『琉は見た! メンシェ恐怖の秘密』 その3
“神の力”によって、巨大な怪物と化した神父。アードラーを破壊され、ロッサもケガを負い、苦戦を強いられる琉。と、そこに、一筋の光が相手の持つ槍を粉砕した!!
槍を失った神父が後ろを向くと、そこにはカレッタ号の甲板で巨大な弓を構える姿があった。長い金の髪を棚引かせ、細く鋭い目が敵を捉えている。
「もう一発いかがですか、神父さん!」
『貴様! アルヴァンの分際で我々に弓を引くか!!』
光の正体は、船で待機していたジャックの放った矢であった。アルヴァンは特殊な矢を放つ弓を得意としており、独自の幻視術と組み合わせることで非常に高い命中率を誇る。今放った光の矢は強力な破壊力を秘めており、刺さった標的を粉砕する力を持っている。ジャックは更にもう一本矢を取り出すと相手の腕目がけて放ち、盾状の殻を破壊した。
「ジャック、助かるぜ! ……って危ない!?」
腕の装甲まで破壊された神父は船に向かって歩き出した。すぐさま船内に駆け込むジャック。相手は角から炎を吹き出した。しかし間一髪、船はシールドを展開したために炎攻撃は防がれた。
「琉……第三の目で見たら分かったんだけど、相手はさっきの石板の力で姿を保っている。だから、胸にあるあの石板を壊せば、きっと……」
ロッサは琉の腕から体を起こすと、彼に言った。
「お、動けるようになったか? 体も元に戻ったか、早くなったな! ……なるほど、さっきの石板ね……。しかし、どうすればあそこまで……」
「大丈夫、わたしにまかせて……」
ロッサは再び背中から翼を出し、琉を抱えて地面を蹴る。たちまち空に飛び上がる二人。相手は船に炎を吹き付けている。このままではシールドが破られるのは時間の問題だ。
「くそ、このままじゃやられるな。ようし……」
「琉、ここはまかせて」
そう言ってロッサは相手の背後から近づき、体をひねるとその脚が長く伸び、相手の側頭部に強烈な回し蹴りを放った。蹴りが当たった瞬間、頭の装甲が砕け散り、相手は大きな音を立てて倒れこむ。ロッサが体勢を戻すと同時に脚も元通りの長さに戻り、スカートの中に収まっていった。
「……よし、でかしたロッサ! あとは奴の石板を……」
琉はパルトネールにトリガーパーツを取り付けてシューターに変え、更にパーツに着いたスイッチをいつもの“P”から“B”に切り替え、両手で構えた。
「ロッサ、今から撃つ奴は反動が大きい。気をつけてくれ」
神父は立ち上がると、こちらを見据えて近づいて来た。さっきの蹴りで頭の装甲どころか角までも折られており、相手は武器のほとんどを失っている。装甲の残っている腕を振り上げ、足音を響かせ走る神父。その近づいてくる神父を見据え、その場でじっと構える琉。船から離れるように飛び、相手を誘導するロッサ。琉は船と相手、そして自分との距離を目分量で測り、銃を構えるとそっとその引き金に指を掛けた。たちまちその銃口が青白く光り始める。それと同時に、ロッサの動きも止まった。
「3……、2……、1……」
近づいてくる敵。銃を構える琉。チャンスは一瞬。
「よし! パルトブラスターッ!!」
琉は叫びとともに引き金を引いた。たちまち銃口から青白い光弾が放たれ、その反動で二人は若干後ろにのけぞった。放たれた光弾は石板を砕き、そればかりか相手の殻を粉砕して突き抜けた。
『ば、馬鹿なッ……! この私が、このような者にやられるだと……!?』
石板を砕かれた相手は全身にヒビが入り、その場で音を立てながら砂状に崩れて消滅した。消滅した後には、気を失った神父が一人浮かんでいる。
「ふっ、相変わらず物騒な威力だぜ……。仕方ない、上げといてやるか」
琉はロッサに言うと、神父を拾って岸に上げた。
「俺に“前科”は不要だぜ、と。しかし……」
神父の次はアードラーの残骸を拾いつつ、琉は言った。
「また修理か、このままじゃ赤字だな……。かと言って、サポートメカなしだと仕事キツいんだよなぁ」
ロッサにも手伝ってもらい、琉はアードラーの残骸を船に運び込んだ。
「彩田君! 大丈夫だったかい!?」
船に戻った琉に、ジャックが話しかけた。
「助かったぜ。アンタが来てなけりゃ俺はアードラーどころかカレッタともお別れすることになる所だったからね! いや、そもそもこの世とお別れするところだったか」
琉はカラッとした調子でそう言った。
「さっきのジャック、カッコ良かったよ!」
ロッサにそう言われ、ジャックは頬を赤らめた。
「さて、オキソまで帰るか! また色々と準備しないといけないしな。でもその前に……」
琉がそう言うと同時に、彼の腹から見事な音が鳴った。
「飯だ、飯! 朝飯にするぞー!!」
「おーっ!!」
こうして平和な時間が戻った琉達一行。しかし腹が減っては作業は出来ない。自動操縦に切り替えると、琉は先頭を切って食堂に向かったのであった。
危機を脱した二人。それにしてもメンシェ教ってメンシェ“狂”でもありメンシェ“恐”とも言えますね。自分で作っといて何だと言われそうですがw




