天国ではなくあそこ
知らない天井でした。右を見ても左を見ても特徴のない空間。少しわくわくして伏せる体を起こした。僕はどんな世界にいるのだろう。死後の世界か、異世界か。僕の期待は最高潮になり、部屋の外へ駈け出した。ぐんぐん加速して風と一つになり曲がり角を曲がったところで人と衝突した。
「わっ、ぶつかってごめんね…大丈夫…?」
僕はぼけっとしりもちをついたまま見上げた。ぶつかった女性は清潔なくせに短いスカートに白衣を着ている。髪は茶色に染めているくせに服装と表情で、無害な清潔さが伝わってきて思わず聞いていた。
「ここはどこ、あなたはだれ」
「うん?」
首を傾げられても僕はちっともわからない。僕は諦めて周りを見渡すと『ナースステーション』とカタカナを見つけた。非常識な希望はしぼみ、絶望を否定しようとした。
「ここはK市の病院ではないですか。〇月×日ではないですか」
「此処はK市の私立病院で、×日+4日ですよ。大丈夫ですか?」
頭か体を気遣って言ってくれたようです。僕は頭が治った代わりに体に不調がうつったみたいで立ち上がろうとすると足の筋肉痛と目まいでばったりと倒れてしまいました。
「肩をお貸ししますね」
と看護師が一人で僕をひっぱりあげてくれました
「お部屋は何号室になりますか」
「何号室かわからないです。ただ、4日間目を覚まさなかった人です」
そう言うと「ああ、判りました」と僕を病室まで連れて行ってくれました。そして、筋肉痛に痛む僕の足を手早くベッドに持ち上げます。
「僕は何故、病院に運ばれたのですか」
「×日に溺れた患者を引き受けてほしいという救急車の要請で君は運び込まれました。応急手当が正確だったので、運ばれた後、病院がしたことは呼吸器による酸素供給と安全を考慮して心電図によるバイタルチェックで様子を見るだけでした。すぐに容体が安定したので普通病棟に移されて、なぜか4日も目を覚まさず、今に至ります」
業務連絡ありがとうございました。要は何故か湖に飛び込んだ僕を何故か通りすがりの人が助けてくれて、なぜか助かってしまったわけですね。
「あと、君が誰か証明できるもの持ってないかな。それかご両親の電話番号しらない?」
「多分持ってないし、電話番号は知りませんね」
本当のことです。なんで電話番号を知らないのだろう。不思議ですね
「他に聞きたいことはある?」
僕は一目見たときから気になっていたことを聞いてみた
「最近の女性看護師はナースキャップをつけないのですか」
「この病院ではナースキャップは廃止になったの。点滴に引っかかったり、ボタンをキャップで押したりして騒ぎになったから」
何とも世知辛い世の中になったものですね
「あと、私は女医です」
何とも煩雑な世の中になったものですね
何故か僕は笑っていた。すると、胸のあたりに閉まるような痛みが走る
目が回る ぼーっとする 思考が止まる 僕の肺が強く、痛いくらい強く運動してして、少しづつ緩やかになり平常運転の心臓に戻った。安心し、安全に病室にもどることにします。
「大丈夫だった?」
ナースさんが心配して背中をさすってくれています。看病ついでに気になっていたことを聞いてみます
「僕は何故、病院に運ばれたのですか?」
僕は今、タクシーから夕日を眺めています。
4日間も寝込んだ割には、すぐに退院することができました。気味が悪いくらいの健康体だそうです。
「気味が悪いのではなく、純粋な異常なのだけどね」
あ、声に出てましたか。
気になっていたのですが僕は何故家に帰れないのですか。あと、女医さんが付いてくる必要はないと思いますよ。
「んん?そんな訴えかける視線を向けられても困ってしまうよ」
残念、僕と彼女は以心伝心ではないようです。
「ところで、僕は健康体のはずなのになぜ帰れないのでしたか」
「君は溺れたこととは別に病気
・・
を患っているのよ。直前までフラフラだったのにいきなり元気になり、ダメージを受けたはずの肺は異常なスピード回復してしまい、直前まで話していた事を忘れ、新人看護師の注射が一回で成功した」
彼女は瞼の上から僕の目をなでる。手がすべすべしてて気持ちいいです
「決定的なのは、君のその目がオレンジに変化したこと。事故で目の色が変わることは確かにあります。でも、人の正常に機能している目の色が完全なオレンジ色というのは本来ありえないの。目の色をだす色素ではオレンジ色は出せないはずだから。白目もオレンジに浸食されていくし、異常と判断されても仕方なかったの。そこで病院のネットワークで調べるとある病気に行き着いた。その病気は未知で危険らしくて大昔のハンセン病の様に隔離、監視を行うそうよ。似た症例を持った人が同じ場所にいるから友達になれるかもしれないし、町から出なければ監視付きで自由らしいわね。でね、その症例の人は病気
・・
でエスパー能力を持っているらしいけど…なにか自覚があったりする?」
なんか楽しそうに話すなあ。期待で目が輝いていますよ
「よく判ってないですけど、危険になったら発動するのかもしれないです。そんな気がします」
いや、本当は理解している。あの力は真実を……
「そっか。だったら、意思に関係なく自動で反応する能力かもしれないわね。肺のダメージが消えていたから細胞を活性化させる能力とかかも」
なんていうか、うん
「女医さんみたいな美人が楽しそうにしていると幸せな気持ちになりますね」
「う、うう?」
女医さんが髪の先をいじりながら不機嫌な顔になってしまった
「そ、その、先入観でクールってイメージがあったので、夢中になってる様子が可愛いな……と」
ああ、そっぽを向いてしまいました。何かぶつぶつ言ってる。どうしよう
「あ、あの…………ごめんなさい」
久しぶりに泣いてしまいそうです。せっかく気持ちよく話してくれていたのに余計なことを言うのではなかった……………………
「はあ」
女医さんがため息をつきながら僕の肩をつつきます
「ほら着いたわよ」
タクシーから出て見てみると結構大きい鳥居があります
「僕はこれから神社に住むのですか」
「そうよ」
あの家にいるのは辛かったけど、知らない神社に住むのは不安です。家にいたころが懐かしい
「では、女医さんありがとうございました」
「ちょっとまって、私の名前は女医じゃなくて京子よ」
「は、はい。女医さん」
「だから、私のことは京子とよんで」
「京子さん」
「うん、おーけー。今日は帰るけど、暇ができたら来るから」
「僕は龍極……です」
「リュウゴくん、その力はむやみに使わない方が……いいかもね。君に能力があるとすればおそらく代償は君の記憶……」
「記憶?」
「ううん。よく判らないけど何となく思っただけ。連れて来といて勝手だけど、新しい生活頑張って」
「うん、じゃあ行きますね」
僕が施設に向かうと、京子さんを乗せたタクシーが走り去っていきました