『ミッション・インポータント』 その2
カルボ島に上陸した琉とロッサ。目的物は3階の資料室にあるという。二人をそこを目指して扉を開けた……。
戸を閉めると、中は真っ暗だった。恐怖からだからだろうか、ロッサは琉の肩にしがみ付いて離れようとしない。琉はパルトネールの先端から明かりを出し、辺りを照らし始めた。
「電気点けてるのは聖堂だけか。まずは階段を探さないとな……」
ここは1階。パルトネールの光が廊下の闇を照らしだす。赤い絨毯はまっすぐに続いており、所々に鎧が飾られている。壁にかかったタペストリーにはあの旗にもあったマークがでかでかと描かれていた。
「たしかこの先に……お、あった」
琉はローブの内ポケットに入っていた地図を見ながらそう言った。階段を上ってゆく二人。窓には剣を手にした人や稲妻などが描かれており、数多くの彫刻が飾られている。さながら美術館のようであった。
その中の一つに、長い髪の女性が彫られているモノがある。顔そのものは端正で、彫刻としての出来は極めて良好であった。しかし背中に大きな羽を生やし、頭には角が生え、指先は鋭くとがっている。更にその表情は苦痛に満ちており、体中から液体があふれていた。よく照らしてみると体の中心には稲妻と思しきモノが突き刺さっており、その稲妻の先端を大柄の髭の男性が槍のように握っている。
「ひどい……」
ロッサが思わず声を漏らした。お気づきの方もおられるかもしれないが、貫かれている女性は人間体のヴァリアブールなのである。その横には無残にも切り捨てられるアルヴァンの姿もあり、ジャックに見せたらショック死しそうなくらいにグロテスクに作られていた。この他の作品も彫刻としての出来は良い。しかしその完成度ゆえに、メンシェのマークが描かれた旗がまだマシに思えてくるくらいであった。
「メンシェ教がどんな宗教か、本当によく分かる作品展だな。……ロッサ、ここは飛ばしてさっさと行こう。ヒトである俺ですら胸くそ悪い。1秒でも早く出たいくらいだぜ」
琉はそういうと、足早に廊下を歩いて抜けた。再び階段を昇ると、琉は改めて地図を見た。
「ふむ、部屋の名前までは書かれてないか。なら、一つずつシラミ潰しに探るしかないな」
「シラミ潰し?」
琉の肩にしがみついたまま、ロッサが聞いた。
「一つ一つ片っぱしから物事を片づけていくことさ。さぁ行くぞ!」
琉は壁沿いに歩き、まず一つ目の扉を照らし始めた。
『神官控室』
中からはがやがやと声がする。泊り込みだろうか? どちらにしても、目指すべき部屋ではないらしい。
「次の部屋、行くぞ」
琉はロッサにそう言うと、次の部屋に向かった。
~一方その頃1階では~
「そろそろ見張り交代だな。行くか」
「そういやあの二人が戻ってないな。どうしたんだろ?」
フードの男が二人、部屋を出た。
「なんだよあいつら、またさぼりやがったのか?」
「全く、いい加減にしろよな……っておい! これはどういうことだ!?」
一人が気がついた。扉の両端に付いた警報機が、見事に破壊されて煙を上げていたのである。
「おい、あいつらを探せ! ひょっとしたら殺されてるかも知れんぞ!!」
「ま、まさかそんなことは……」
二人は辺りの茂みや木陰を探し始めた。探し始めて約5分後。
「いた! うわ、ひでぇ……。ちょっと待ってろ!!」
二人は茂みの奥に放り込まれて気を失っている見張りを見つけ、表まで引っ張り出した。
「おい! おい! 起きろ!!」
顔を何度も叩かれ、放り込まれていた二人は目を覚ました。
「ハッ!? あ、あ、ああああああ!!」
「どうした!? いったい何があったんだ! というか、誰がこんなことしたんだッ!!」
縛られていた二人は恐怖に慄いていた。一方起こした二人の顔には焦りと緊張が浮かんでいる。
「や、奴らだ! あ、あ、あの悪魔が……」
「悪魔? 悪魔ってどの悪魔だ!!」
二人の男の声に力が入る。
「ヴ、ヴァ、ヴァリア……ヴァリアブール!!」
「何ィ!?」
「い、異端者まで……あああああッ!!」
聞かれた二人は頭を抱えて縮こまった。相当ショックが大きかったらしい。
「ローブを剥がれてる……。奴らは一体どこへ向かったんだ!?」
「し、しし……資料室……」
「資料室だと!? おい、そいつらを控室まで運んでやってくれ、セキュリティシステムを起動してくる!!」
こうしてフードの男が一人、教会の中に駆け込んで行った。
教会に潜入した琉とロッサ! それにしても、嫌~な美術館ですねぇ、ここの2階はw