『ルビーはヴァリアブールの夢を見るか』 その2
メンシェ襲撃によるケガもある程度治り、リハビリの励む琉。そんな彼をオークションの付き添いに誘ったジャック。ジャックの出品したルビーは高値で競り落とされるのだが……。
~翌朝~
「ここか? ……うわッ!?」
「そう、ここだ……」
ここはとある豪邸。早朝だというのに入口の周りは警官と、多数の野次馬に囲まれている。しばらくして、中からブルーシートに包まれたモノが運ばれてきた。周りでは警官たちが口々に話している。
「ガイシャはトヴェルクの富豪だ。昨日オークションで落としたルビーだけがなくなっている。ホシの目当てはそれだな」
「この家の近くで、怪しげな連中を見たという話が多いな。何でも、茶色いフードの付いたローブを着た集団がいたとか」
この日の早朝、この家からオキソ島中に鋭い悲鳴が響き渡った。何事だ、と家の者が見に行くと、そこには巨大な旗が突き刺さって死んでいるこの家の主人があったのである。今さっき、惨殺された死体がブルーシートに包まれて出てきた。死体に刺さった旗に描かれた円形に人と稲妻を象ったエンブレムを見て、ジャックの顔が歪んだ。
「あれはメンシェ教の!?」
「ああ、以前襲撃にあった際に船の旗にあんなマークがついてたと思うぞ。それに警官が話していた内容からして、奴らがやったとしか推理できないな。あいつら、自分たちのやったことに対して“罪の意識”というモノがないらしい」
ジャックと琉の発言により、周りがざわつき始めた。様々な種族が共存するこの島にとって、メンシェ教は最も忌避すべき存在だからである。最も、ヒト以外の種族はこの島から出る機会が少ないので、このエンブレムを見たことのある者はそうそういない。そしてその旗にはエンブレムの他にこう書かれていた。
『悪魔の瞳は裁かれん。これを持つ者に天誅を下す』
これを見た瞬間、琉とロッサの顔が凍りついた。記憶が半端だったとは言え、このルビーは紛れもなくロッサに由来するモノだったのである。これを見たロッサは琉とジャックに言った。
「思い出した……。あれは、ルビーじゃない……」
琉とジャックは黙ってロッサの話に耳を傾けた。
「あれは、わたしの体の一部……“第三の目”。もっと早く思い出せたなら……」
自分自身を責めるロッサ。何せ、自分の記憶が戻らなかったせいで他人が命を落としたのである。がっくりとうなだれる彼女に、琉は言った。
「ロッサ、自分自身を責めるな。そんなことより、早く奴らを追いかけないと取り返しのつかないことになるぜ! メンシェ教のやることだ、炎の中に投げ込むことくらいはやりかねんぞ!!」
ロッサを起こすと、琉はすぐに港に向かって走り出した。
「彩田君、僕も行こう。今の彩田君では体が……」
「あぁ、助かるぜ!」
朝となり、徐々に活気つく街。屋敷に群がった野次馬やメインストリートの人ごみをかき分け、三人はひたすらに港に急いだ。その最中、琉はロッサに聞いた。
「ロッサ、あれが体に戻るとどうなるんだ?」
「あれはわたしの目。それも、普通では見えないモノを見るための。そして何より、あの中には大切な記憶が……」
ロッサの表情は、それまでにはないくらいにシビアになっていた。確かに自分の感覚器であり、その上記憶が封じられたモノを取られてはたまったもんじゃないだろう。メンシェ教はそのことまで情報を掴んでいるらしい。そしてそれを手に入れるために、この島に上陸して堂々と悪事を働いたのだ。
「なるほど、妙な力を感じた理由はそれだったのか。それで宝石を調べる方法ではその正体が解析ができなかった。にしても、これが生物の体の一部だったなんて……。ロッサさん、すまない」
ジャックが言った。確かに、化石にでもならない限り生物の体が何百年も、下手すれば何千年も形を保ったままでいるとはそうそう考えられないことである。しかもジャックがヴァリアブールの存在を知ったのはつい最近の出来事なのだ。
「ジャック……。そんなことより、早く取り戻さないと!」
ロッサは取り戻すことで頭がいっぱいだった。
「二人とも、今回は誰にも責任はない。今はただ、奴らの横行を止めてロッサの体を元通りにするのが先決だ! ……ん? あれは!!」
今回は少々シリアスに参ります。前回がおふざけだったのでw