『ワケが分からないよ』 その4
琉の機転により、二人はメンシェ教徒の手からの脱出に成功した。相手の追撃を振り切り、今二人は次なる目的地に向かっていた。
~翌日~
「と、言うワケだ。本当に危なかったぜ……」
「ねぇねぇ、誰と喋ってるの?」
琉は携帯電話を取り出し、喋っていた。
「そんな大変なことをあっさり言うなよな……。恐らく、カルボのメンシェ教徒だろうな。ハイドロの連中はあの後全員とっ捕まったんだけどね、警察によるとハイドロの教会のパソコンにメールの履歴が残ってたらしいんだ。その内容が、他の島の連中に琉を捕えろというモノだったとか。それで琉に伝えてくれってさっき交番のおっちゃんから連絡が来たんだけど……。遅かったか」
「仕方あるまい。でも次からは気を付けないとな」
話している相手は和雅である。
「しかしあんな良い女を火あぶりとか……。あいつら正気の沙汰じゃなくね?」
「……俺のことはどうでも良いのか? そうだカズ、一つ聞いても良いかい?」
琉はあることを思い出し、ポケットの中に手を突っ込みながらそう言った。
「聞きたいのはその時相手が使ってきた銃弾のことなんだ。“聖弾”って呼ばれてたけど、あれを撃たれたらたちまちロッサが動けなくなっちまってね」
琉はポケットから一つの銃弾を取り出してそう言った。
「聖弾か。メンシェ教徒の使う銃弾だね。オレも詳しくは分からないが、噂によればあれを撃たれるといわゆる“ヒトの持たない能力”の大半が使えなくなるらしい。デボノイド程のハルムに撃てば即死するという話もあるな」
「そんな恐ろしいモノが……。後で画像を送るぞ。あと……」
琉が話している最中、ロッサは流にしきりに聞いていた。
「ねぇ、琉! さっきから誰と喋ってるの?」
彼女には、携帯電話で話す琉が不思議に見えるらしい。
「ロッサ、ちょっと待ってなさい。こっちはカズと大事な話をしてるんだ」
「カズさん? ……何処にもいないけど……」
ロッサはあちこちを向いて和雅を探した。
「さっきから声が聞こえてるんだけど、ロッサ様は元気なんですかー!? てか、ケガは治ったの?」
「うわ! カズ、いきなりデカイ声出すな!! ロッサなら無事だ、俺が聖弾を摘出したからな! ……何だ、心配だったのか」
琉は笑いながら言った。
「そうだカズ。ロッサと話、するか?」
「イエーーース! 久々にそのセクシーヴォイスをお聞きしたいでごさるー!!」
琉は携帯を一端耳から離すと、ロッサの方を向いて言った。
「カズと話、してみるかい?」
「え、出来るの?」
琉は彼女の耳にそっと携帯電話を近付けた。
「さぁ、何か言ってごらん……」
「あの……カズ?」
「ヒャッホー! ロッサ様とお話しキター! しかも名前呼ばれちゃったよー! ……ぶぶぶぅーーー!!」
ツー ツー ツー……
「カズ、どうしちゃったの……?」
「多分、高確率で鼻血出してぶっ倒れたな。気にするな、だんだんと慣れて来るはずだから」
そう言いつつ、琉は携帯電話を懐にしまった。
(流石に電話とはいえ耳元で、それも彼女のウィスパーヴォイスはアイツには刺激が強すぎたな。それにしても……)
琉は考えていた。
(聖弾か。次から気を付けないとな)
「ねぇねぇ、琉。次は何処に行くの?」
ロッサは琉に聞いた。
「オキソ島に向かう。カレッタ号を修理に出し、しばらく休んだ方が良いな。それに、久々に施設に寄るつもりだ。ただ、ここから結構あるな」
琉は自動操縦に切り替えた。
「そうそう、今度は上陸ありだ。楽しみにしてろよ!」
~一方その頃~
大小様々なフィギュアやポスターの並ぶ部屋。パソコンの画面が点いており、その前にはある男が携帯電話片手に倒れている。
「へ、へへへ……。この程度で鼻血が出るとは、オレもまだまだだぜ……」
ここは情報屋のカズこと、和雅の部屋である。琉の勘の通り、彼は鼻血を出してあおむけに倒れていた。近くのティッシュを取り、鼻血を拭うと和雅は再びパソコンに向かう。
「さぁて、情報集めだ! オレだって誰かの役には立ちたいし、何より……」
和雅は部屋に貼られたポスターのうち、一番大きなポスターを見た。そこには色白の、長いブルネットの髪の女性が写っている。彼女はポスター越しに流し目を送り、口元には艶っぽい笑みを浮かべていた。
「ロッサ様……。 今度こそロッサ様とちゃんとお話しするぞぉおおおッ!!」
~次回予告~
「人の言うこと拡大解釈しないでくれるかなぁ、もう……」
「何だろうこの池、湯気が出てる……」
第五章、完結しました。タイトルこそネタですが、内容は比較的ガチにしたつもりです。
……色々とワケが分からないことになってますがw




