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呪いの輪廻 王女の運命  作者: 鼎ユウ
アミュージィエの話
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一話  不思議な本

少し進みます。

寒い冬が終わり風も暖かくなりだしてきた今日この頃、ミュンは幼馴染みのライラと一緒に教会(ダフ)の地下にある図書館に居た。

 ミュンはライラの付き添いで来たのだが、かなり時間を持て余していた。

「暇。何でこんな所に来てんだろ……」

暖かくなったとはいえ、まだ冷える夜の分の薪を拾い終え、ライラの家を訪ねたところ母親のルフィナが出てきてライラはほんの今しがた図書館に行ったと言われ、行く途中で追いついたライラについてここまで来たのだ。

 館内に他に人はなく、二人だけで怖いくらいに静かだ。本棚の間を目的もなく歩いていたミュンの視界に何か光るモノが映った。

「……何だろ?」

不思議に思い近づいてみると、光るモノはどこにもない。あるのは、天井まである本棚に本が上から下までぎっしりと、それがずっと奥まで並んでいるだけだ。

「見間違い?」

でも、確かに見たはず。そう思い、付近を探してみるもそんなモノはなく代わりに、どこか雰囲気の違う本が一冊あった。

気になったミュンは、手にとってみたが他の本とかわらない。全体は濃い赤色で、周りは銀色で縁取られている。高そうだ。

「あれ?」

違和感がある。よくよく見てみると、この本のどこにも本の著者名が書かれていない。タイトルすらも書かれていない。

「変だよ。こんな本が教会にありなんて……」

教会にある本は既存の本は別として一度全部、牧師のアルダが目を通している。昔からある本かも知れないが、一応アルダに聞いてみた方がいいだろう。

「何が書いてあるんだろう」

好奇心に負けて、本を開き、ページをめくる。まためくる。そしてまた。

「……読めない。こんな字初めて見た」

どこの国の文字だろう?アルダにはこれが読めたのだろうか?確かにアルダは物知りで、博識だ。年はミュン達よりも十三違う。そこそこ若い。

「ミューン。もう帰ろー、時間だよ」

ライラが呼んでいる。広い地下に声が響く。例の本を持ってライラの所まで行く。出入り口の近くにある机で一応、借りる冊数と、タイトル、著者名を記入する。分からないところは空欄にしておく。分からないのだから、仕方がない。

「ミュン借りるの?珍し~」

「なっ!たまにはわたしだって借りるよ」

つい意地を張るミュン。

「そうだね。たまにはね」

たまには、だけ強調してライラが答える。

「そう言うライラは……またそんなに借りるの」

言い返せないミュンは話の矛先をライラに向ける。

「五冊だけだよ。この前借りたの返しちゃったし」

ライラは図書館に来るとほぼ必ずと言っていいほど毎回本を借りていく。

「さっ、牧師様に挨拶してから帰ろっ」

そう言って、ライラが教会に上がる階段を登り、ミュンが続く。

 長い階段を登りきり、二人が教会に着き礼拝堂に通じる扉を開けると、アルダはお祈りの最中だった。

「どうする?牧師様お祈りの最中だよ」

「邪魔しちゃ悪いからこのまま帰ろう」

ライラが小さな声でさよならを言い、二人で教会を後にする。

 この時間、地下から上がってきたらアルダがお祈りの最中だった。ということはよくあることで、その時はいつもライラが「どうする?」と訊きミュンが「邪魔しちゃ悪いから帰ろう」と答えて終わるというのがいつものパターンだ。

(本、渡せなかったけどまた明日でいいか)

礼拝堂の隅に勝手においておくわけにもいかず、とりあえず今日は持った帰ることにした。

 教会を出るともう外は暗く、冷たい風が吹いている。

「寒い!早く帰ろう。早く暖かいところに行きたい」

「うん。暖炉が恋しい」

 町外れにある二人の家は隣同士で、ダフからもそう遠くなく時間もあまりかからない。が、寒いものは寒い。

 家の前でライラに別れを言い、家に入る。

 暖炉には火がついていて室内は暖かく、その暖炉の前で寝そべっていた犬のハースが勢いよく飛びつき、出迎えてくれた。

「ハースやめっ!ちょっ!待って!」

言うが早いか、倒れるが早いか。ミュンはそのまま仰向けに押し倒された。ハースは牧羊犬で体が大きい。小さな子どもなら軽々と乗せて歩けるくらいだ。そんな大きな犬に押し倒されたのだからたまらない。

「うっ、苦しい」

そんな死にそうな娘を見ながら、夕食の支度をしていた母メイフェは

「仲がいいのね」

と笑っている。その言葉を理解したのか、ハースは嬉しげに勢いよく尻尾を振りだした。

「まぁ、分かるのね?お利口さんだわ」

潰された娘そっちのけで喜んでいる。よくあることなのだが、さすがにこのまま潰されているわけにもいかないので

「すみませ~ん。そろそろ助けてもらえません?」

救助を求める。

「あら~?もう?ハースどいてあげなさい」

残念がらないでほしい。呆れてものも言えないとはこのことか。ハースは本当に理解しているようで、ちゃんとどく。いつもの事ながらため息が出る。

「あら、ミュンそれ本?珍しいのね、あなたが本借りてくるなんて」

目ざとくミュンの手にあるものを見つけて言う。ライラと言いこの母と言い何で言うことが同じ……。

「あっ、うん。たまにはね」

確かに珍しいのだ。いつもは、ライラしか借りないのだから。

(まっ、今回は特別ね。読むわけでもないし、っていうか読めないし)

心の中で、ミュンはそう呟く。 

「それはそうと、そろそろご飯にしない?」

メイフェは思い出したかのようにそういった。


                       ‡‡‡‡‡


 夜、いつもより早く自室に入り、ベッドに座りながら借りてきた例の本を開く。

 ぱっと見た感じ、どちらが表紙か分からないため適当に開いた。中を見れば、上下くらいは分かるだろう。……が、中のページには何も書いていない。ページをめくる。次、次、次……。めくってもめくっても何も書いていない。

「何これ!どういうこと?教会で見たときはちゃんとどっかの国の字が書いてあったのに」

どうして?なぜ?一体何がおきたのか。あの時見たものは見間違いだったのか。いや、確かに見た……はず。けれど絶対に見た、と言い切る自信はない。ミュンの胸に不安が走る。やはり持ってきてはいけないものだったのではないか、あの時無理にでもアルダに渡しておくべきだったのか。

(いつもと違うことをするからこうなるんだ)

盛大に一つ大きなため息をつき、気持ちを切り替える。どんな仕掛けがあるにせよ、とにかく今考えても仕方がない。もう持ってきてしまったんだから。後の祭りだ。こういう前向きなところは、数少ない自分の長所だなと、こんな時でも考えてしまう自分が少し悲しい。

「この問題は明日に持ち越し!とりあえず今日はもう寝よう。かなり早いけど、もう寝よう」

本を窓辺に置き、部屋の明かりを消す。一人納得してベッドにもぐる。窓からかすかに月明かりが差し込み、雲の合間に月が見える。

「そうか、今日は下弦の月……」

絶対にいろいろ考えて眠れないと思っていたミュンだが、そのままぼーっと月を見ているうちに瞼が重くなり、ゆっくりと眠りの世界に入っていった。


閲覧ありがとうございました。

最初ですのですぐに次を。

期待せずに次回をお待ちを…。

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