『アルカリアへの旅立ち』 その1
~前回までのあらすじ~
海底遺跡の棺から目を覚ました美女、ロッサ。そんな彼女の記憶を戻すために奔走する男、琉。ある時オキソ島で行われたオークションで取引されたルビーがカルト宗教“メンシェ教”の信者に強奪される。ルビーの正体はロッサの体の一部である“第三の目”であった。取り返すために教会に潜入した琉達。見事奪い返すことに成功したが、脱出時に神父からの襲撃に遭う。その時神父は“神の力”と称して巨大な怪物に変化を遂げた。琉達は激しい激しい戦いの末、アードラーを犠牲にしつつも何とか撃退したのであった。
身の毛も弥立つ様なメンシェ教の尖兵を退けて二週間が過ぎた。カレッタ号の食堂に、琉とロッサ、そしてジャックはいた。
「彩田君、こっちは新しい職の目途が立ったよ」
三人はこれからのことを話していた。
「施設に来年……といっても来月か、新しくアルヴァンの子が入ることになったんだ。僕達アルヴァンにとっては二人目の装者さ。そこで、やっぱりアルヴァンにはアルヴァンの教官が教えた方が良いんじゃないか、となってね。そっちはどうするの?」
ジャックは施設の教官となることが決定した。
「とりあえず、この間のケガが治りきったらエリアδを漁ろうと思っている。“目”ってたしかそこで見つけたんだろう? だからアードラーが直ったらエリアδの近く……アルカリアに向かうつもりだ」
「するとオルガネシアを出るつもりか……しばらく会えなくなるね」
ジャックと琉は感慨に耽っていた。
「オルガネシア? アルカリア?」
ロッサは琉に聞いた。棺から目覚めてから既に一か月以上が経つ彼女であったが、それでもまだ分からないことがたくさんある。というか、琉の方が教え切れないだろう。
「あぁ、オルガネシアっていうのはね。今まで旅してきたハイドロ、オキソ、カルボの三つをまとめた言い方さ。ま、早い話が“国”って奴だ。アルカリアもそんな感じだね」
オルガネシア。この国は島ごとの自治権が強く、同じ国内でも文化や風習が大きく異なるという特徴を持っている。国の代表者はいずれかの島の酋長が担当する決まりとなっており、一年ごとに交代するルールとなっているのだ。島一つ一つの面積は広いが住める場所は少なく、比較的自然が残っている。そのため訪れた者は非常に素朴な印象を受けることだろう。
「アルカリアはここと違って島同士がかなり近いんだが、そうだな。まずは一応、基地のあるソディア島を目指すことにするよ。……そうだな、これを見てくれ」
琉は携帯電話を取り出すと画面に世界地図を映し、ロッサに見せながらこう言った。
「今いるのはこのオキソだ。その少し離れた所にハイドロと、カルボがある」
琉が液晶を指でつつくと、島の名前が表示される。指二本で触ることで地図を拡大し、琉はロッサに見せて説明した。
「ここからずっと西にずらすと……ここに、大きな島と三つほどの小さな島が固まってる所があるでしょ? そこがアルカリアだ。ここからなら三日で着く距離だな。……これこれ、変なところ触っちゃダメだろ」
ロッサは島のことより琉の携帯電話そのモノに興味を持ったらしい。すると突如携帯電話から音が鳴って震えだし、ロッサは指を引いた。
「きゃっ! 怒った!?」
「違う違う、着信が入ったんだ! ちょっと待ってろ……」
笑いながら携帯電話の画面を確認する琉。
「って、カズじゃねぇか!? ……カズ? どうしたんだ」
「よう! 今さ、オキソに遊びに来たんだけどさー、高速船降りたら琉の船があるモンだから連絡したワケなんだよ~!」
オルガネシア領の島と島の間には、高速船と呼ばれる小型の客船が定時的に運行している。この船は遺跡探索船と違い、装備を省いて移動に特化しているのが特徴である。そのため最高時速は50ノットと遺跡探索船をはるかに上回り、ハイドロ~カルボなら2時間で、オキソまでなら4時間30分で着くという性能を持っているのだ。
因みに遺跡探索船は他の装備にエネルギーを使い回すため、そこまで速さを出さずに走ることが多い。そのため、カレッタ号がハイドロ~カルボに移動する際には大体4時間くらいかけることが多いのだ。最高速度を出すのはせいぜいハルムと出くわしたときくらいである。
「オキソまで何しに来たんだ? アンタにしてはえらくアクティブじゃねぇか」
「そんなもん、フィギュア手に入れるならこれくらい……」
相変わらずの動機である。漏れた声を聞いたジャックはプッ、と吹き出した。
「まぁ、良いや。久しぶりに話したいこともあるしな、ちょっと待ってろ。……よし、外に出るか!」
琉は携帯電話をしまうと甲板に出た。
「お~い! こっちだ~!!」
港の波止場から、手を振る姿が見える。それを見つけると、琉は手を振り返して階段を出し、そのまま駆け降りた。
「久しぶりだな、カズ!」
「こっちこそ! そういや、ロッサ様は?」
そう言ってる所に、ロッサとジャックが降りて来た。
「久しぶり、カズ」
ロッサにそう言われ、有頂天になる和雅。
「ロッサ様~! 会いたかったよぉ~ん!! ……って、誰アンタ!?」
その隣で若干引いているジャックに気付いた和雅は驚きの声を上げた。何せ165cm
の和雅に対し、ジャックの身長は2mもあるのだから。
「カズ、彼はジャックだ。一緒に訓練した仲間だぜ。ジャック、こいつは和雅。俺の同郷で、頼れる情報屋さ」
苦笑しながら、琉は紹介した。
「……まぁ、彼の言った通りだ。よろしく」
「よ、よろしく……ははは……。……負けた」
ぽかんとしつつ、ジャックは首を傾げた。一方の和雅は顔や頭のてっぺんを触りながらしゃがみこんでいる。その様子を、琉は笑って見てるのであった。
今回は第一部最終章にして総集編でもあります。気楽に読んでって下さいw