七話 夜明けに
お待たせいたしました!
今回、とても短いです。
登場人物は二人居ますが喋っているのは一人です。
時間的にはセレナさんが侯爵の屋敷で爆睡している頃です。
夜明け頃、一人の男が灯りも持たずに歩いていた。
両側は高く切り立った崖で端は見えない。暗いせいだと言われれば、それまでだが高いことに間違いはない。
凹凸の少ない断面をしていて、たとえ道具を用いようと崖を登るのは困難だ。
「うーん、この辺りかな?」
足元を注視しながら何やら男はぶつぶつと呟いている。
コツン。
足先で小石が跳ねた。
「ん?・・・・・・・何だ石か」
一瞬そちらに目をやるも探している物と違うと分かるとすぐに興味をなくす。
「あいや、旦那。こんなトコで会うなんざ奇遇ですねぇ。なんて旦那も確認に来たんですかい?知ってまさぁ」
暗闇に同化するようにそこに人が立っていた。それが知った人物だと分かると男は気軽に声をかけた。
旦那と呼ばれた人物は頭からすっぽりとフードを被り、目元まで隠している。
「旦那のおかげで雇い主からの要望に応えられましたよ。ただ予定より早く目が覚めちまったのが困りましたぁな」
男はへらり、と貼り付けたような笑みを浮かべる。それはセレナが薄気味悪いと言った笑みだった。
「え? えぇ、そういうこともありまさぁな。魔術にも絶対はありませんよ」
男が途中まで御者をしていた辻馬車は中にいた乗客共々崖底へ落ちきてきているはずだ。
「両者の接触場所と時間、方法を旦那が教えてくれなきゃ依頼を反故にするとこでしたよ。なんせ相手はお貴族様だぁね。そういう情報はまず手に入らない」
まあ、雇い主の方もお貴族様だがあちらとは格もおつむも違いすぎる。と男は胸中で独りごちる。
「それにしても、旦那が辻馬車に施してくれた眠りの魔術。あれ、初めて見ましたよ。魔術に詳しくはないが旦那、実は相当の腕の持ち主でしょうよ。いえ、詮索はしませよ?互いの利害が一致しただけの関係で終わりたいですからね」
旦那の事情は厄介そうだと男は長年の勘から感じとった。
「それにしても、欠片一つ見つかりゃしねぇですよ。・・・・・・・しくじったか? はい?辻馬車は崖の上すかい?分かるので?それも魔術ですかい?」
男は端の見えない岩壁を見上げる。
「そうですかい。旦那が言うんなら、そうでしょうよ。いえ、バカにしてんじゃねぇですよ?こういうことに関しては旦那は信用できると思いましてね。・・・・・・・なに、勘でさぁ。なんとなく分かるんですよ。長年これを生業にしてりゃ身に付きますぜ」
男はさっさと捜索を切り上げる。
「さて、旦那はどうすんで?早いとおさらばしねぇと彼のお貴族様はすぐにきますぜ。・・・・・・・ええ、依頼は失敗ですが前金をたんまり頂いてますからね。どこか遠くにとんずらして、しばらくはおとなしくしてまさぁ」
それじゃ旦那おたっしゃで、と男は何の未練も無くその場を去って行った。
旦那と呼ばれた男はしばしそこに佇んでいたが、すぅっと音もなく暗闇に消えた。
この場面だけで「一話分」としたかったのでどうしても短くなってしまいました。
閲覧ありがとうございます。
始め予定していたより早く更新できてほっとしています。
また今週より毎週更新をしていくつもりです。
できない場合は事前に活動報告にて報告いたします。