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呪いの輪廻 王女の運命  作者: 鼎ユウ
セレナの話
25/31

五話  御者

【注】人が死にます。苦手な方お戻りください。


ま、間に合った~(汗)…先週も同じこと書いた気がします…。


ついにあのヒトの登場です。

「 ? 」

 意識は緩やかに浮上する。

 ぼーっとした頭で今自分がどこにいるのかを思い出す。

(ヴァンとアーニャが夫婦漫才をして・・・・・・・そう、大おば様から連絡があったんだわ。それで、二人と別れて、辻馬車に乗ったら・・・・・・・あぁ、そっか私も眠っちゃったのね)

 令嬢らしからぬ大欠伸を一つして腕を突き上げるようにして身体を伸ばす。

「ん?」

 つま先に何かがぶつかった。

(も、もしかしてリーアン落とした!?)

 寝てしまう前に、膝にのせていた弟を落としてしまったのかと焦るセレナ。

 眠気は一気にどこかへ飛び、慌てて自分の膝上を見る。

「すー・・・・・・・」

「よ、よかったわ。落としてなかった」

 変わらずあどけない寝顔で眠るリーアンに心の底から安堵する。と、するとさっきつま先にあたったものは何だったのかと疑問が湧いてくる。

 リーアンがここにいるってことはつはまりは別の何か。向かい合の席までは距離があって足は届かない。

 はて、何だろう?と足元を覗くと大きく馬車が揺れたのはほぼ同時だった。

「きゃっ!なに!?」

 しっかりとリーアンを抱え込む。

 前屈みになっため足元が見えた。

「なっ!?」

 ぐっと眉をひそめる。人がセレナに背を向けた状態で床に横になっていたのだ。

 ガタン、ガタンと立て続けに馬車が揺れた。明らかにおかしい。

 セレナが寝ている間に何かが起きたのしれない。いや、何かあったら御者がセレナに知らせるはずだ。

 ガタッ。

 また揺れた。横に揺れるのでなく縦に、そう例えば舗装されていない道を走っている時のような・・・・・・・。

「んー、姉さま?もう着いたの?」

 眠そうに眼をこすりながらリーアンが目を覚ました。

「いえ、まだよ」

 どこか上の空で答える。

 この揺れの中、足元の人物は身動き一つしない。嫌な予感が頭をよぎる。

「ちょっと、あなた大丈夫?」

 声をかけるがやはり反応はない。意を決し、肩に手を置きゆっくりと仰向けにする。

「っ!?」

 目を見開き、わずかに開いた口から血を流て元御者だった男は事切れていた。


「あー起きちまいましたか」


 突然後ろから声がしてセレナは驚いて振り向く。御者席に面した小窓から男が顔を覗かせていた。

 彼は町で元御者だった男がセレナと話している時、御者席にいた。一言も話さず黙礼をしただけだったから無口な人物だと思っていた。

「もうちょっと寝てていただけるとよかったんですがね」

 ヘラリと笑い頬をかく。

「あー、見ちゃいましたかぃ」

 事切れた元御者に視線を移して、困った困った、とまた笑う。

「姉さま・・・・・・・」

 セレナは無意識にリーアンを抱きしめ、不穏な空気を感じ取ったリーアンは不安げにセレナを呼ぶ。

「あまりにも煩かったんでつい、ね。まあ、最終的には死んでもらう予定っだったんで。なに、少し予定が早まっただけでさ」

 この男は何を言っているんだろう?煩かったから殺した?始めから殺す予定だった?

 ヘラヘラと笑みを作る顔が薄気味悪い。

 セレナが話せないでいることにかまわず、まるで世間話をしているよに男は続ける。

「これも仕事なんでね。雇い主の要望にはできる限り応えるのがおれのモットウでさ」

 雇い主?ってことは親族の差し金・・・・・・・。今まで者たちとは全然違う。

「ぅおっと!あぶねぇ、あぶねぇ」

 また馬車が揺れた。

「そろそろだな。それじゃ、御嬢さん方ここでお別れでさ。もう少し寝ててくれりゃ何にも感じずに済んだはずなんですけどねぇ。では、失礼しやすよ」

 大丈夫、骨は拾ってあげまさぁ~。仕事なんでねぇ~、と不吉なことを言い残して男はセレナの視界から消えた。

「ちょっ、まっ・・・・・・・きゃ!」

 ちょっと待ちなさい、と苦言を呈しようとしたが謀ったようなタイミングで馬車が揺れた。

 ドス、と外で重い物が落ちる音がした。多分、男が馬車から飛び降りたのだ。走っている馬車から飛び降りるなんて無謀な。

 とにかく状況を状況を確認しなくてはと横にある小窓を開ける。

「ここ・・・・・・・どこ?」

 外はすでに暗く、月明りでかろうじて見えるくらいだ。

 どれくらい寝ていたのだろう?セレナの目に映る範囲全て、木、木、木。

 セレナたちが寝ている間に街道を外れ、森へ入っていしまったらしい。どう考えてもあの男がわざと森へ馬を進めたに違いない。

 先ほどから続く揺れは車輪が木の根や石などを踏んだ時のもだろう。

 それにしても、なぜ森へ?セレナもリーアンも寝ていたのだ。盗賊に襲われたように見せかけて殺すことはできたはずだ。夜の森で肉食動物に襲わせるつもりか?

 誤って街道を外れてしまい迷った夜の森で動物に襲われた。そんなシナリオにするつもりなのだろうか?

 途中で馬車から身を投げたのは巻き込まれないためで、自分一人ならば助かる術があるのだろう。

 人を乗せた四角い箱に繋がれた馬は止まる様子に走り続ける。

 木々の間からこちらの様子を窺う視線に馬は混乱の境地に達していた。御す者がいないためでたらめに走る回る。

「姉さま・・・・・・・」

「大丈夫よ、姉様がついているからね」

 とんとん、と背中を軽くたたく。

 とにかくここから脱出することを最優先で考えなくてはいけない。


 けれど、現実はそれを待ってくれるほど甘くはない。


 またも馬車が揺れた。だが、今度は揺れの後に一瞬の浮遊感がしたこと思うと身体が下へと引っ張られた。

(落ちてる!?)

 そうと理解した時にはもう遅かった。

 掴まろうと咄嗟に出した手は馬車の戸口を開けてしまい、セレナとリーアンは外へと投げ出された。

 リーアンを抱く手に力を込める。

(深い・・・・・・・)

 下方には底の見えない暗闇が鎮座している。まるで二人を誘っているかのようで、意識をもっていかれそうになる。闇が四肢を絡めとり、その懐に引きずり込もうとしているかのような、そんな錯覚さえする。

 このまま落ちれば先に待っているのは「死」だ。今からでは魔術は間に合わない。ならば、残るは一つしかないだろう。

 セレナには奥の手がある。まだ使いたくなかったのだがそんなことは言っていられない。

(これで確実に特定されたわ。私だと)

 だが、後悔はしない。

「キリシェ!上に」

 セレナが叫んだ瞬間に突風が巻き起こりセレナたちの身体を押し上げる。

 瞬く間に崖の上へ到着した。

「ふぅ、ありがとう。キリシェ」

 腕の中を見るとリーアンは気を失っていた。

 セレナのちょうど目の高さには手のひらほどしかない小さな少年が浮いていた。『シルフ』であるキリシェは風を操る。

「姫・・・・・・・様?」

 恐る恐る、といったふうにキリシェが口を開く。

「大丈夫、覚えているわ」

 セレナの言葉にキリシェは嬉しいような悲しいようなどちらともつかない表情をした。

「ありがとう。サラと代わってもらえるかしら?」

 こくりと頷き、キリシェに代わり『エルフ』であるサラが姿を現した。

「セレナよ。ごめんなさい、唐突に呼び出してしまって」

「いえ、お構いなく。セレナ様」

 さり気なく自己紹介をする。 

 完璧な角度でサラが礼をする。


「ところで、ここがどこなのか知りたいのだけどわかるかしら?」

「・・・・・・ここから南西の方角に町があるようです」

 サラが森の木々に訊ね、それをセレナに伝える。

 南西に町。ってことは国境と平行にある森か?思ったよりも離れていないことに安堵する。

「ありがとう・・・・・・」

「セレナ様!」

 静かに、と言うように人差し指を口元で立てる。辺りを警戒する様子にセレナも口を閉じる。

「馬が近づいてきます。数は・・・・・・六。騎士のようですが?」

「騎士?大おば様の遣いかしら?様子を見るわ」

「かしこまりました。失礼致します」

 パチン、とサラが指を鳴らすとセレナとリーアンを隠すように森の草がのびて二人を隠した。

「有事の際には速やかにお呼びください」

 そう言ってサラは姿を消した。



「――――!――!」

 辺りが騒々しくなってきた。ここにきてようやくセレナにも声が聴こえた。

 その声のせいかは分からないがーアンが目を覚ました。不思議そうにあたりを見回していたが、知らない声が聞こえたせいかその目に緊張がはしる。

 崖から落ちなのに何で生きているのか?と疑問に思ったのだと思う。

 馬の蹄のが地面を蹴る音やそれに混じって人の声がする。

 大声でん何かを叫んでいるようだ。

 セレナたちを探しに来た親族の手の者だろうか?いや、彼らはセレナたちは崖下に落ちたと思っているはずだからここには来ないだろう。と、すれば誰がいる?

「探せーー!必ず見つかるはずだ、急げ」

 野太い男性の声が指示を出している。

 足音は徐々に近づいてきて、魔術で作られた灯りが周囲を照らす。その様子をサラお手製の茂みから息を殺して窺う。

 暗闇から武装した男たちがサラの警告通り六人現れた。それぞれに手のひら大の灯りを頭上に浮かべている。

 灯りに照らされて鈍色に輝く鎧の右肩に見覚えのある模様を見つけた。

 小ぶりな、ラッパのような形をした花のシルエットだ。

 それはリーアンにも分かったらしく二人は無言で目を合わせた。

 やや離れた所では二人とともに巻き上げられた辻馬車の残骸と泡を吹き白目をむいた馬を武装した男たちが調べている。

 ほどなくして事切れた、元御者だった男も発見されるだろう・・・・・・。

 馬車を調べていた男の内数人が周辺の捜索を始めた。あれを見て何もなかったと思える猛者が居たらセレナはぜひ会ってみたい。

 そうして様子を見ていると男が一人灯りを引き連れてセレナたちが隠れる茂みまで近づいてきた。眩しさに目を瞑る。

「リーアン様とセレナ様・・・・・・ですか?」

 砂埃と突風で薄汚れてしまった二人に問いかけた。

「あなた方はクンシラン侯爵家の騎士、で間違いないわね?」

「はっ!!予定よりご到着が遅いお二方を心配した主の命によりお迎えに上がりました。このような事態になり申し開きもございません」

 問われた騎士は背筋を伸ばしはきはきと答えると深々と頭を下げた。

 光を遮るように手を掲げるセレナに気付いた騎士は光球に注ぐ魔力を減らす。さすがはクンシラン侯爵家の騎士だと感心する。

 リーアンはセレナの影に隠れ、顔だけ出した状態だ。かわいい。

「お二人ともお疲れでしょう。まずは屋敷にお連れ致します」

 他の騎士もいつの間にやら集まってきており、リーアンと一人ずつ、相乗りする形で騎士の後ろの乗せてもらうことになった・・・・・・のだが、ここで困ったことがおこった。今の今まで文句も泣き言も我儘さえも言わなかったリーアンがセレナに抱きついたまま離れないのだ。

 いくら言い聞かせても「嫌」の一点張りで困ってしまった。

 仕方なく馬を一頭借りてセレナがリーアンと相乗りすることになった。

 だが、それだと馬が足りなくなってしまうので、辻馬車を引いていた馬の一頭に騎士の一人が地面に略式の魔法字を描き魔術を使った。

 小瓶の液体は多分気付け薬の効果で、乾燥させた・・・・・・花?だろうか。あれはきっと疲労回復とか身体に受けた傷などを治す効果があったはずだ。

 セレナの予想通り馬はビクン、と痙攣をしてから意識を取り戻した。ここからでは見えないが立ち上がったところを見るとケガも治ったらしい。

 乗馬するのに鞍無はセレナには辛かろうと、そちらの馬を借りてセレナとリーアンの乗る馬を囲みながら森を抜けた。

 馬車の残骸は後日回収に来るそうだ。元御者についても魔術で結界を張り一旦は保留とした。


「公爵」を「侯爵」に訂正しました。そこまで爵位は高くなかったです。

ちょっとセレナさんの詰めが甘い気もしますが、そこは疲労からくる思考能力の低下ということで、一つ。


閲覧ありがとうございました。

今週もギリギリ…。首の皮一枚でつながっている気分です。

間に合わないようでしたら事前に報告致します。

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