『Oの島/琉とロッサの湯けむり旅情』 その2
オキソ島にしばらく滞在することとなった二人。かつての訓練施設に寝泊まりする事に決めたのだが、そこにある男が話しかけてきた。
琉に近付いてくる男。身長は琉よりも高く、すらりとしたイメージ。肌の色は青白く、金色の目をしている。長めの金髪で、髪の間から特徴的な尖った耳が覗いていた。
「まさか……ジャック? ジャックなのか!?」
「びっくりしたよ。まさか、帰ってきているなんて思わなかったからさ……」
男の名はジャック・ハーキュリィ。亜人種の一つ、アルヴァンの青年である。訓練時代の琉の親友であり、現段階ではアルヴァン唯一のラングアーマー装者でもある。
「この人、誰?」
「あぁロッサ、彼はジャック。この施設で一緒に訓練した友達だ。そうだジャック、彼女はロッサ。話せば長くなるんだが……」
琉は手短に彼女の事を話した。同業者で、メンシェ教に染まる事が考えられない亜人種なら信頼が置けるだろう。琉はそう確信していた。
「……そうか。僕にも何か、出来る事があれば協力しよう。……特にメンシェ教は、僕にとっても許せない団体だしね」
基本的にはモノ静かなジャック。しかしその声には明らかな“怒り”と“悲しみ”が隠れていた。
「ジャック、アンタまで変な目にあったのか?」
「……この間まで乗ってた船の船長がこの宗教にハマってね、追い出されたよ。いや、元からあの人はどうも僕達を……アルヴァンを嫌ってる節があったが。仕方ないので里帰りしたというワケさ」
異なる者同士が分かりあう事は難しい。ヒト同士でも言える事だが、これが亜人種との話となれば尚更である。ましてや共同生活をしたなら必ず“軋轢”というモノが生じる。琉は考えた。相手はその“軋轢”に漬け込む事で自分達の考えを広げているのだと。
「ジャックも……いじめられたの?」
「まぁそんなところかな、ロッサさん」
しかし何故そんな事をするのかまでは分からない。ただ一つ言えるのは、メンシェ教は琉自身と相容れない立場にいるということだけであった。
「何か、久々に会ったのに辛気臭い話をしてすまない。彼女も折角この島に来たんだ、良かったらここを案内するけどどうかな?」
「良~ぃねぇ! 一番良いガイドを頼む」
「よし、まかせた!」
ジャックの顔に笑顔が戻った。そして彼の提案により、琉とロッサはオキソ島を廻る事となった。が、ジャックがポンと琉の肩を叩いた時だった。
「痛っ!」
「琉!? どうしたの?」
琉は肩を押さえてしゃがみこんだ。ロッサがそれを心配そうに覗きこむ。
「……え、ごめん!! 大丈夫かい!?」
「へへっ、大丈夫だ。ちっと無理しちまってな……」
琉はジャックに、上着を脱いで肩を見せた。肩に限らず、琉の体には大量の包帯が巻かれている。メンシェ教襲撃の際に負った傷が、未だ癒えていなかったのだ。琉はロッサとジャックの肩を借りて立ち上がった。
「こりゃひどいな……。よし、温泉に行こう!」
「そういやこの島にはあったなよな。効くかもしれん」
「温泉?」
オキソ島の近海には海底火山があり、そのマグマに熱せられて海底には温泉が沸いているエリアがある。それを汲みだし、浴場として提供する銭湯がこの島には多数あるのだ。その湯に浸かると傷の治りが早くなる等の効能があるため、地元民は元より訓練生、中には遠くの島から湯治に来る人まで存在するのである。
「いわばこの世の極楽とでも言っておこうか。入ってみれば分かるぜ」
琉はロッサにそう言った。
「それじゃ、案内しようか」
ジャックがそう言うと、三人は歩き始めた。
「そういえば琉。あの棺はどうしたの?」
歩く最中、ロッサは琉に聞いた。
「ある知り合いに預けてる。一体どんなモノか気になるからね。……どうした、気になるのかい?」
「ううん、でも気になったから……」
この島に着いた時、琉は船から発掘品を降ろした。そしてそれを、ある知り合いの所まで送ったのである。その中には、ロッサの眠っていた棺もあったのだ。明日か明後日になれば、解読作業や検査等が終わるはずである。
「封印技術か。アルヴァンに似たようなモノがあったような気がするな」
話を聞いていたジャックが口を挟んだ。
「本当か!? だったらちょっと調べてくれないかい?」
「まかせてくれ。……お、着いた着いた!」
歩いて10分ほど。一行は銭湯にたどり着いた。
「今日は空いてるな。まぁ、行こうか」
店に入る3人。昼間なせいか、銭湯は空いていた。
「こらこらロッサ、こっちは男湯! 女はあっち」
一緒に男湯ののれんをくぐろうとしたロッサは止めながら、琉とジャックは中に入って行った。
新キャラ登場、その名はジャック・ハーキュリィ!
因みに本編には書いてませんが、イケメンです。イ ケ メ ン で す。……大事な事なので2度(ry