9話 祇園琥珀
しばらく廃墟ビルを上がっていき、とりあえず5階まで来た。もちろんエレベーターは止まっているので階段でやってきた。部活をやっていない身としては少しキツいかもしれないな。外は明るくても中は暗いこの廃墟ビル。だいぶ呼吸も乱れている。
『…落ち着け。慌てているだけだ。動揺したら祇園の思うツボだ』
やつはいつ、どこから陽若仙で攻撃してくるかわからない。俺はさらに上を目指して走り出した。
「……ん、ここ……は?」
ようやく目を覚ました夜桜波方。あたりを見渡すがうまく把握できない。
「ようやく起きましたか。夜桜波方さん」
いきなり背後からかけられた声に反応しそちらに向こうとする……が
「っ! なによこれ!」
柱かなにかに縄で完全に縛られている。身動きが全くとれない状況だ。そこですぐ思い出したように愛銃シュバルツを取ろうとする。が、ホルスターに手が動かない上に
「探してる物はもうすでに僕の手にあるよ?」
後ろでクルクルとシュバルツを回している気配がする。MRS専用の武器は本人でないと使えない。しかしそれは本人が持っていないと玩具同然ということでもある。
「くっ……。あ、あんたはいったい誰よ!?」
なす術が無くなった波方は半ば吠えるように言い放った。後ろでシュバルツを回していた誰かはそれをやめ、コツコツと足音を鳴らして波方の前に現れた。
「たぶん知っていると思うよ? 僕の名前は祇園琥珀。良知に会いに来た」
ずいぶんな美少年ね。と波方は素直に思った。髪は肩にかかるかどうかというところ。色は薄暗いのでハッキリとはわからないが、およそ青掛かった黒。目は復讐と怒りに満ちていた。自分がMRSじゃなかったら一目散に逃げていたかも知れない。背は男にしては小柄な体型。スタイルも顔も良く誰にでも優しそうな印象を持たせる祇園琥珀。それがなぜ良知に……。確か良知も札の事件の時、祇園がどうのって言ってた気もするし。
「……えぇ、聞いているわ。でもなんで私なの? 正々堂々、あいつと勝負すれば良いじゃない」
とは、言ってみるけど……。あいつだったらこのまま祇園琥珀に殺されているわよね。あいつ、異能者だけどほぼ戦闘では役立たずだもの……。と、MRSリーダーとしては少し落胆する。
「おや? 考え事ですか? なかなか肝が座ったお方だ」
それとも自分が置かれた状況をわかってないのかな?と、付け加えて小さなため息を漏らす祇園。これに少しイラっとした波方は
「それくらいわかってるわよ! あいつはどうせすぐ来るわ! 考えなしだから!」
少し、罵倒を入れたけど良いか。と、波方は後で思う。すると今度は祇園が
「えぇ、たぶんここには向かうでしょうね。もしかしたらもう向かってきているかも。しかし…ここに辿り着けるかと言うことが問題ですよ?」
意味深な祇園の発言に波方が形の良い眉をひそめる。
「ど、どういうこと?」
思わず動揺を表してしまった。それが祇園にバレたのか一瞬笑い、こう続けた。
「僕は中国で力を磨いてきた。そこで手に入れたのはただ自分の力だけじゃない。…仲間も人望も手にいれたんだよ」
思わずゾッとするような微笑を浮かべた。
「うわ! ど、どけよ!」
一方、良知は現在6階の大広間にいた。そこで5人ほどの大人と戦っていた。……戦うと言ってもただ逃げているだけだが。
『こ、こいつらの攻撃って……』
だいぶ避け続けてわかった。この大人たちが使っているのは中国の武術、カンフーに似てる。前、映画で見たのとそっくりだ。
「……ってことは、この人ら中国人?」
そうとも限らないけど……。俺が6階に上がるなりすぐに殴りかかってきた。
「くっ!」
俺はあえて能力を使わず自分の反射神経のみで避ける。きっとこの上にいる祇園と戦うために力は残しておかなければならない。しかし、異能を使わなければただの人間。体力にも限界がある。相手もきっと異能者だろうがなぜかその力は使わず、体術のみで攻撃してくる。しばらくして……
「……やべ、疲れてきたわ……」
ここまで来るのにも走ってきたしだいぶ疲労がたまっている。そこで中国人たちはそんな俺を見逃すわけなく一斉にかかってきた。
「……っ!」
反射的に目を閉じてしまい、俺は来るだろう強い衝撃を覚悟した。
「……。」
ドサリ、と重い音がした。あまり痛くなかったな、と思う。我ながら呑気なものだ。しかし、次々と重い音がするのを不思議に思い目を開ける。よくよく考えてみたら痛くもない。するとそこに信じられない光景が広がっていた。
「……。まさかあいつらがやられるとはね」
ひとりごとを呟く祇園琥珀。楊若仙で作り出した烏が見た光景が伝わってくる。しかし誰に、いや何にやられたのかまではわからなかった。すぐにその烏も落とされたからだ。
「きっと、良知だわ!」
じたばたしながら夜桜が騒ぐ。そんな夜桜を祇園琥珀は一瞥し、窓の外を見る。そして予感した。
「……もうすぐ、僕の止まった時間が動き出す」
「……な、なんだ!?」
目の前の光景に驚愕する良知。全ての敵達が倒れている。怪我も見当たらず気絶しているだけのようだ。辺りを慌てて見回すが俺以外に立っている者は誰一人いなかった。
「と、とりあえず先へ急ごう……」
なんか気味悪いなぁ。と感じつつさらに上を目指す。
その後は仕掛けらしい物も無く、ただ階段を上がった。そしてついに良知はその階へたどり着いた。重そうな鉄扉を開く。何年も使われておらず、錆びている扉。キィ……と、甲高く不気味な音をならして開ける。
「やぁ、なかなか遅かったじゃないか。由来良知君?」
怒りと憎しみに満ちた美少年が挨拶をしてきた。
「……祇園。なにしてんだよ、いまさら」
俺は極めて冷静を装いつつしゃべる。たぶん祇園は過去のことを恨んでいるに違いない。はじめて会って、はじめてすれ違い、はじめて戦ったあの日のことを。
お待たせしました~!
相変わらずの下手で遅い更新ですが
暖かい目でご指摘、ご感想お願い致します~!




