『ルビーはヴァリアブールの夢を見るか』 その3
ルビーと思われたモノはロッサの体の一部だった。競り落とした人物はメンシェ教徒に惨殺され、琉達はその後を追うのだが……!
三人が港に走ると、一隻の船にフードをかぶった人達が乗り込んでいる。船にはあのエンブレムを描いた旗が掲げられ、その中の一人が透明な箱を持っている。そこには紛れもなくあの珠があった。
「待てッ!!」
琉とジャックは手持ちのトライデントをそれぞれ構えると、船まで駆け寄った。
「パルトネール・シューター! パラライザー!!」
「メイルバオム・シューター! パラライザー!!」
二筋のオレンジの閃光が、フードの男達を捉えた。驚くメンシェ教徒達をしり目に、ロッサが液化して箱に飛びつく。目の前に悪魔と称される存在が現れ、メンシェ教徒はパニックに陥った。
「これを取り込めばわたしは……くッ!?」
いつまでも慄いているメンシェ教徒ではない。船の中から何人かが飛び出してきた。箱を持ったまま敵の攻撃をすり抜けるロッサ。一方の相手は一斉に銃を構え、あの聖弾を撃ってくる。次々に撃ちこまれる聖弾は、彼女に液化する暇さえ与えず、ロッサは防戦一方となっていった。
「ロッサ! 箱をこっちに投げるんだ!!」
琉がそう言うと、ロッサは箱を琉に向かって投げた。つかさずキャッチする琉。すると相手も銃をしまい、琉の方に襲いかかった。箱を脇に抱え、パルトネールを通常形態にすると近づいてきた教徒に応戦する琉。しかしただでさえ怪我が治りきっておらず、船からは八角棒を片手に持った増援が次々に現れる。流石の琉も徐々に劣勢に追いやられていった。
「彩田君! こっちに!!」
ジャックがそう言うと、琉はジャックに箱を投げた。するとまたしても相手は箱の飛んだジャックの方に矛先を変えた。どうも今日は、この珠を持ちかえることが最優先らしい。ジャックは箱を受け取ると、ヒトのそれを遥かに上回るハイジャンプで追撃をかわし、コンテナの上に乗った。そして隙を見て箱を開け、珠を取りだすと、
「ロッサさん、これを!!」
すぐさまロッサに珠を投げた。ロッサは液化し、この珠に飛びついて行く。だがその時だった。メンシェ教の船の中から放たれた閃光が、珠に向かって伸ばしたロッサの先端を捉えたのである。珠を取る寸前に、ロッサは地面に崩れ落ちた。
「うぐ……あぁッ!」
これまで聞いたこともないような呻き声を上げ、ロッサは女性の形に戻った。片腕を押さえ、その腕からは黒い液体がしたたり落ちている。メンシェ教徒の一人が珠を拾うと、残りの教徒も船に乗り込み、そのまま港から出て行ってしまった。
「大丈夫か、ロッサ! 今のは……電撃砲か!?」
琉はロッサを抱きかかえ、言った。ロッサの顔には苦悶の表情が浮かんでおり、電撃が当たった腕は黒い液体となって崩れていた。
「彩田君、すまない。僕のせいで、ロッサさんが……」
ロッサを抱えてカレッタ号の階段を昇る琉に、ジャックが言った。
「気にするな。むしろ、あの判断は適切だったといえよう」
琉はジャックにそう返した。と、その時である。
ボトッ
琉の足元から、何かが落ちる音がした。途端にそこから煙が上がり始めたのである。琉とジャックは驚き、落ちたモノを見た。それは、さっきの攻撃を受けて黒い液体をたらしているロッサの腕だったのだ!
「おいロッサ! 大丈夫か!?」
予想外の事態に、琉は思わず大きな声を出した。落ちた腕はたちまち黒い液体となり、煙を上げて消滅した。
「わたしは……大丈夫……!!」
ロッサが力むと断面から赤い液体が噴出し、液体はたちまち腕に変わった。腕が元に戻ると、ロッサは自力で立ち上がった。だがしかし、琉とジャックはすぐにあることに気がついた。
「ロッサ、髪と胸はどうしたんだ?」
そう、ロッサの腰に達する程の長い髪が一気に首元までの短さになり、豊満だった胸もすっかり小さくなってしまったのである。
「胸と髪に使ってる分の細胞を腕に回した。雷が当たって、腕の細胞の大半が駄目になった。だから自切して、新しく生やした。体の真ん中に当たってたら死んでたかもしれない」
ロッサは淡々とそう言った。
「一体、何がどうなっているんだ……?」
奪われた第三の目! そしてまたも明かされるロッサの謎! メンシェ教の目的は?