『サックスのなく頃に』 その1
海底遺跡“エリアα”の探索をすべく、最寄りの島である“カルボ島”を目指す琉とロッサだったが、ロッサは何と現代の文字が分かる事が判明し……!?
ここはカレッタ号船内。操舵室には男女が一組。男は舵を取り、女は本を読んでいた。
「現代の字、分かるのかい?」
琉はロッサに聞いた。何せ彼女は古代遺跡の棺から見つかったばかりなのだ。そして遺跡の文字は皆現在の文字とは異なるモノである。
「“字”が書いてあれば内容が分かる。話をする時も、“言葉”を話してくれれば言ってる事が分かる。その時その形はどんなモノでも」
ロッサは平然と答えた。しかし琉は驚きが隠せない。
(つまり“言語”さえあればその“意味”を直接読むことが出来るのか。そして俺と話をする時も、自分の頭にある意味を俺に通じる言葉に直して喋っている……。つまり彼女は実質全ての言語を操る能力をもっているのか)
琉は自分なりの結論を出して自分を納得させた。
(しかし今は記憶喪失だ。その上当時なかったモノは知らない。なるほど、概念にないモノには弱いのか……)
琉は舵を取りつつ考えていた。
しばらくした後のことである。
「そろそろ、自動操縦に切り替えるか」
琉は自動操縦のプログラムを起動し始めていた。そこに、
「ねぇ、琉……」
ロッサが琉に話しかけてきた。
「何だね、ロッサ」
いつも通り、対応する琉。しかし次の瞬間、ロッサの口から思いもかけぬ言葉が発せられた。
「琉はわたしの事……いじめたりしないの?」
「!? 何を言い出すんだよ、急に?」
琉は驚き、舵を切る手を思わず止めてロッサの方を向いた。
「わたしは、“悪魔”なんでしょ……?」
「…悪魔がどうした。君は何か悪いことでもしたのか?」
琉はあの宗教のことか、と気付いた。そういえばさっきからあの本を読んでいる。
「何も思い出せない。ただ、この本の通りわたしのせいで皆海に沈んだのなら……」
「やめろッ!!」
琉は思わず大きな声を出した。そして船を素早く自動操縦に切り替えると、ロッサの肩を掴んでこう言った。
「……良いかロッサ、その本は信じるな。それに俺は、君を“悪魔”だなんて思っちゃいない。だから、いじめたりなんかするモンか! それにそんなことをする奴は……」
琉は一端ためると、こう言った。
「この俺が許さない。だから、この船にいる時くらい安心してくれないかな?」
「琉……!」
ロッサはそのまま琉に抱きついてきた。
「ロッサ、辛かったんだな……」
琉はそっと抱き返したのであった。
その晩のことである。琉は再び自分の手で舵を切っていた。
「ロッサ、もうすぐ着くぜ。ここがカルボ島だ!」
カルボ島。琉の故郷であるハイドロ島より都会な島である。
「何か、島全体が光ってる……」
「ここは別名を“眠らない島”という。ハイドロと違って今上陸しても色々と手に入るのが特徴だ。ついでに言っとくと住んでいる種族の大半はヒトだ。だからかな……」
琉は声を落として言った。
「……メンシェ教があっさり入り込んだんだろうな。ロッサ、今回の上陸はなしにする。ここは君をいじめる連中がたくさんいるかもしれん」
「分かった……」
ロッサは残念そうな声を上げた。
「何、その代わりに美味い料理なんてどうかな?」
ロッサの顔に笑顔が戻った。
「よし、そうとなれば……。久々にワイン開けるか!」
「ワイン……?」
「ロッサ、食堂へ行くぞ!」
琉は食堂に着くと早速料理を始めた。鍋に蒸留前の海水を入れて沸かし、ペンネを茹でる。キノコとトレビスを取り出すと食べやすい大きさに切る。中華鍋を取り出すとそこに油を敷き、そこに先程の食材を入れてザッと炒め始める。塩コショウを振った後は赤ワインとトマトの缶詰を加えてじっくり煮込む。最後にペンネを入れて絡めれば完成である。真水の手に入りにくい船上において、煮込み料理は御馳走だ。しかしこれは例外である。水分なら缶詰とワインから取れるからだ。
「出来たぞ~!」
琉は早速料理と、先程料理に使った赤ワインとグラスを持っていった。
「わぁ、すごーい!!」
「へへっ、そうかい? そうそう、こいつが“ワイン”だ。今日出したのは赤ワインって奴だ。白ワインってのもあるけどこれまた美味いんだよね。まぁ、飲めば分かるさ」
琉はワインを二つのグラスに注いだ。そしてそっとグラスを持ち上げるとロッサのグラスに近づけていき、
「乾杯。飲む前にはこうするのさ」
流はワインを飲みかけると、こう言った。
「ムードも出すか。ちょっと待ってな」
「ムード?」
「そう。料理には、それに合ったムードってモノがある」
琉は近くのレコーダーにCDをセットすると、たちまち部屋の中にはアダルトな雰囲気のサックスの響きが広がり始めた。
「では、いただこうか」
今回のタイトルは完全にネタですw
ちなみに漢字にしますと“鳴く”ではなくて“泣く”です。