『キャプテン琉のカレッタ号案内』 その1
棺の中より目覚めたロッサ。彼女は自分の名前以外は何も覚えていなかった。彼女を発掘した琉は、彼女の記憶を戻すべく旅を決意し、カレッタ号の案内をする事に……。
何も覚えていない上に“今”という時代を知らないロッサにとって、この日は驚きと発見の連続だった。
「ここを君の部屋にしよう。まぁ、中に入ってくれ」
琉に案内され、ロッサは一つの部屋に入ってゆく。そこには様々なモノが置かれていた。
「これは押し入れ。ちょっと開けるぞ」
彼は部屋の中にある大きな戸を開けた。中にはふかふかした布が入っている。
「こいつは“ふとん”だ。俺個人の考えでは、人類の生み出した至高の宝……と言ったところか。寝る時はこいつを敷いて寝ると良い。棺桶よりずっと寝心地が良いはずだぜ」
琉が一つずつ名前を言っては手本を見せる。彼がいうには、この部屋はずいぶんと長い間使っていなかったらしい。
「この奥が洗面所。顔を洗ったり歯ぁ磨くのに使ってくれ。……って、鏡がそんなに珍しいのか?」
ロッサはしきりに鏡を覗きこんでいる。
「すごーい! 琉とわたしのそっくりな人がこっちみてるー!」
「ははは……。ロッサ、この部屋には俺と君しかいないぜ。そこに映ってるのは俺と君自身だ。こうして、だな」
琉は、鏡の前で自分の髪を触って見せた。すると、鏡に入っている琉も自分の髪を触った。
「要するに自分で自分を見るためのモノさ。……そうか、君の時代には鏡ってモノがなかったのか」
琉の案内は続く。
「更に奥にあるのはシャワー室だ。こっちは水浴びしたい時に使ってくれよ……って、こらこら! そこひねっちゃダメ……」
じゃーっ!! 勢い良く飛び出てきた水がロッサと琉に降りかかった。琉はすぐさま蛇口をひねり、水を止めるとこう言った。
「…ロッサ、水浴びは服を脱いでから、それも男の見てない時にやるモノだぜ。ちょっと待ってろ、バスタオルと着替えを持って来る」
琉は部屋から出ると、大きな布を何枚かと何か服を持ってきた。ロッサは彼から一枚もらうと、それで髪と顔を拭いた。そして、彼の持ってきた上着を羽織った。
「使ったタオルはここに掛けといてくれ。あと、こいつはタンスだ。とりあえず乾いたバスタオルはここに入れてくれ。ついでだしこの使ってない奴を入れておくぞ。……あとまぁ、新しく服を買った時もここに入れてくれ」
これで一通り、琉によるロッサの部屋の説明が終わった。
「何かあったら、すぐ隣のこっちの部屋に来てくれ。ただし、入る前にはこれを押すように、な」
琉はドアに付いたスイッチを押して見せた。
ピンポーン
スイッチを押すと音が鳴った。琉は更に続けた。
「これでこの四角いのに顔が映って、開けて良いと言ったら入ってくるんだ。逆に部屋の中でこれが鳴ったらちゃんと返事してくれよ。そうだ、ちょっと待ってなさい」
そう言うと琉は自分の部屋に入って行った。
「このスイッチを、押すと……」
ロッサは扉のスイッチに指を伸ばした。さっき琉がやったのと、同じように。
ピンポーン
すると扉にある画面に琉の顔が映り、こう言った。
「一つ言い忘れた。用事のない時には押さないでくれよな」
直後、琉が扉を開けて出てきた。
「とりあえず、これを羽織っておきなさい。あとこいつを腰に巻いとくと良い。他に女性でも使えそうなモノがないんだよな……」
琉は手に持ってきた白いケープをロッサの肩にかけ、更にこれまた白いサッシュを手渡した。
「こんな風に、な」
琉は自分の腰に巻いたサッシュを見せた。ロッサは見よう見まねでサッシュを自分の腰に巻き、結んだ。
「こう?」
「そう。そんな感じ。……意外と出来るモンだねぇ……」
琉は感心した。恐らく彼女はサッシュなんぞ見たことないか、見たことがあるにしても久しぶりだろう。
「おっと、こんな時間か。飯にしよう、こっちだ」
「え? お腹いっぱいだけど……」
「? いつの間に、つか何を食べたんだ?」
やっと第二章に突入です。ここから先は未発表の内容となります。
今回は主に世界観の説明が主な内容になります。