『ミッション・インポータント』 その4
第三の目を奪還し、見事ロッサの体内に取り込むことに成功した琉。あとは教会を脱出するのみとなったが……!?
扉の周りはすでに武器を持った教徒達に包囲されていた。その中に一人、一際豪奢なローブを着た男がいる。この教会の神父だろうか。
「残念、外れさ。帰らせてもらうからそこをどいちゃあくれませんかね?」
琉はパルトネールを構えたまま神父に言った。
「そうはなりません。貴方達には裁きが必要です。悔い改めぬなら仕方ないでしょう……」
そう言って、神父は琉達を指差した。教徒は一斉にこちらに銃口を向け、引き金に指をかけた。
「そうはいくか! パルトブーメランッ!!」
パルトネールの中心を引き延ばし、技名を叫ぶ。琉は武器の端を持つと、そのまま回転させて投げつけた。パルトネールは凄まじい勢いで飛び回り、撃たれようとした銃を次々に地面に叩き落とした。パルトネールを再び手に取った琉。相手も相手で槍を持って襲いかかる。
「パルトネール・サーベル!」
刃渡り1mほどの剣に変えたパルトネールを握り、琉は槍を持った教徒に応戦した。槍を奪い取り、刃を切り落とすと柄の先端で相手を突いた。
「……これが……わたしの使命……?」
ロッサがうわ言を繰り返す。そんなロッサに琉が声をかけた。
「ロッサ、大丈夫か? 回復したか? 俺のことは良いから翼を出して逃げろ!」
しかし流石の琉でもすぐに劣勢に追いやられていく。だが、彼の背後で、ロッサの体にはある変化が起きようとしていた。
「わたしは……生きて……“母”に……!!」
ロッサがそう言った瞬間、奇跡は起こった。ロッサの全身から赤く眩い光が迸り、教徒達は思わず目を覆って慄いた。
「ロッ……サ……? 一体何が……おわっ!?」
光がおさまると同時に、琉の体が宙に浮いた。見ると、なんと琉の体を抱えて、ロッサが空に浮かんでいるではないか!
「な、いつの間にこんな馬鹿力を!? ……いや待て、使える! よしロッサ、このまま帰るぞ!!」
こくり、とロッサはうなずくと、そのまま海岸を目指して飛ぼうとした。
「逃がしてはなりません! あの悪魔を撃ち落とすのです!!」
神父が言うと、多くの教徒達が銃を持って現れた。するとロッサはそれを空から見下ろし、
「貴方達のようなヒトに、このわたしを落とすことは出来ない!」
そう言い放った瞬間、彼女の額が割れ、あの第三の目が現れた。途端に赤く強烈な光が放たれ、浴びた教徒達は次々に倒れてゆく。
「すげぇ……ってロッサ!? 一体今何をやったんだ!!」
その様子を見ていた琉は、抱えられたままロッサに言った。
「目を使って眠らせただけ。大丈夫、死んではいないはず」
「……随分、喋れるようになったんだな。よぉし、このまま一気に船まで行くぞ!!」
ロッサは琉を抱えたまま空をゆく。飛んでいる最中、琉はロッサに聞いた。
「そう言えばさっきまで何かごそごそ言ってたけど、何があったんだい? ひょっとして記憶が戻ったのかな?」
「うん。ただ……」
ロッサは飛びながら何かを考えていた。
「第三の目が戻って以来、頭の中で声がするの。『何があっても生きよ。我々を支える母となれ』って……」
「母となれ?」
琉は抱えられたまま腕を組み、考え始めた。
「それが君の“使命”なのか?」
「うん。でも、どうやって……?」
第三の目に秘められたロッサの謎。彼女の使命は“母となること”であった。しかし、そのためにはどうすれば良いのか。彼女は自ら第三の目に問うていたのだ。
しかし第三の目は答えない。ロッサの取り戻した記憶は、結果としてさらなる謎を呼び込むこととなった。
「第三の目ね……。ってあれ? 普段は閉じてるモノなの?」
琉はロッサに聞いた。
「第三の目は、一端開けば色んなモノが見えるようになるし、さっきみたいに怖い人を眠らせることもできる。でも、開いていると体力を消耗する。それに閉じていても、これがあれば強い力が発揮できる」
「なるほど、それで俺を抱えても飛べるってワケか。……お、もうすぐ着くね」
二人の眼前にはやがて、カルボの遠浅の海が広がり始めた。その奥に、カレッタ号が停泊するのが見える。琉は携帯電話を取り出すとそのまま話し始めた。
「あー、ジャック? もうすぐ着くよ。今カルボ島上空。……そう、空飛んでんだ、ロッサと一緒にな! 嘘だと思うなら外を見てみろよ。……ほれ見たことか! ……あん? 前をよく見ろ? 変なヒトが浮いてる!? おいおいアンタ一体何を……!?」
~次回予告~
「でかッ!? 一体、何が起きてるんだ!!」
「琉ッ、アードラーが!!」
これまた良いところで第八章が完結となりました。続く第九章にご期待下さい!