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呪いの輪廻 王女の運命  作者: 鼎ユウ
セレナの話
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九話  人形

予定通りに話が進まない、謎。

「さて、ずいぶんと走ったように感じたけどここはどこかしら?」

 まばらに木が生えている以外は何もない。ここから先はサラに頼った方がいいかもしれない。

「護衛を交代した方が良いようですね」

 セレナの考えを読んだようにニールがそう言った。

「そうね。乗せてくれてありがとう、ニール」

「陛下をお守りするのが騎士の役目です」

「サラ、サラ」

 ニールが画集に戻り、交代でサラを喚ぶ。

「お喚びでしょうか?」

「ええ。ここがどこだか分かるかしら?」

 『エルフ』は森の民。ここは彼女の領域だ。

「・・・・・・私たちを初めて()んだ森の入口、でしょうか・・・・・・」

「まだそこなの?ずいぶん走ったように感じたけど」

 周りの景色が見えなかったから感覚が狂った?いや、それよりも予定していた道を外れてしまった。

 屋敷を出る前に侯爵が見せてくれた地図を思い出す。

 森の近くは通るが中には入らない。突っ切れば近道ではあるが、ここの野生の動物は危険だ。獰猛で好戦的。

 偽物の御者の男はそれを知っていながら夜の森に入った。残されたセレナとリーアンもその危機から無事生きのびた。

 すぐ傍に森を味方につけたサラが居てその後は腕の確かな魔法騎士たちに守られていたから当然と言えば当然なのだろうが・・・・・・。

「うーん・・・・・・幸い日は高いわ。このまま森の中を行きましょう。サラ、道案内をお願い」

「かしこまりました」

 言い終わる前に歩き出すセレナに先行してサラがゆく。



 幾度か休憩をはさみ、セレナたちが馬車ごと落とされた崖まで来た。

 今セレナが立っている場所がそこではないが右か左に行けばたどり着くだろう。

 陽光は惜しみなく降り注ぎ大地を照らすが、崖底は薄暗く改めてその高さを知る。もしあの時あのまま落ちていたら、背筋が凍る。

 あちら側に渡るのに橋はなくて渡りたければ迂回(うかい)するか空を飛ぶしかない。

 危険を承知でここまで来たのに迂回しては意味がない。セレナは迷わず後者を選ぶ。

 空を飛ぶのは魔術師でもそこそこ技量がいるが、画集を持っているセレナには容易(たやす)いことだ。

 キリシェを喚ぶ前に歩きすぎてパンパンに張った足の手当てをすることにした。

「サラ、見張りお願いね」

「はい、お任せください」

 休憩の(たび)に手当てをしているがすぐに張ってしまう。 

 荷物から手のひら大の布を二枚取出し ――もちろんこれにも魔法陣が書き込んである―― 水筒の水と青い粉末を振りかけて魔力を流す。

 青い粉末はラズリカという花を乾燥させて粉々にしたものだ。

 靴を脱いで前の休憩の時に使ったものと取り替える。

「ふぅ」

 動かずに力を抜いて一分もすれば疲れもとれる。けれど、所詮はセレナが作った物。長くはもたない。それでもやらないよりはましと幅広の紐で固定する。

「よしっと。これでいいわ。サラありがと」

 最後に一口水を飲んで立ち上がる。

「もう少しお休みになられては?これでは休憩になりません」

「そんなことないわ。大丈夫よ。まだ歩けるわ」

 サラが心配するが、セレナは大丈夫と押し切る。

「ですが・・・・・・」

 大丈夫、と笑顔で念をおせば(あきら)めて口を(つぐ)む。

 一度言ったら聞かないことはサラも分かっている。

 幾度生まれ変わろうとも、その根本の性格は変わらない。

 画集を片手にキリシェを()ぶ。

「キリシェ、向こう側へ渡りたいの。運んでくれる?」

「はい!」

 頼まれたことが嬉しいのか元気よく返事をするキリシェ。

 セレナの周りで小さな竜巻が巻き起こる。()いでふわりと身体が浮き、崖の上空を進み始める。スーッと地を滑るように進む。

 

 あと四分の一ほどで渡りきるという所だった。襲撃は下からきた。いや、正確には斜め下、崖の斜面からだ。

 ズズズ、と崖の表面が盛り上がり何かが生えてきた。

 それは子どもが作った(いびつ)な人形のようで腰から下はなく斜面に生えたままになっている。

 目と口のあるはずの部分は黒い空洞で額にある赤い石が際立(きわだ)って見える。

 二十体くらい居るその歪な人形がセレナを掴もうと腕を伸ばし、手を広げてくるのだ。何のホラーだ。怖すぎる。

「キ、キリシェっ。上昇よ、上昇」

 キリシェも怖かったのかセレナの手を引いてすぐさま上昇しくれた。そのため、ちょうど足首を掴もうとしていた手から紙一重で逃れることができた。

(ひぃ~)

 内心涙目である。

 崖を渡り切り地に足が着くとセレナは後ろを振り返る間も惜しんで走り出した。

 手当てをしたばかりの足は軽く、いつの間にか前を走るサラの先導で駆け抜ける。


「はぁ、はぁ・・・・・・」

 走って、走って、息が切れた頃にようやくセレナは足を止めた。

「な、何だったの。アレは」

 怖すぎて思わず逃げてしまった。

「額に赤い石があるところを見ますと()の魔術師によるもので間違いないかと」

 同じように走っていたのに一切息切れをおこしていないサラが答える。キリシェはセレナが走り出した時に画集に戻っている。

「あの人形の核ね」

 あれを壊せば人形は壊れる。

「はい、彼の魔術師が同色の魔宝石を使用していることは確認済みです」

「それにしても趣味が悪いわね。今にもぬぼー、とかのぼー、とか超低音で()きながら追いかけて来そうで怖いわ」

 自分で言っておきながらぶるりと身震いをする。

「セレナ様・・・・・・。啼きはしないかと思いますが」

 サラが否定する。

「いえ、そんなことないわ。そういう顔してるもの」


 ぬぼぉーー


「そうそう、こんな感じで――――」

 セレナとサラが二人同時に振り返る。

「ひぃ~!?むり!!むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり・・・・・・」

 これまでの人生で一番滑舌(かつぜつ)が良いと思われるくらい「むり」を連呼するセレナ。

「噂をすればなんとやらですね」

 歪な人形が腕を前に突き出してぬぼー、と変な声を上げながら追いかけてくる。

 やはり腰から下はなく、地面から直接生えているようで障害になる木や枝を薙ぎ払い、地を(えぐ)りながら前進している。

「何でこんな所まで!?」

「おそらくですが、アレは土のある所ならどこでも現れるのではないでしょうか?」

「そんなっ!だったら逃げ切れないじゃない」

 走るセレナは焦る。


ラズリカ…時空が変われば貴重度も変わります。別作品「奇跡の継承者と時空の旅人」に出てきた植物を再利用。



閲覧ありがとうございました。

セレナさんはそろそろ目的地に着くべきだと思う今日この頃…。

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