家庭の事情からのこれ
六時間目も終わり、僕は脇目も振らず一直線に家を目指していた。別に友達がいないからではなく、両親による僕の誕生パーティーがあるから帰るのです。友達がいないから家族で寂しくという事ではなく僕の両親はエンカウント率言い換えると遭遇率がとても低い両親なのです。父は政治家で何か人々の生活を守る事をしているらしいネットで見た事だけど。母はよく分らない。聞いても教えてくれないし、家に連れてくる人も毎回変わって気分が悪い。いつもは僕の優先度が低い家庭劣後な二人ですが、誕生日だけは帰ってきて一緒に食事をしてくれるのです。そんなわけで、ケーキと夕食の材料を買って家に帰るのです
買ってきたケーキは冷蔵庫に入れ、ネットで調べた料理を作ります。大量の料理を一人で作るのだから大変なのです。だから、少し適当な作り方をしても満足してもらえるでしょう。と、丸鶏に適当に構想を刷り込みその後はオーブンに任せて、色々な野菜やソーセージをざくざくと切りスープにしては少なめの水を加えコンソメも加えその後はストーブに任せて、その他の主食、副菜、デザートも全部を家電器具に任せましたら、後はかんた~ん。待ってるだけで出来ちゃう………………どうしようもなく暇です。どうしてくれるのですか。既に7時なのに何一つ完成してないですよ。ごはんが完成してました。ごはんだけで食べろとふざけるな、ですね。
さすがに9時になったら全部の料理ができますよ……。そりゃできますよ。まだ食べてないけど、まあ旨そうな匂いはしてますけど、がまんですね。先に食べたらコンビニ弁当を食べるのと変わりゃあしねーですよ。準備も終わったし、神を倒しに行きますか。
神は神ではなく紙でした。ゲームだって知ってるけど、データだって知ってるけど、主人公がボスもろともデータを消されるエンドはダメだと思った。ヒロインは主人公の犠牲で助かったのだけれど、僕のセーブデータも犠牲になって等価交換とかリスクを負うとか考えたくないことを感じさせられて不快でした。でも感動した。まあ、そういう美しい話はともかくです。あ~、今の時刻は11時半の件について。僕の誕生日が終わってしまうのですが、どう思います?流石に待ちきれずに電話してみますよ
「もしもし、父さん」
「龍吾
りゅうご
、何の用だ 」
「今日、僕の誕生日なんだけど……」
「ニュースを見てないのか?敵国が和平にケチをつけてきて大変なんだ」
「で、でも、もう夜中だし……、お母さんも帰ってきてるし」
「無理なものは無理だ。時間が惜しい」
切られた。電話を掛け直すとピーーーーーーの連続音しかしない。……まあ、母が帰ってきてるなんて嘘をついたから怒ったのかな。でも、こんな時間になっても帰って来ないのが悪いと思うのです。しかし、僕の誕生日に帰ってくるなんて契約どころか約束をしていたわけでもなく僕が勝手に誕生日だけは帰ってくるというジンクスを信じていただけであって、ああ怒ってるのかな。僕だって怒っているのだ、父さんが帰ってきたら怒鳴ってやる。『普段我慢してやっているのに誕生日すら帰らないのか』って大声で叫んでやる。
怒りと不安に頭を抱えていると、インターフォンが鳴ったので穴から覗くと待ち望んだ母の顔があった。ドアをあけた瞬間、僕は反射で笑顔を貼り付けた。
「母を送ってくれてありがとうございます。此処まで来たのですから、ベッドまで連れて行ってください。ご迷惑でなければ粗茶くらいならお出ししますよ」
母を連れてきた男は引きつった笑顔を向けた後、寝室へ運んで行きます。母の酔ってにやけた顔を見ると、先ほどまでの怒りが飛んで行って空しい気持ちになります。男が母をベッドに降ろしたようですね。その後、そさくさと帰っていきました。確かに気まずいことこの上ない。近頃、父の仕事は高給なのだから主婦でもすればいいと思うのです。料理まずいから無理ですけど。
ついでに母のメモ帳の人物相関図に付け加えておきます。先ほどの人は僕的には好印象だったので名前の周りを花丸で飾っておきます。父の名前を見ると書いておいた特大花丸が消されていたので付け加えておきます。
倦怠感を催しながらも、手持無沙汰なのでローストチキンを解体しました。終わったのでローストチキンの肉と鍋の中身をごみ袋に詰めてます。何か働きすぎて疲れたので夜道を散歩します。今日は僕が歩いていると人が道を空けてくれます。集団で歩いてきたおじさん達はひそひそ話しながら脇道にそれ、バイクで通りかかった不良らしきお兄さんは不審げな顔をしながら走り去っていきます。「妖精さん、妖精さん、この手に停まれ」と歌っていると大きな湖に出ました。思考が上手く出来なくて上手く伝えられませんがとても魅力的な、絶対的に魅力的な紋様が湖の底で光っているのです。僕は紋様に手を伸ばすことで安心できる気がして、それが怖くて明かりのある町中へと意識を向けます。しかし、体は無意識に湖に入り、月が浮き上がらせた紋様に魅せられたように、湖底の紋様へと沈んでいきました……。