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やっぱり一緒に……

迷子になっていたダークエルフのセレナさんと三階層まで一緒に行くことになったが、俺の思惑ではこのまま五階層まで行きたいなというところである。



「貴様の戦い方は素人臭い」


そんなことを言われたのはパーティーを組んで初めて出会ったゴブリンを倒した後だった。

まずは俺の技量を確かめたいとかで俺一人での戦闘である。

彼女の見解は否定しようもない。

俺はついこの前までは平和ボケしていると言っても過言ではない国で生活していたのだ。

もちろんケンカの経験が一度もないなんていうなまっちょろいことは言うつもりはない。

だけどそれはやはり素人による暴力であるから、学生時代をケンカに明け暮れてるような不良でもない限りケンカ慣れするなんてことはない。


「まあ、素人なんで……」

「では、なぜ探索者となったんだ? 金か」

「う〜ん……そうゆうことで納得しといてください」


間違ってもいないしな。


「俗物め」

「はは……」


苦笑いするしかない。


「そうゆうセレナさんはどうして探索者に?」

「自分がどこまでできるか見極めるためだ。それに、この迷宮を攻略できれば後世にまで名を残すことができるからな」

「名を残すことが望みなんですか?」

「そうだ。ダークエルフの私が名前を残すことに意味がある」

「というと?」

「フンっ、貴様もわかっていることだろうが、ダークエルフはエルフの亜種とされて地位はそんなに高くない。それどころかエルフどものなかには我らの種族を下賎な血として家畜扱いする者までいる始末だ。しかし、最難関たるこの迷宮をダークエルフたる私が攻略してみろ。ダークエルフはエルフどもよりも優れた種であると知らしめることができるではないか」


つまりは種族のために探索者になったわけね……

そりゃまた大きなものを背負ってんだなあ。


「少し語りすぎたな……次は私が戦う。光栄に思え、人間族のお前に本当の戦いというものを見せてやる」


そう言ってセレナさんは肩にかけていた武器を手に取る。

彼女の武器は何の変哲もない木製の弓。

そしてそれに道具袋から取り出した矢をつがえる。

視線の先にはゴブリンが小さく見える。

いま俺たちがいるのは長い直線でその距離は三十メートルほどだろうか。

当たるのか?


「シッ」


矢が放たれる。

それはまっすぐ目標に向かっていく。

しかし……


「あっ」


目標の前で地面に落ちてしまう。


「……失敗した」

「こうゆうものなんですか?」


地面に落ちた矢を見つめながら聞いてみる。

失敗した時の顔を見ないのは大人としての礼儀だ。


「違う。距離を見誤っただけだ。なぜか目が霞むのだから仕方ないだろう」


どんな言い訳だよ。


「次こそは大丈夫だ」


そう言って次に彼女が放った矢は見事にゴブリンに命中した。


「ほら、問題ない」


なんかすげぇ自慢げなんですけど、一射目外してたら説得力皆無だ。


「とりあえず、矢を回収せねばならん」

「回収ですか?」

「あれはタダではないのだ。回収して再利用できるならそれに越したことはない」

「そうなんですか。んじゃ行きましょう」


倒したゴブリンに近づいていく。


「そういえば、倒したモンスターのドロップアイテムって……」


俺はそう言って後ろについてきているであろうセレナさんにドロップアイテムの分け方について相談しようかと思ったのだが、そこに見えた光景に驚愕する。


「セレナさん!!」


なんと彼女が倒れているのだ。

これは一大事だと思って駆け寄る。


「大丈夫ですか!」


一体彼女の身に何が……


グウウゥゥゥ……


聞こえた音に時が止まる。

これはわりと聞きなれた音ではないだろうか。

いや、でも、セレナさんのような美女がまさか……

そう思って彼女を見ると腹ばいになっているせいで顔は確認できないがその褐色の肌が赤く染まっているのが分かった。耳に至っては真っ赤といっていいだろう。

こりゃ確定か?


「……おなか減ってるんですか?」

「うるさい」

「減ってるんですね?」

「言うな」

「倒れるほどってどれくらい食べてないんですか?」

「…………四日だ」


なんでそんなに……

もしかして食事する金もないほど貧窮しているのだろうか。

いや、まさか。まさかではあるが


「セレナさん、迷宮にどれくらいいるんですか?」

「……十日」

「もしかしてずっと迷って……」

「それ以上言わないでくれ……」


この人どんだけ迷子になってるんだろう。

探索者とかまったくあってないだろ。


「屈辱だ……」


呟くように言われたその言葉に苦笑する。

よくわからんが、ダークエルフも俺とそう変わらないんだな。

腹も空くし、それで倒れたりもする。

たぶんトイレだって……

おっと、これは今は関係ないな。

いま重要なのは


「これ食べます?」


そう言って取り出したのは迷宮に入る前になけなしの金で買った携帯食料。

自分で食べるために買ったのだが、腹を空かして倒れてる人を目の前にして隠しておくほど落ちぶれちゃいない。

まあ、これが俺も同じように空腹だった場合、渡すかわからないが、朝はマダムたちと食しているので問題はない。

でも、五階層まで行くのに時間がかかった場合を考えて半分は残しとくべきだろうか?


「いいのか?」

「全部いっちゃってください」


アカン……そんなウルウルした目で見られたらたまりません。

五階層までのこと?

そんなの知らん。

成せば成る。行き当たりばったりで何が悪い。

それが原因でセレナさんに迷惑をかけた?

それはそれってことで。

俺が差し出した携帯食料を一心不乱に食べるセレナさんを見る。

少しずつ齧るところが小動物みたいでかわいいっす。


「あのですね。やっぱ五階層まで一緒に行きましょう」


俺の言葉にセレナさんが食べるのをいったん止めて俺を見つめたのだが、見つめたまま、また食べ始めた。


「ほんとは今すぐ一階層に戻って迷宮から出るべきだと思いますが、聞き入れてくれないでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、やっぱり一緒に五階層に行きましょう。そのほうが多分、はやくセレナさんは迷宮から出れます」

「だが、人間族なんかと……」

「ストップ! 意地張るのも勝手ですけど、さすがにシャバの空気が欲しいでしょう?」

「シャバって……」

「ともかく! 俺の携帯食料食べた交換条件としてここはひとつ」

「う、致し方ないのか……」

「つまり、一緒に行くってことで決定っすか?」

「ああ」


いよっしゃー!

不謹慎ではあるがこの子が迷子でよかったー。


「ではいくぞ」


そう言って彼女は立ち上がり、歩を進めるのだが……


「方向逆でっせ」


なんでわざわざ回れ右をするのだろうか。

もはや二階層にこれたこと自体が奇跡に思えてきた。




それから何の山場もなく三階層への階段を見つけるに至った。

ドロップアイテムに関しては折半していくということに決まったが、流石は十日も迷宮にいるだけあって拾えるアイテムは全て道具袋の限度いっぱいらしい。

ちなみに彼女の道具袋は銅の糸で作られ、魔法をかけられた道具袋で、俺の持つ普通の布のものよりも優れていて重量無視で道具が各20個も入る。

なんとも羨ましい。

聞いたら毎月決まった日に神殿で売ってくれるらしい。

道具袋の価格は種類によって異なり、下から布・銅糸・銀糸・金糸とあるみたいだ。

更に上のものもあるようだが、そちらは特注品で相応の金とランクが必要ということだ。。

俺の持つ布の道具袋でさえ1万Rだってんだから怖い。これでさえ初心者用でご奉仕価格って奴らしい。

他のものは銅糸のもので10万、銀糸のものが100万、金糸のものが1000万なのだからそれ以上のものとなると普通に考えたら1億?

……絶対買えないな。


とにかく基本的にこの階層のアイテムは俺が貰うことになった。

とはいっても白の魔石(小)は入らないので、拾うのはゴブリンコインと動物の毛皮が出たときだけだ。




三階層も雰囲気は同じだった。


「セレナさん、地図見せて」


俺はセレナさんから地図を受け取る。

彼女が見てもほとんど意味をなさないからだ。

彼女も素直に地図を差し出して、俺が地図を見てるのを横から見ている。

ここまで来るまでにわかったことはセレナさんは方向音痴をかなり気にしているということだ。

それを弄った時の反応が面白い。ついついいらないところでネタにしてしまう。


「で、どっちに行くんだ?」


俺達の前には早速の分かれ道がある。

左右と真っ直ぐに延びる三つの道。


「セレナさんはどの道だと思う?」

「右だ」

「左が正解だよん」


流石はセレナさん。

即答で反対を選ぶとは……


「馬鹿にして……迷宮出たら殺す」


ヤバい……セレナさん本気だよ。

導火線に火を入れちゃった?

からかうのが面白くて、つい……

これ以上方向音痴をネタにからかうのは控えよう。


「と、とにかく進もうか。この位置なら二階層よりも歩かなくて済みそうだ」


焦りながら左の道に入ると二十メートルほど先にモンスターの姿を捉える。

見たことないモンスターだ。

いや、正確には見たことあるような姿ではある。

ただ大きさがまったく違う。

俺の視界に現れたのは体長1メートル近くある蜂だった。


「キラー・ビーか毒はないが尻の針での攻撃には注意しろ」


見ればこちらに気づいて向かって来てるのだが、その尻にはぶっとい針が姿を見せている。

先端恐怖症なんてものの名前を耳にしたことがあるが、そうじゃなくてもあれには恐怖するだろう。

これは断じて動けない言い訳ではない。


「どけ」


立ちすくむ俺を押し退けてセレナさんが前に出る。

そして弓に矢を番え撃ち放つ。

続けざまに三射射られたそれはキラー・ビーの頭、胸、腹のそれぞれに命中しキラー・ビーを地に落とす。

程なくしてキラー・ビーは光となって消え、後には白の魔石(小)と小さな壷みたいなものとキラー・ビーに刺さっていた三本の矢が残る。

セレナさんは矢を回収したのち、壷を拾うと袋の中に入れてから、自身の手もその袋の中に入れる。

恐らく拾ったアイテムの確認をしてるのだろう。


「ハチミツか……」


そうじゃないかと薄々感じていたが、やはりハチミツだったらしい。

彼女が俺にその視線を向ける。


「ビビって動けないなど、私がいなければどうするつもりだったんだ?」


その通りだ。

今までのモンスターは前の世界ではお目にかかれないような存在だったので、戦えた部分もあった。

しかし、蜂という俺自身に馴染みがあり、良く知った存在が巨大になって襲い掛かってくるということに俺は恐怖を抱いてしまった。

セレナさんがいなかったら……どうなってたんだろう。


「行くぞ、ヘタレ」


そう言って俺の前を歩くセレナさんに黙ってついていくことしかできなかった。

しばらくは一本道でよかった……



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