『サックスのなく頃に』 その2
カルボ島に着いた一行。しかし上陸は出来ず、琉はその代わりにちょっと洒落たディナーをロッサに振る舞うことにしたのであった。そして翌朝……。
翌朝。琉が起きるとテーブルにはワインボトルが2本転がっていた。
「ロッサ……。ワインはジュースじゃないんだぞ?」
「だって美味しかったんだもーん」
一晩経って酔いの覚めた琉は驚愕していた。まさか彼女が一回でワインボトル(750mL)2本を空にしてしまう酒豪だったとは思いもよらなかったからである。
「大丈夫かい? 頭痛くならない?」
「平気平気~」
琉なら確実に二日酔いになるレベルである。いや、その前に理性が何処かへ飛んでしまっているだろう。
「まぁともかく、これからはほどほどにしておきなさい。後もう少し、って所で止めるのが大人のたしなみ方ってモノだからね。一応料理にも使うし、何より俺の分のワインが……」
それでも、今までのように一人で飲むのよりは楽しかったかな、と思う琉なのであった。
「さて、今日は早速“エリアα”に向かう。ここは一番最初に発見された遺跡で最も研究が進んだ遺跡でもあるんだ。文字の解読も出来ている。しかしここは遺跡の中でも範囲が広いのでまだ見られてない部分もいくつかあるんだ。そして何より、ここは比較的浅い。水深約50mの場所にある」
舵を取りつつ、琉はロッサに説明した。
「でも、オドべルスの対策はどうするの?」
「心配御無用! 良いか、こういう時はな……。相手が音を使うなら、こちらも音を使って対抗するのだ。ってなワケで……」
琉はCDを取り出すとロッサに渡した。
「これを、そこの機械の溝の中に入れてくれ」
ロッサは言われた通りCDをセットした。
「よし。ミュージック・スタート!」
たちまち辺りにアダルトなサックスの音色が、大音量で響き渡った。
「これ、昨日の……」
「細けぇことは良いんだよ! 俺はジャズが好きなんだ!!」
そう言いながら琉は舵を切った。操舵室には様々な金管楽器が響き渡る。
「ん~、このサックスの“泣き”が良いんだよねぇ。ハルムの“鳴き”よりこの方がダントツに良い。ロッサ、そうは思わないか?」
「そう言われても……」
困惑するロッサを尻目に、琉はノリノリで舵を切っていた。おまけに口笛まで吹き出す始末である。
「この辺がエリアαだな。たしかこの近くにはちょっとした無人島が……!!」
琉は驚愕した。
「ロッサ、見ろ。いつもならあの島に船を付けて拠点にするんだがな……。今日は実に先客が多いぜ」
島には壊れた船3隻ほど打ち上げられていた。そしてその上には大量の人影……否、オドべルスが居座っていたのである!
オドべルス。ヒトを思わせる体にセイウチの髭と牙を思わせる髪と角が生え、背中にはカモメを思わせる翼が生えている。船から見ると、オドべルスはこちらを見て口をパクパクさせている。怪音波を発しているのだろう。通称“オドべルスの歌”と呼ばれているモノであるが、ヒトの声というよりはクジラの鳴き声に似るといわれている。歌だけではダメだと悟ったのか、オドべルス達はどこからか竪琴を取り出して弾き始めた。
「コンサートか、盛大にやってくれているねぇ。そうだロッサ」
「え、何?」
「あいつらの動向を見張っといてくれ。今のうちに遺跡をクラストアームで探っておくことにする」
琉はそういうなりクラストアームを展開し、遺跡のガレキをどかし始めた。
「今回は“字”の書かれているモノは全部回収だ。まだまだ結構見つかるモンだねぇ~!」
琉はジャズをBGMにクラストアームを操りどかしてゆく。一方ロッサは外にいるオドべルス達の様子を見張っていた。それに対してオドべルス達は、“歌う”のをやめると、竪琴も片づけて一カ所に集まり、何やらこそこそ話し始めた。その顔にはどこか焦りといらだちも浮かんでいるようにも見られる。そしてしばらくした後、オドべルスが数体、こちらに飛んできたのであった!
「琉、オドべルスがこっちに飛んできた!」
「何ィ!? あいつら一体何をする気だ?」
オドべルス飛来! 琉たちの運命やいかに!?