごとし!」
祇園式の呪文を素早く唱えると振った手から飛んだもの。楊若仙が光り、高圧水が俺に向かって飛んでくる。
「くそっ!!」
時空を歪めとっさに回避行動をとる。ゴロゴロと転がっていくとちょうど祇園の向こうにある柱に縛られている夜桜を見つけた。
「夜桜!!」
叫ぶが眠らされているようで、返事はない。助けに行こうとするが祇園がそれを黙って通すはずがない。また高圧水が無数に飛んでくる。それを俺は交わし、無理な場合は打ち消す。
「はっはは! 弱くなったんじゃないのか? 良知君! いや……僕が強くなったのか?」
などと祇園は喜んでいる。確かに2年前とは威力も範囲も桁違いに良くなっている。昔の俺でもかろうじて勝ちの判定に持ち込めたようなものだ。祇園はきっと2年間、俺を倒すことだけを考えてきたのだろう。回避先やタイミング。ささいなことまで計算され俺は苦戦を強いられていた。
過去の出来事の話になります。
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