ある日訪れるあれら
それは僕が引っ越してきて1か月と14日が経ちました。咲音様を傷つけてしまったと思われる和風コンソメスープ事件ですが、筒井さんに内緒で謝りに行きました。一部覚えが曖昧なのですが「君は根からの〇婦なの。謝るなら私の快適生活のために下〇のように家事を頑張りなさい」のようなことを言って激励されました。「わかったか、この野郎」……と少し低い位置から頭をなでてもらいました。これが役得というものですか。そんなこともあり、毎回家にいるときの食事は完食してくれるし、最近は寝巻の準備や自室の掃除もまかされてウキウキです。全く、側使い冥利に尽きるというものです。側使いは自称ですけどね
筒井さんの経言にも慣れてきて、学校に行っていたころより自分幸せじゃね……と感じている今日晴れ晴れとしたこの日
「ふう、いい天気ですね」
「お、リュウ君今日も洗濯を頑張ってるね」
「筒井さん。今日も霊が纏わりついていますね」
筒井さんは禍々しいオーラを纏っているのですがその正体は怨霊、精霊、ポルターガイストなどの霊魂らしいです…よ?なんか意志を持ったエネルギーが何とかしてこーとかして最終的に自分の支配下に置くとか……筒井さんがいつも語るから記憶しそうじゃないですか
「えっと、霊は払ってくれたら僕の心が助かります」
ただでさえ笑顔が禍々しいんですよ。霊とは関係なく。とにかく早く霊から離れるため洗濯に逃げます
「多分、リュウ君はこっちの素質があるから気が向いたらおいで」
「気が向いたら……ですね」
気は向きません。半端に能力なんて使えると霊とかリアルに感じるのです
筒井さんも去ったのでのんびりと洗濯物を干せます
「今日もい~い天気だな~」
「君の脳味噌が一番あっ晴れよね~」
あ、咲音様だ
「いえいえ、咲音様ほどの快晴ではありませんよ」
「それは気付いて言っているのかな?あと、私のパンツをずっと持ってるのもわざとなのかな」
あ、気付かなかった
「あ、咲音様のパンツはいい匂いですよ!えーっと、できればずっと握っていたいです!!」
「元気いっぱいに気遣われて自信がなくなった」
あ、あれ?怒るならともかく落ち込むなんて人って不思議ですね
咲音様はさらさらの髪を頭を振って乱した後、こちらを見て言いました
「本当は向こうに馴染んで君を連れて行こうと思ってたんだけど……」
僕ではない、もっと遠くのものを見据えて笑います
「今日がベストなタイミングみたいね」
「ふふふ、彼が2人目?」
振り返ってみると髪は金髪で顔のつくりは日本人というチグハグな女性と爽やかそうとしか言いようがないスーツを着た青年がこちらに、咲音様に、向かっています。
「そうね。でも……を誘うのは無理そうよなぜなら…………」
外人もどきの女と咲音様はこそこそと2人でなにやら話しています。よく聞こえなくて実に腹が立つ
「どうもこんにちは。君名前は?」
「僕、りゅ、龍吾です。貴方はなんなんですか」
スーツの青年が話しかけてきました。なれなれしくて、僕はたじたじです
「ああ、失礼。僕は反公教団の坂巻といいます。よろしく」
「はあ」
「あ、龍吾君の自己紹介はいいよ。ある程度知ってるから」
何故知ってる?咲音様経由ですか
「……僕が言いたかったのはなんでそんなに……距離が近いのか……と」
距離感というか、なれなれしいというか
「ああ、勧誘をやっていたら、自然に身に着いたのですよ。と、いうわけで……あなたも反公教団に入りませんか?教団は普通の人間、つまりは公から拒絶された人が集まっている集団なのですよ。モットーは自由、自行、自確立です。つまり、他にはない自分だけの人生のレールを走っていこう、っていう事だね。男性もいれば女性もいる、有職者も無職者もいる、考えが異常な人や能力が異常な人の方が多いくらいです。能力をもっていても一般人に交じるよりは居心地がいいと思いますよ……それに…………」
そんなこと言われても、僕には信仰している人が……
「ああ、無理に今決めなくても、ゆっくり考えて入ってもらえれば……」
……彼は僕に自分の集団に入れようとするくらいの好意はあるようです。しかし、僕は彼を好きにも嫌いにもなりそうにない。くだらないギャグばかり言う芸人を見るテレビの視聴者の気持ちだ。相手がこちらを見てる分、なんだか気持ちが悪い
「ああ、強引すぎたかな。でも、返事をくれないのも悪いと思うよ。確かに僕はよく強引だといわれるけど誰がしゃべったって、ずっと返事がなければ結果、強引ということになるからね」
もてなしの心、もといリップサービスがなっていないと言いたいのかな。しかたありません
「では、麦茶でも持ってきましょう」
嫌いですか?と聞くと、何でそうなるし、と呟いていました。麦茶を注いでくると普通に飲んでいました
「この地球には宇宙人も未来人も魔法使いも死神も悪の秘密結社も存在する」
そして、超能力者も?
「それ、昔のアニメで聞いたことのある台詞ですね」
「君は、僕が唐突に妙な事を言ったのに驚かないね。信じてないのかな?超能力者のくせに」
全部を全部は信じていないし、自分は少し電波を操れる一般的なひきこもりだと信じていますぜ
「咲音様は静電使いですし、信じていますとも。色々応用が利くようですし格好いいです」
「たしかに脅威ですね。敵対してなくて良かった」
もっとも、僕は君の方が脅威だと思うけどな。と呟いていました
自分の手のひらを見てみます。電波を出します頭痛が来ました。うーん、そんなに便利な能力ではないと思うのですけどね
「そういえば、君は咲音さんとは仲が良いみたいだね。一瞬、カップルが夫婦漫才やってるわーって思ったもの」
「まあ、咲音様は……師匠みたいなものですよ」
もっとも、漫才をしていた記憶はないですけど
「……ふーん。てっきり君が片思いでもしてるのかと思ってたよ。咲音さんも満更でもなさそうでしたしね」
はい?
「はい?」
「いや、本当に心からわからないのかい?だって君はあんなに……」
「うちの龍吾君に変なこと教えないでくれます?」
あ、咲音様。そちらの話は終わったのでしょうか。でも、片思いか……
「まあ、未だ弟子と認めてもらっていませんから、片思いってのは間違いではないのかも」
「へー……私の事をそんな風に思ってたんだ。ふーん」
本当はただの主従関係です。見栄を張りました。ごめんなさい
「まあ、君が片思いしているというのは間違っていたのかもしれないね。長居するのも悪いし帰らせてもらうよ」
「咲音さんから話があると思うから、よろしくね。多分楽しいと思うよ……」
そういうと、金髪の女性は青年の頭をぺチペチ叩きながら帰っていった。見ていると和んだが、同時に青年が少し哀れだと思った