『サックスのなく頃に』 その3
人の精神を操る怪音波を武器とするハルム“オドべルス”に対し、大音量のジャズを流すことでかき消そうとする琉。しかし、オドべルスは別の手段を取って来た!
飛んできたオドべルスはこちらの窓に張り付き、至近距離で“歌い”始めた。
「全く、しつこいねぇ。仕方ない、アームしまって相手してやるか!」
琉はクラストアームを格納すると舵を握る。エンジンをかけ、一気に加速するカレッタ号。船の軌道は螺旋を描く。海中に振り落とされるオドべルス。
「琉、ダイバースイッチを押した方が良いんじゃ……」
「そんなモンよく覚えていたな。でもダメだ、そんなことをしたらむしろ不利になる!」
オドべルスの本領はむしろ水中で発揮される。この状況でダイバースイッチを入れることは、即ち“死”を意味していた。
「畜生、数が増えてやがるな。いくら振り落としてもキリがないぞ!」
琉の舵取りは鋭さを増してゆく。鋭角の稲妻模様を海面に描き、カレッタ号はオドべルスの猛追をかわしてゆく。
「キリがない……どうするの!?」
「タックルス(ぶっ殺す)……。カレッタキャノン!」
琉は目の前の画面にカレッタ号上部の様子を映した。同時にカレッタ号の屋根が開き、巨大な砲台が姿を現す。琉はオドべルスが一定の箇所に集まるのを見計らい、照準を合わせた。
「カレッタブラスター・ファイア!!」
叫びとともにスイッチを押す琉。砲台から青白い光線が放たれ、オドべルスの群れは空中に散っていった。
「喧嘩を売る相手を間違えたようだな」
琉は勝ち誇ったように言った。
「……!? まだいる!!」
「何? うわっ!?」
カレッタ号が揺れた。操舵室の扉からガリガリと音がする。
「しまった、いつの間に!?」
甲板に降りたオドべルスは、操舵室の扉を剥がそうと爪で引っ掻いていた。舵を切る琉だったが、ここまでこられると中々振り落とすことが出来ない。
「チッ、一部仕留め損なったか! かくなる上は……。ロッサ、下がれ!」
琉はパルトネールを取り出し、扉の方に向かって構えた。すると扉を蹴倒し、オドべルスが侵入してきたのである。同時に船内で流れる曲がアップテンポの激しいモノへと変わった。
「文字通りの戦闘開始って訳か。パルトネール・チェイン!」
流が叫ぶ。するとパルトネールの先端が鎖を伴って飛び出す。先端は刃の着いた分銅となってオドべルスの体を貫いた。
「パルトショック!」
琉の掛け声と同時に、鎖を電流が走る。貫かれたオドべルスは2、3度痙攣すると動かなくなり、消し炭のようになって消滅した。
オドべルスの攻撃は続く。1体がロッサに飛び掛かる。相手の爪がロッサにあたる寸前に、ロッサはゲル状となって攻撃をかわした。かわすと同時に飛び掛かり、オドべルスの体にしがみつく。次の瞬間、ロッサは思わぬ行動に出た。
「ロッサ!? まさか……」
チェインで応戦していた琉はその様子をみて唖然とした。なんとロッサは、オドべルスの首筋に歯を立てていたのである。同時に彼女の指が赤黒くなり、オドべルスの胸に突き刺さっていた。
「捕食……してるのか?」
ロッサに“食われた”オドべルスはその場に倒れこみ、血だまりも残さずに消滅した。その直後の事である。
「……うっ! ん、んあああ……」
ロッサは前かがみになって唸りだした。
「どうした! 腹壊したのか!?」
次の瞬間、琉の目には信じられない光景が飛び込んだ。ロッサはケープを外すと、
バサァッ!!
その大きく開いた背中に、オドべルスと同じ白い翼が生えてきたのである!
「!? これは一体……!」
呆然とする琉。ロッサは外にいる群れに目を向け、扉から外に飛び出した。
「ロッサ、やめるんだ! ……アギジャベッ(くそッ)!!」
琉はロッサを止めに行ったが、別のオドべルスの邪魔が入った。琉はパルトネールからでた鎖を相手に投げ、縛り上げる。そして、
「パルトショック!」
オドべルスが消滅すると鎖を仕舞い込んだ。琉は再び外の様子を見る。ロッサは空中で壮絶な死闘を演じていた。それも、今までの彼女からはとても想像も出来ないほどの。
彼女の両手はあの赤黒い“狩りの腕”と変わり、近付いたオドべルスを次々に引き裂いては消滅させる。その目つきはいつもの優しげなモノではない。獲物を狩る肉食獣のそれになっている。琉はあまりの変貌ぶりに慄いた。
「恐ろしい……。なんて恐ろしい力なんだ……」
ロッサの新能力判明!
……そうです、彼女は“変身ヒロイン”なんですw
さて、第四章は次回で完結です。