『サックスのなく頃に』 その4
オドべルス侵入! 迎え撃つ琉!! そしてその最中、ロッサはオドべルスを“捕食”し、更にその背中には翼が生え……!?
空で暴れまわるロッサ。最初は二十体ほどいたオドべルスの数は、現在残り四体にまで減っていた。ロッサが構えるとその指は赤く染まり、長く伸びて残りのオドべルスを貫いた。指は全て、オドべルスの急所を捉えていた。彼女の指が赤く光る。するとオドべルス達の体から炎が上がり、包まれるようにして消滅した。戦闘が終わると、ロッサは指を戻し、甲板に降り立った。
「ロッサ! 大丈夫なのか!?」
「琉……。わたしは、大丈夫」
「ロッサ……。本当に、君なのか……?」
そう言うと、ロッサは笑顔を見せた。背中に翼を生やし、異形の腕を持つ今の彼女だが、その笑顔はまさに天使のそれであった。
「船に、戻ろうか」
「うん!」
琉は操舵室に戻ろうとした。だが、
ガクッ
ロッサは膝を突いて倒れこんだ。同時に翼と腕が元に戻って行く。
「おい、ロッサ! 大丈夫じゃなかったのか!? しっかりしろッ!!」
琉はロッサを抱き起して言った。しかし返事がない。ロッサは完全に意識を失っていた。琉はロッサを抱きかかえ、仕方なく操舵室に寝かせるとそのまま音楽を止めた。
「丁度ハルムなら一掃したし、しばらくこの島に奴らが来ることもないだろうな。今日はここで停泊にしよう。アンカー・シュート!」
琉は錨を降ろすと、ロッサを寝室にまで連れて行った。
(ハルムを食らって自分の形質にする……そんな力まで持っているのか。メンシェ教にはそれが悪魔の所業に見えるのだな……)
琉はロッサの眠るそばについてやることにした。
「まさしく“天使”の寝顔だな。これを悪魔扱いするなんて……」
しばらくして、ロッサは目を覚ました。
「う……あ……わたしは……? 確か……ハルムを食べて……。他のをやっつけて……。それで、船に降りて……。……あれ、琉?」
琉はロッサの枕元で、座ったまま眠りこけていた。
「琉?」
ロッサは眠っている琉に話しかけた。
「んー……寝ちまったか……。おっ、起きたか」
眠い目を擦り、琉はロッサに話しかけた。
「びっくりしたぜ……。オドべルス食って翼を生やしたと思ったら、そのまま群れの中に突っ込んで行って、大丈夫かと思ったらあっさりやっつけて、船に降りたらバタンキューとか……」
ぐぅぅぅぅ
「ロッサ、腹が減ってるな? まぁ、あんな立ち回りを演じた後だ。とにかく食うぞ!」
そう言って琉が立ち上がり、部屋を出ようとした時だった。
「琉! 待って、思い出したことがあるの……」
「何!? 話してくれ、一体何を思い出したんだ?」
ロッサが思い出したこと、それは……
「わたし、以前もこうして空を飛んでいた気がするの。そして今と同じように、いつも誰かが一緒にいた。そして……」
ロッサは一瞬溜めると、こう言った。
「わたしには何か、やらなくちゃいけないことがある……」
「いわゆる“使命”って奴かな? その“内容”は……思い出せないのかい?」
ロッサは黙ってうなずいた。
「……ありがとう。それが分かっただけでもかなり違う。しかしどうやら、探索を急ぐ必要がありそうだな。……そうと分かれば飯だ! 腹が減っては遺跡に行けぬ、って俺の教官も言ってたしな!」
「教官?」
「その話は後だ。とりあえず飯にしようぜ!」
二人は食堂へ向かった。
(使命か……。これからの探索のキーワードは“ヴァリアブール”と“使命”だな。しかしこの事を、あちらさんは、メンシェ教は知っているのだろうか? いや、知ったとしても曲解してるのだろうな……)
食堂で野菜を刻みつつ、琉は考えていた。
(それにしても、彼女は昔からああやって飛んでいたんだな。リスクもあるが、彼女はむしろ積極的に戦わせた方が良いかもしれない。実際ハルムを食らい、その“形質”を取り込んで生きてるのなら尚更だ。それに今回みたいに、取り込むことで思い出すこともあるかもしれない)
卵を割って解き、中華鍋に流し入れる。ある程度固まったら火を切る。琉の野菜炒めは卵で閉じてあるのが特徴である。
「出来たぞ~!」
琉は出来たモノを皿に盛りつけると、テーブルに持って行った。たちまち食堂内に二人の声が響く。
「いただきま~す!」
~次回予告~
「ルームサービスか? お断りだぜ」
「わからないよ……」
因みに今回登場した“オドべルス”の名前は、“セイウチ”と“カモメ”の学名から取ってあります。モチーフはセイレーンです……どう見てもw