『Oの島/琉とロッサの湯けむり旅情』 その4
まさかの風呂覗きをした琉とジャック。アルヴァンの幻視術まで駆使した高度なモノであったが……。
数分後。着替え部屋には鼻にティッシュを詰めて上を向くジャックと、彼を心配そうに見つめる琉の姿があった。
「百戦錬磨に思われたジャックも、ロッサには勝てない、か……」
「この術をこんな用途に使うこと自体久しぶりだから……。そういう彩田君はよく平気でいられたね。まぁ、昨日までずっと同じ船にいたなら良い加減慣れてくるんだろうな」
包帯を代える琉。服を着終わり、のれんをくぐるとそこには先に上がったロッサが待っていた。
「ロッサ、待たせたな。何か飲むかい?」
琉はそう言った後、自販機で三人分のジュースを買った。ジュースを飲みつつ、三人は入口近くの椅子に腰をかける。
「……そんでね、久々にハイドロまで帰ったワケよ。そしたらそこで目をつけられてさ。まぁ、全員逮捕されたみたいだが」
「だったら、もうその島には入り込まないだろうね。問題はカルボだよ。先週買い物に行ったらアルヴァンってだけで弾かれたから」
そう話してる時だった。
「……あれ、皆して何をこそこそ話してるん?」
そこに来たのはおばちゃんであった。
「それにしても琉ちゃん、さっきはえらい声で叫んどったな~! ジャックちゃんは無事だったんか? どうせ隣の風景想像して鼻血吹いとったんでしょ! いや~、若いって素晴らしいわ!!」
「あぁ、まぁ……」
おばちゃんのマシンガントークに気圧され、琉とジャックはたじたじとなった。
「それにロッサちゃん! ……ちょっとええか? アンタたちも聞きなはれ」
途端におばちゃんの顔がシリアスな表情となった。何があったのだろうか。
「……琉ちゃんとロッサちゃん、メンシェ教に狙われとるやろ。こないだカルボに行ったら噂になってたからな」
「え!? あ、いや、あれは……」
「琉ちゃん、誤魔化さんでええ。ロッサちゃん、本当はヴァリアブールやろ。一目で分かったからな。気をつけなはれや」
よりにもよってこのおばちゃんに見抜かれたことに驚く琉達。しかしおばちゃんのトークは続く。
「……カルボにメンシェの教会があるねん。そこに、本がたっくさん運ばれてるのを見たで。何か書いてあるかもしれへんよ? あちらが悪魔悪魔と言ってくるには、何か根拠があるはずや」
「本が? ……確かに、言動からしてあちらの方が何かと情報を掴んでいる可能性があるな」
琉が言った。
「しかし、どうやって閲覧する気なんだい?」
ジャックが琉に問う。確かに、直接入り込もうモノなら大変な目にあうだろう。
「決まってるだろう。……密航だ。アードラーを使って裏から島に入り込む。いつかはやってやろうと思ってたしな。流石にロッサが行くとまずいからこの島にいた方が良いだろう……ってえぇっ!?」
周りにいた者は誰もが驚いた。そこには、琉がもう一人いたからだ。しかしよく見ると片方は目が赤く、瞳孔が見当たらない。本来の琉なら青い目をしているはずである。
「化けられる、のか?」
琉がそう聞くとロッサはうなずき、全身が赤い液状に変わってゆく。すると今度はジャックに姿を変えた。
「なんと!? まるで鏡でも見ているようだ。目の色以外はほぼ完璧じゃないか!!」
驚くジャック。ロッサは得意げな顔していた。そして今度はおばちゃんの方を向き、全身が赤くなった所で琉が口を挟んだ。
「ロッサ、もうやめとけ。今はまだ、人前で能力使うのはあまりしない方が良い。……ん、ちょっと待てよ?」
ロッサは元の姿に戻った。周りの様子を見た後、他に見た人がいないと確認した琉はホッとした。しかし、琉はこれが元であることを思いついた。今まで見てきたロッサの能力は液化、食ったハルムの力、鉤爪や鞭になる腕。そして新たに今判明した変装能力。使わない手はない。
「ロッサ、一緒に来るか?」
ジャックとおばちゃんは驚き、琉の顔を見た。
「それはまずい。いくらなんでもリスクってモノがありすぎる!」
「……琉ちゃん、女の子を危ない目に遭わしたらかんで?」
二人は琉に警告した。しかしロッサは、
「行く。だって、これは“わたし”のことだもの」
と、決意のこもった目でそう言った。
「よし、船が直ったら早速潜入だ! とにかく決行は明々後日にする。そうと決まれば作戦だな!」
そう言って、琉は勢いよく立ちあがった。
「確かに力ならあるし、本人がそう言うなら止めないが……気をつけろよ」
ジャックはそう言うと、琉に近づき背中をそっと叩いた。が、
「アガッ(痛っ)!? ……怪我が治ってからにするわ……」
~次回予告~
「どこかで見たような……思い出せない」
「何か、思い出の品かもしれないな」
第六章、完結です。今回はほとんどおふざけでした。なお、ここのところ中々UPすることが出来ませんのでご了承ください。