『琉は見た! メンシェ恐怖の秘密』 その1
~前回までのあらすじ~
海底遺跡で発見された美女、ロッサ。彼女を発見した琉はその謎を探るべく海底遺跡を巡る旅に出るが、途中で謎の宗教組織“メンシェ教”に狙われる。ある時メンシェ教は、ジャックがオークションに出品したルビーを、落とした者から奪い取った。そのルビーの正体はロッサの体の一部“第三の目”だったのだ。かくして琉とロッサは相手の帰った場所、カルボ島の教会に潜入し、第三の目を手に入れることに成功したのであるが……!?
ロッサの動きが海上で急に止まった。彼女の顔には驚愕の表情が浮かんでいる。琉もジャックの言葉で前を向いたそこには――
「ふふふ……メンシェの神から逃れられるなどとお思いですか?」
なんと、脱出時に襲撃をかけて来た神父が空中に浮いてるではないか! あまりに常識の範疇を超えたこの光景に、琉は何度も目をこすって見直した。しかし相手は依然宙に浮いたままである。
「お、おいおい! 彼女と一緒に空飛びたいのは分かるけど、だからといってストーカーは考えモノですぜ?」
ロッサに抱えられたまま軽口を叩く琉。一方の相手は表情を変えぬまま、懐からメンシェマークと謎の玉石の付いた石の板を取り出して言った。
「今のはほんの挨拶に過ぎません。私がメンシェの神によって与えられた素晴らしい力、君たちにも見せてあげることにいたしましょうか……」
「待て、どうせ殺すんなら聞かせてもらっても良いだろう? 一体アンタ達は、いやメンシェ教は何故彼女を、ヴァリアブールを“悪魔”だと言って迫害するんだ? 聖典に書かれてること、彼女らが過去の文明を滅ぼしたというのは事実なのか? そして何より、君達は何を根拠に他の種族を差別するんだ!?」
琉はいつになく激しい口調で神父に問い詰めた。
「ふっ、貴方は実に愚かですねぇ!」
神父の口からは、とても聖職者とは思えぬ一言が飛び出してきた。
「何故ヒトが全世界の海を制覇出来たか、それは我々が神に愛されし優れた種族だからです! 劣った種族は優れた種族に隷属せねばなりません。そして我々の地位を脅かし、神に楯突く存在であるヴァリアブールには消えてもらわねばならんのです。彩田琉之助、貴方のやっていることはヒトにとって邪魔にしかならぬのですよ!」
空中に浮き、両手で大胆なボディランゲージをしながら、神父は語り始めた。
「どうして、どうしてわたしがヒトに……琉達の邪魔にならなくちゃいけないの!?」
ロッサは声を張り上げ、神父に抗議した。
「さっきから聞いてるとおかしいとこだらけじゃねぇか! ヴァリアブールが何故脅威となり得るのか、そのワケを聞いてるんだよこっちは!!」
ロッサに引き続き、琉も声を上げた。それも今までの鬱憤を晴らすかのように、荒い言葉使いで。
「神をも恐れぬ異端者め! 良いか、ヴァリアブールは海も空も、全てを支配し得る存在です! そんな我々の地位を脅かす存在には消えていただくほかないのですよ! 奴らに隷属することになる前に!!」
「そんなことしないもん! わたしは世界を支配したいワケじゃない、ただ生きていたいだけなんだ!!」
ロッサは神父に向かって叫んだ。今までになく、彼女の言葉には“心”がこもっていた。そして対する神父の言葉には、人間性ともいうべきモノがあまりのも見られなかった。
「そんなことを言って、本当はそれを説く自分たちが崇拝されたいのだろう? 俺は以前に聖典を読んでそんな風に読みとれたね。確かにヒトは何処の島にもいる多数派の種族だ。そして異種族同士が同じ土地に住めば必ずいさかいが起こる。そこに漬け込んで一体何を企んでいる!?」
琉は自分の考えを神父にぶつけた。以前に聖典を読んで抱いた感想、それを彼はこの場で口にしたのだ。
「崇拝されるだと!? 我々は“正義”を唱えているのです! 強者が弱者を支配するのはこの世の摂理、我々はヒトが“弱者”とならぬ道を模索しているだけなのですよ! そしてヒトを“強者”にした我々が、崇拝されて何が悪い!!」
神父の顔は狂気に染まりきっていた。話を聞いて琉は思った。彼らが崇拝しているのはメンシェ“教”ではない。メンシェ“狂”なのだと。
「異端者彩田琉之助! やはり貴方に話は通じないようですね、残念です! この場で私が裁きを下してやりましょう……!!」
神父は石板を高く掲げると、そこに付いている玉から紫色の光が放たれた。たちまち空は暗雲に包まれ、神父目がけて無数の稲妻が降り注ぐ。全身から眩い光が放たれ、琉とロッサは思わず目を覆った。
「ヒィッ!? 何なんだよコイツは!!」
「うッ!! 眩しい……って、これは!?」
前回から直接続きます。今回はタイトルもあらすじもネタ抜きで参ります。