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自己紹介的なあれ

 え?僕みたいな人間の小説を読みにきたのですか?もっと有意義なことをしましょう、今からでも遅くありません。だって僕みたいなカスみたいな奴が主人公の小説なんて爽快感も萌えもあったものではありません。そんな事よりも友達、家族、勉強、スポーツ、読書、テレビ、などなど他にも沢山あるでしょうに。時間は有限で、無意味に過ごすほど自分の価値が下がっていくんですよ。それでも読みたいのなら読めばいいですよ。読んで欲しいわけではありますし。


 なんて、自分が小説の主人公になった妄想をしてみたりします。そんな暇があるのかといえば……あー、僕は今、自分の教室で自分の机に頭を伏せているのです。判る人がいると嬉しいのですが、眠いから伏せているのではなく、要はボッチだから伏せているのです。ちょっと薄目を開けて、右を見てみます。隣の席で4人の男子が昨日のお笑い番組の話をしています。

「僕も昨日見ました。面白いですよね」

 聞こえていないようですね。聞こえないくらい小さくてかすれた声で言ったからですけど。僕にはそんな勇気も無いのです。無駄に勇気を使い果たした僕は、もう一度机に横たえて、今度は左を見てみます。女の子が本を読んでいます。その女の子はいつも本を読んでいるので本が好きなのでしょう。その女の子は前髪も後ろ髪も長くてなんだか野暮ったく、さらに猫背でいつも俯き加減で無表情なのが好感が持てます。今呼んでいる本は

「懐かない犬の懐柔聖書」

 なかなかユニークな本を読んでいますね。彼女は犬を飼っているのでしょうか。彼女がただの趣味でこのような怪書を読んでいるならさらに高感度アップです。犬の躾け本を読んでいるだけで僕に好感を持たれるなんて迷惑ですね。

 あ、僕が眺めているのに気がついたようなので、とりあいず愛想笑いをしておきます。彼女は苦笑いを返してくれて、それ自体は嫌ではないのですが、終わる切っ掛けが掴めずとても気まずいです。十秒か百秒か停滞した後、彼女の友達が近づいてきました。

「……何をしているの?」

 名前も知らない彼女の友達に感謝して再び机に横たえられたので今度は純粋に眠ることにします。


 たしかに寝たのは僕さ。でも、『移動教室だよ』と放置せずに起こしてくれる人は一人もいなかった。そう、いなかったのです……。なんら不思議な事ではないなと気付き落ち込んだ!! …ました。四時間目にでられなかったので四時間目の先生に謝りに行きます。廊下を歩いていると好奇の目にさらされるが耐えながら職員室に行きます。

「すみませんでした」

「何か遭ったのではないの?」

「すみませんでした」

「三時間目まではいたらしいし何かあったの?」

「すみませんでした」

「何か事情があるなら特別に出席にしてあげるから」

「すみませんでした」

 先生は「はあ」とため息をした後、許してくれました。申し訳ない気持ちになりながらも職員室を後にして、教室に戻ります。クラスメイトは昼食を食べ終えているようですが気にせず冷めた給食を食べ始めます。朝や夜にコンビニ弁当を食べている僕としてはスープやおかずは美味しいと思えるのですが正直、コッペパンと牛乳だけは好きになれません。なんだか、味がしないのですよ。ジャンクフードばかり食べるせいで舌がおかしいのかもしれません。何とか食べきった後、皿とお盆を給食場に返しに行ったり、トイレに行ったりしているとチャイムが鳴ったので教室へ早歩きで向かいます。


 楽しくないけど寂しくない授業が始まりました。歴史の授業なのだが、年配の先生がずっと『敵国がいきなり攻めてきた』とか『敵国は陰で何をしているか解らない』だの熱心に語っているのですが、そんなことはどんなメディアも時々思い出したように言っている事であり、流石の僕も退屈すぎて意識を投げ出したくなります。悲しいことに四時間目を寝て過ごしたせいで全然眠くならないので最後まで聞きましたよ。それも終わり、楽しくなくて寂しい休み時間に入ってしまいました。僕はいつも通り机に横たわっています。僕は何とつまらない人間だろう。自由なくせに何もしない捨て犬負け犬のようです。敵国ほどの価値もない人間なのです。と、自己嫌悪に浸っていると後ろから声をかけてくる人がいて驚いて振り返ります。

「……どうしたの」

「あー、宿題みせてくれね。ほら、俺英語苦手だからさ」

 僕は机に入れておいたコピー紙を渡します。彼にノートを貸したときに彼の悪友にビリビリに引き裂かれたことがあるのです。彼は悪くないのはわかっていますが、悪意は彼の周りにもはびこっているのです。

「あんなことがあったから仕方ないか」

「そんな事より、英語が苦手なのはまずいのではないですか。正真正銘の世界共通語ですよ」

「家があれだからな。混ざって面倒になるんだよ」

「あれなら仕方がありませんね……」

 あれとは多分家が寺とか名家とかあれとかです。何故か日本語で日常会話をしなければいけない一族なのです。

「まったく、時代は大昔に変わってるのだから親父たちも英語を話せばいいのに」

「それはともかく、宿題は渡しましたね。もう用は無いはずですから、グループに戻ったらどうですか……」

 彼には見えていないかもしれませんが彼が所属するグループの人達がこっちを凝視しているのです。正直怖いですし、絶対に僕のせいで彼の中学生活に悪影響を与えるわけにはいきません。彼は僕ですら認める良い人なのですから。

「いきなりだな。なら、こっちも言わせてもらおう。放課後に俺たちとカラオケに行かないか」

「行きません。行けません」

 きっと僕が一人でいるのを見かねて友達の輪を広げてくれようとしているのだろうと思います。しかし、彼の友達は彼が好きなのであって、僕が好きなのではないということが分かっていません。そして、僕と関わること自体がが彼の幸せを潰すことを本当に分かっていなくて、可笑しくて申し訳ないのです。

「……気が向いたらメールでも直接でも言えよ」

「今日は用事があることは本当ですから」

 不満げながらも彼はグループに戻っていきました。僕は安心して六時間目を迎えることができました。

この小説の伏線は回収されることがなくもないかもしれない

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